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逆鱗のハルトⅢ  作者:
64/77

悠久の探究③

******


 あれよあれよという間に〈爆風〉は触手を三本切り離した。


 ファルーアはその度に切り口に氷の華を咲かせ、体液が飛び散るのを阻止しながらも魔物へと杖をかざし続ける。


「……ふむ。こんなものか?」


〈爆風〉が四本目の触手を切り離す頃には俺の声は枯れ果てていたし、なんならめちゃくちゃ気持ち悪い。


 ボーザック、いつもこんな感じなのかもな……おぇ……。


「どうだ。いけるか〈光炎〉?」


「ええ。大丈夫よ〈爆風のガイルディア〉――動きがなくなったわ。あとはこのまま凍らせるか……いっそとどめを刺すかね」


「それは上々だ」


 言いながら軽い足取りで皆の横に戻った〈爆風〉のそば、苦笑しているディティアと目が合った。


 手を振ってあげたいところだけど――まだ腕が重いな。


 それでも少しずつ筋肉が反応しているような気がする。


「ハルト君、その……もう大丈夫なの?」


「ん、ああ……そういえば魔力活性バフしなくてもなんとかなってるか……大丈夫だと思う」


「魔力活性って?」


「あーそっか。そこからだよな。そういえばディティア格好よかったぞ。『――誰であれ、なんであれ、私たちがなんとかします』」


 真似してみると、ディティアの頬にみるみる朱が差した。


「え――えっ?」


「動けなかったけど意識はあったんだ。ずっと」


「ず、ずっと⁉」


 上擦った声で応えた彼女は大きく肩を跳ねさせると、そっと目を逸らした。


「あ、あのう、感覚があったりはしたでしょうか……」


「おう。触れてもらった腕の感覚もばっちり」


「……ッ!」


 彼女が両手で顔を覆ってへなりとしゃがみ込むのを、ボーザックが憐れみを込めた目で見ている。


「お前もありがとなボーザック」


 口にすると、頼もしい大剣使いは俺に視線を移し唇の端を引き上げてニッと歯を見せた。


「俺はなんにもしてないけどね」


 ……くそ、格好いいなお前!


 なら応えてやるしかない、そうだよな。


「それじゃ、仕上げといくか〈不屈のボーザック〉」


「いつでもいいよー〈逆鱗のハルト〉」


 俺は籠の中で目を閉じて手に集中し、バフを一気に練り上げた。


 活性化された魔力はもう大丈夫みたいだ。


 熱い脈動が俺の中で感じられ、みるみる形になっていく。


「肉体強化、肉体強化、肉体強化ッ!」


「やっぱハルトがいないとね!」


 言うが早いが地面を蹴ったボーザックは白い大剣を閃かせ、一気に魔物へと到達した。


「たああぁ――ッ!」


 凍てつく空気に呼吸を煙らせて吼えるボーザックの大剣が振り下ろされる。


 散った氷がランプに照らされてチカチカと瞬くのがどこか幻想的だった。


「――ふむ、どうやら君たちの勝ちのようだ。実験は失敗か」


 そのときアンバーがこぼした言葉が耳朶を打ち、俺は思わず笑ってしまった。


「俺たちが負けるわけないだろ。――アイシャの冒険者〔白薔薇〕を舐めんなよ?」


「ハルト……その格好でよく言えるな、お前」


「ってグラン! 茶化すなよな!」


「ハルトらしいわね、まったく……」


 ファルーアが杖を下ろし小さく蹌踉めいたのをグランとディティアが支え、ボーザックはブンと大剣を振り払ってからくるりと踵を返し笑った。


「これが俺たちって感じだよねー」


「ふふ、そうだね! ね、ハルト君!」


 ディティアが応え、俺に向けて微笑んでくれる。


 細められたエメラルドグリーンの双眸につられて……俺は唇の端を持ち上げた。


「……だな!」


「纏まったようでなによりだ。……では戻るとするか」


 伝説の爆の冒険者が揺する籠の中、俺はなんとか頷くのだった。


******


 研究所の大穴から外に出るまでにアンバーの話を聞いた俺たちは、やっぱりあの魔物は災厄だったんだろうと結論付けた。


 とはいえ……もう大丈夫のはずだ。あとはウィルたちに任せればいい。


「そういえばさ。なんで研究所を爆破したの?」


 アンバーを背負うボーザックが聞くと、彼は薄く笑みを浮かべて首を振る。


「――あれをやったのは私ではない」


「…………え」


 籠の中で固まった俺に、アンバーは続けてふふと笑った。


「そもそも私の目的は『魔力結晶』と『彼』だけだ。よく考えたまえ。私がキィスヘイムアルヴィア様のもとへ行けたのは何故だと思う?」


「――それは、あなたの権力だけでこと足りるものではない……ということかしら?」


 ファルーアが聞き返すとアンバーは頷いた。


「当然だ。私はただの研究者。権力などとは無縁なのだよ」


「そんな……じゃあキィス様やミリィ様以外にあなたに加担した皇族がいるってことですか?」


 ディティアがぎゅっと眉根を寄せ、困惑した声で問い掛ける。


 そこで俺からは見えない位置――〈爆風〉の前を歩くグランがため息混じりに言った。


「――王族や皇族はどこも問題ばかり抱えていやがるな」


「え、ちょっと待ってよ。いま上には皇帝もキィス様もいるけど――やばいんじゃない?」


 ……アンバーを背負うボーザックが目を見開いた次の瞬間。


 耳に微かな音が届き――俺は咄嗟にバフを練り上げた。


「五感アップ!」


 聞こえるのは金属同士がぶつかり合う剣戟の音……そしてわあわあとがなり立てる複数人の声。


 嫌な予感がふつふつと湧き上がってきて……俺はごくんと息を呑んでから言葉を発した。


「誰か戦ってる――!」



火曜日分です!

よろしくお願いします!

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