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逆鱗のハルトⅢ  作者:
63/77

悠久の探究②

******


「は……ハルト君……! って、えぇっ⁉」


 いの一番に振り返ったディティアが驚いて固まったのが手に取るようにわかる。


 俺はその反応に生温い笑みを返した。


「ぶはっ……あははっ、なにそれハルト! あっはは!」


「お前……そりゃねぇだろうよ……」


 噴き出したのはボーザックで、グランは笑いを堪えながら顎髭を擦る。


 頬が引き攣ってるのバレてるからな、グラン……!


「うん、やはり格好はつかないな〈逆鱗〉」


 そこで『俺を背負う〈爆風のガイルディア〉』が笑った。


 ……うん、まあそうなんだけどな。


 俺は両肩に掛けて背負う大きな籠のようなものに入れられて、肩から上を出した状態で彼に背負われているのだ。


 どうやら魔力結晶を運ぶために使われている籠らしく『これなら楽に運べますわ! さあ!』なんて言ってミリィが意気揚々と準備したものである。


「仕方ないだろ……バフ切れて動けないんだから。笑いたきゃ笑っていいよ。ふん」


 鼻を鳴らすと、杖を掲げるファルーアがカツンと一歩踏み出し妖艶な笑みを浮かべた。


「まったく。気が抜けたらどうしてくれるのかしら」


「……そんなヘマしないだろファルーアは」


 思わずこぼすと、皆が俺に向かって笑う。


「本当、締まらないわね……ハルトらしい気もするけれど」


 ファルーアが呆れた声で言うけど――ダサいことは俺が一番わかってるって!


「あぁもう! 覚えとけよボーザック!」


「えぇっ、なんで俺なのさ⁉ 自分で笑っていいって言ったじゃん!」


「ったく……じゃれてる場合じゃねぇだろうよハルト、ボーザック。とにかくいったん集中しろ。――それで? 仕留めきれるかファルーア」


「どうかしらね――」


 そこでグランが空気を引き締め直し、ファルーアは少し考える素振りを見せる。


 するとディティアがつんと俺の肩を突いた。


「ハルト君、いまのうちにアンバーに治癒活性をお願い」


「アンバー? ……って、おお」


 聞き返した俺は〈爆風〉が急に向きを変えたことで初めて『彼』に気付く。


 座り込んでいるずたずたの研究服を纏う男。五十代くらいだろうか。


 白髪混じりの黒髪で、感情のわからない紅い瞳が俺をじっくりと見詰めている。


 酷い怪我だけど意識はあるみたいだ。


 ただ、血に染まった布を巻き付けた場所にあるはずの腕がない。


 顔色が悪いのはそのせいだろう。


 放置しておくのは危険だとすぐにわかるほどだった。


「治癒活性、治癒活性! ……傷はこれでましになるはず。説明はあとでしてくれディティア」


「うん。いまは魔物をなんとかしないと――ね」


 頷くディティアの表情は硬い。


 すると〈爆風〉が俺を背負ったままゆったりと歩き出した。


 吐く息は白く、凍てついた空気が鼻を抜けるだけでつんとするほど。


 それなのにこのオジサマときたら寒さに震える素振りもない。


「ふむ。苦戦しているようだな――触手をいくつか斬り飛ばせばいけるか?」


 しかも飄々とそんなことを言ってのける。


「あ、はい。ただ、体液が酸なのかもしれません」


 ディティアが彼に応えると、〈爆風〉は肩を揺すって笑いながら剣を抜いた。


 ――勿論、俺を背負ったままである。


「この剣もそれなりの素材だ。なんとかなるだろう」


「ええ、そうなんですか? どんな素材なんです?」


「ディティアー。お前もあとにしろー」


「うっ! ご、ごめんなさいグランさん……」


 グランに窘められた彼女がきゅっと首をすくめるが――次の瞬間。


「動き足りないのでな。付き合え〈逆鱗〉」


「はっ? ……っと、うぉあ、うわあああぁッ⁉」


 急に地面を蹴った〈爆風のガイルディア〉は身を屈めて一気に前進すると左足を軸にしてぐるりと体を捻る。


 ジャキィィンッ!


 確かに俺のかけた二重の『肉体強化』バフと『脚力アップ』バフによって彼の攻撃の威力や速度はかなり増しているはずだ。


 耳に突き抜ける双剣とは思えない音とともに、氷の欠片がバラバラと顔に当たる。


 右に左に振られる攻撃に、俺の体は籠の中で遠心力を受けて転げ回り――って、いやいやいや!


「うわっ、わ、わああぁッ!」


 どうやら俺が落ちない程度には動きを制限しているみたいだけど――ないだろ! 俺、いま動けないんだぞ!


 ひたすら絶叫するしかないけど、止まる気配もない。


 彼は氷の大木のような太い触手に肉迫すると次々と白と黒の刃を閃かせた。


「舌を噛むなよ〈逆鱗〉! そら、斬れるぞ〈光炎〉! 体液が噴き出したら凍らせろ!」


「え、ええ、わかったわ!」


 言葉どおり、何度も斬り付けた触手が次の一手で切り離される。


 ファルーアが絶妙な位置で氷の魔法を炸裂させ体液ごと固めるのを確認すると、〈爆風のガイルディア〉はすぐに身を翻した。


「次だ、いくぞ〈逆鱗〉!」


 くそー、もうどうにでもしてくれー!


 俺は半ば諦めながら胸のなかで吐き出して、しこたま足や腕を籠に擦りつけられるのに耐えなければならなかった。



遅くなりましたが月曜分です!

よろしくお願いします!

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