表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅢ  作者:
8/77

始まりの始まり⑧

 通路は少し先でふたつに別れ、どちらも急な下り坂になっているようだ。


「ハルト」


「おう。――魔力感知、五感アップ! 肉体強化、肉体硬化」


 グランに呼ばれ、俺はバフを練り上げて広げる。


 魔力感知は全員分、五感アップはディティアとボーザックの分をかけ直す。


 この狭い通路じゃ反応速度を上げてもあまり意味がなさそうだしな。それなら硬化にしておくほうがいい。


「右の通路です。行きます」


〈疾風〉はそう言って俺たちをぐるりと見回す。


 俺たちも頷きを返し、慎重に一歩を踏み出して固い通路の感触を確かめる。


 ――そして、しばらく進んだ先。


「あれ……魔力か?」


 通路の先から光が漏れているのに気付いて、俺は目を凝らした。


「そのようね。いくつか――魔力の塊がある気がするわ。魔力結晶かもしれない」


 ファルーアが応えて龍眼の結晶の杖を両手で握る。


 どうやら部屋があるらしく、ディティアがさっと入口に身を寄せて――目を瞠った。


「これ――」


「どうしたディティア」


 グランが言うと、ディティアが眉尻を下げて部屋に入る。


 俺たちも続いて――眉を寄せた。


「なんだこれ……スライム? 海月くらげ?」


 行き止まりの部屋……その中央にあるのは蓋付きの大きな水槽で、中には並々と満たされた水と鈍色のスライムだか海月くらげだかわからない魔物が一匹。


 うわ、でかいな。俺くらいなら取り込めそうだぞ――こいつ。


 ぞくぞくと背筋に悪寒が奔るけど、俺は頭を振って意識を切り替えた。


 壁際には棚があって、瓶に入れられた無色透明の液体がずらりと並んでいる。


 魔力の塊はこの液体で、それぞれが発光しているのだ。


「ディティア、ボーザック。気配はこれか?」


 グランが唸りながら問い掛けると、ふたりは顔を見合わせて首を傾げ、訝しげな顔をした。


「もっと大きかったような気がしたけど――ボーザックは?」


「あれ、ティアも? でもほかにはなにもいないし。やっぱりこいつなのかな」


 そこでストーが興味深そうな顔で棚に近寄りながら、口元に手を当てる。


「これは――ふむ」


 そしておもむろに瓶を手に取り、ポンッと音を立てて栓を抜いて――って!


「おいストー! 大丈夫なのかそれ⁉」


 慌てて俺が言うと、ストーは液体の臭いを嗅いで……こともあろうに床にぶちまけた。


「ちょっ、なにやってんのさストー!」


 びしゃぁっ! と音がして光を発する液体が床を照らし出し、近くにいたボーザックが飛び退いたところで――俺は咄嗟に双剣の片方を構える。


「お、おいおい――」


 俺の視線の先で、水槽の中にいる魔物がぶるぶると震え出したのだ!


 ディティアがぎゅっと足を踏ん張って腰を落とし、ボーザックも胸の前に俺の剣を構えた。


 ところがである。


「大丈夫です皆さん。私の予想が正しければこの魔物は――」


 ストーがふふと笑みを浮かべると同時。


 鈍色の魔物が水槽の蓋をぶち破って飛び出し、液体をぶちまけた床に信じられない速さで取り付いた。


「うわっ!」


 後退る俺の横、ファルーアがこの上なく嫌な顔をして杖を突き出す。


 その凍るような視線はぶるぶるしているスライムだか海月だかに向けられていて――うわぁ、こわ……。


「ストールトレンブリッジ。これは燃やしてもいいの? いいわよね?」


「ええっ! 〈光炎のファルーア〉さん、ちょっと落ち着いてください!」


「説明もなしにどの口が言うのかしら? 一緒に消し炭になりたいの?」


「と、とんでもない! えぇとですね、この魔物はこのとおり魔力に反応して――」


 珍しくぎょっと目を見開いたストーが両手をファルーアに向け、落ち着かせようと試みたところで――俺は首筋がチリチリするような感覚にはっとあたりを見回した。


「――来ます! 大きい、さっきの気配です――!」


「待って待って! これ、壁の向こうだけど⁉」


 鈍色の魔物から視線を外したディティアとボーザックが通路の正面、なにもない岩壁に向き直る。


 瞬間、ズドォンッと体の底に響く衝撃で部屋が震えた。


『なにか』が壁に体当たりをしているんだ――!


「おい! どういうことだストー! この向こうになにがいやがる⁉」


 グランが怒鳴るように吼えるけど、俺はぶんぶんと首を振って重ねるように口を開く。


「グラン! やばいぞ!」


 ビシッ


 壁にひびが走り『水が』吹き出してくる。


「これはまずいわね」


 冷静になったファルーアがくるりと杖を回し、一歩下がる。


「あぁ……くそ! 下がれ!」


 グランが大きく腕を振り、俺たちはその腕の動きと同時に踵を返して通路へと駆け込んだ――けれど。



 ゴ バ ア アァ――ッ!



 崩れ落ちる壁とともに濁流がなだれ込む。


 弾けた瓦礫はあっという間に呑み込まれ、通路の壁をなぞるように飛沫しぶきを上げる水の壁が迫ってくる。


 俺は咄嗟に手のひらの上にバフを練り上げ、一気に広げた。


「速度アップ! 速度アップ、速度アップ――走れえぇッ!」


 轟々と腹の底から響き渡る崩壊の音。


 固い地面を蹴っては踏み締め――俺たちは駆けた。


 あぁもう――なんで冒険の始まりってこんなのばっかりなんだろうな!


お休みですが投稿です。


外出の自粛が喚起されるなかですが、皆様どうやって過ごされているのでしょうか。

活動報告やTwitterにもいろいろ上げていきたいと思いますので気が向いたらどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ