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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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悠久の探究④

******


 研究所から飛び出した俺たちの前で――っていっても俺は籠の中から身を乗り出しているだけなんだけど――繰り広げられていたのは『ウィルヘイムアルヴィア皇帝による演舞』だった。


 少し離れた位置にいるキィスのそばにはストーがにこにこしながら居座っていて、それを囲むように帝国兵が守りを固めている。


 たぶん……帝国兵がウィルを助けないのは命令でもされているんだろうな。どうしようかとオロオロしているのがわかった。 


 ……当のウィルは冷ややかな微笑を浮かべ、ただ真っ直ぐに立っている。


 彼を取り囲むのは六人の研究服を身に纏う『研究者』たちなんだけど、正直なにがどうなっているやらさっぱりだ。


 しかもウィルの得物は細身のダガー一本だけ。


 それなのにいざウィルの『演舞』が始まると、流れるようなすさまじい剣捌きによって言葉どおり縦横無尽に攻撃が繰り出される。


 ――強い。これが……アルヴィア帝国皇帝なのか……。


「どうした? この程度で俺を倒すつもりだったか?」


 挑発をするウィルの赤茶色をした髪の頭が踊るように巡らされる。


 あれが一朝一夕で身に付く戦い方じゃないのは誰でもわかるけど、ダガー一本でここまで戦えるなんて誰も思わないだろう。


「……ふむ。あれは雇われた者たちだな。私は彼らを見たことがない」


 ボーザックの背中からアンバーが律義に教えてくれたけど、心配する必要はなさそうだ。


「爆発はウィルをおびき寄せるためだった――つってもこりゃ誤算だろうよ」


 そう言ったグランが大盾を構える。


「もうひと暴れするのもいいかもねー」


 ボーザックはそう言いつつも背負ったアンバーをどうするか迷っているようだ。


 ファルーアは動けそうにないし、俺はこんなだし。


 とすると、いま動けるのは――。


「……私が行きます」


 シャアンッ


 そう言って軽やかに双剣を抜き放った〈疾風のディティア〉はゆるりと肩の力を抜いて息を吸う。


 彼女が纏う空気は凛としていて、静かな声音とは裏腹にやる気に満ち溢れているのがわかる。


 それを確認したグランがにやりと笑うのが見えた。


「――おいウィル。いらねぇかもしれねぇが手伝わせてもらうぞ。片付けたら風呂貸せよ?」


「はっ、そんなものでいいのか? ……そろそろ終わらせようと思っていたところだ。ふたりくれてやる」


「なんだ? それだけか? ……よし、ハルト!」


 グランは左手で顎髭を擦ってから首を鳴らし、俺と目を合わせる。


 じゃあ、存分に暴れてもらおうか。


「任せろ! 肉体強化、肉体強化、速度アップ、速度アップ!」


 俺がバフを広げると、グランもディティアも躊躇いなく踏み切った。


「いくぞ、おらあぁ――ッ!」


「はぁ――ッ」


 気合一閃。


 ふたりの武器がそれぞれ振り抜かれ――大盾を食らった男が派手に吹っ飛び、双剣を受けた女は柄の攻撃で打ち据えられて昏倒する。


「グランさん、あとふたり――いただきましょう!」


「三人でもいいぞディティア! おおぉらッ!」


 声を掛け合い身を翻したふたりが交錯したかと思うと、次の研究服たちが宙に舞う。


「――なんか楽しそうだな……」


 そこで思わずこぼした俺に〈爆風〉が笑った。


「ならば俺たちも参戦するか?」


「いや、いい。やめてくれ」


 即答してため息をつくと、すでに勝負は終盤も終盤。


「やるな『冒険者』! 歯の二、三本折ってやってもかまわんぞ」


 皇帝らしからぬ言葉を意気揚々と吐くウィルが残りのふたりを次々と崩れさせ――あたりはあっという間に平和を取り戻す。


 ざわめいていた帝都民たちがよくわからない歓声を上げるのを受けたウィルは、気絶している男の頭を踏み付けて不敵な笑みを浮かべた。


「……聞け、我が帝国民よ。これは俺を狙った者による反逆だ。安心するがいい。すでに尻尾は掴んでいる」


 その言葉に、俺ははっとする。


 尻尾は掴んでいるだって? じゃあウィルは彼らを差し向けたのが誰かわかっているってことか?


 え、それじゃあ自分が狙われていることも知ってた……?


「まさかウィルが最初からここまで予測していたなんてこと……ないわよね?」


 ファルーアも眉をひそめるけど……俺に聞かないでくれよ。


 なんとか首を振ると、〈爆風〉はひとりカラカラと笑った。


「喰えない男だと思っていたがここまでとはな!」


水曜分です!

よろしくお願いします!

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