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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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始まりの始まり⑥

 とはいえ、ここにいても仕方ないからな。


 俺たちは〈爆風〉を追って穴を下りることに決めた。


 魔力感知にもなにも引っ掛からないのでバフを消し、ファルーアの魔法で穴の内部を照らす。


 どうやら下も部屋になっているらしく、分厚いレンガの層の先に空間と床が見えている。


「ハルト、五感アップ頂戴」


「ハルト君、私にもいいかな」


「わかった」


 ボーザックとディティアが言うので、俺はふたりにバフを投げた。


 臭いはキツいけど下水ほどじゃないからな……鼻は多少つらくなるだろうけど、なんとかなるはずだ。


 俺はふたりが頷いたのを確認してから、手の上に次のバフを広げる。


 こんなときに使えるバフを俺はちゃんと覚えているわけで。


 やっぱりバッファーは役に立つんだよな!


「腕力アップ、腕力アップ! ――どう? これなら皆下りられるよな?」 


「おお、冴えてるじゃねぇかハルト! ファルーア、いけそうか?」


「うちの『最高のバッファー』が機転を利かせてくれたからやれそうね」


 グランが大きく口を開いて笑い、ファルーアが妖艶な笑みをこぼす。


 そうだろう、そうだろう?


 ――そんなわけで俺たちは順番に穴を下り、無事にレンガ造りの床へと足を落ち着けた。


 上より少し広い部屋だけど床は綺麗なもんで、多少のレンガが転がっていることと少しカビ臭い以外はそう変わらないように見える。


 縄なんて下りたのは冒険者養成学校の授業以来かもしれない。


 アイシャじゃ縄が必要になることはなかったもんな。


 ……いや待てよ。縄で作った網を引いたことはあったかも。あれも湖だったぞ。


 思い出したのはアマヨビと呼ばれる巨大な貝の魔物だ。


 身は固すぎて食べられたもんじゃなかったよな……。


 腕力アップのバフを消して、あれこれ考えながらぐるりと視線を巡らせた俺は――前後に二本の通路を確認した。


 ランプに照らされた俺たちの影が、壁を滑るようにゆらゆらと躍っている。


「……さて、下りたはいいがストー。どうする」


 グランが顎髭を擦ると、あたりを見回していたストーが肩を竦めた。


「私に聞くんですか?」


「あー、それトレジャーハンターは主導権を渡すなーとかそんなやつだろ? 俺たち〔白薔薇〕はお人好しだから気にするなよ、ストー」


 俺がわざとらしく戯けてみせると、トレジャーハンター協会の支部長はゆったりとした動きで両腕を開いてみせる。


「はい、ご名答! では私は皆さんに『従わせて』いただきます」


 ……えっ? 『従わせて』?


 思わず瞬きを数回繰り返す俺に、ストーは「ふふ」と笑った。


 続けてグランが眉間に皺を寄せ、ため息をつく。


「はぁー。……おいハルト……」


「ええっ⁉ 俺のせいじゃないよな?」


「あはは」


「あははじゃないって、ディティア……」


 やられた……ストーのやつ、本当に曲者だ。


 意図はわからないけど、もとから俺たちに行動を選ばせる気だったんだろう。


 俺ががっくりと肩を落とすと、ファルーアが炎の球を踊らせた。


「なら自由にさせてもらいましょう? 危険なら報せてもらうわよ、ストールトレンブリッジ」


「それは約束します。〈光炎のファルーア〉さん」

 

******


 そうして二本ある通路のうち、前方へと進むことにした。


 緩やかに下る通路の天井はやはり低く、ボーザックは始終申し訳なさそうだ。


 いざとなったら俺の双剣を一本貸してやるか。なにもないよりはマシだろうし。


「……皆さん、せっかくですからここで紅い粉の話をしておきましょう」


 人がふたり並ぶには狭い通路を進んでいると、突然ストーがそう言った。


 俺は後ろを歩くグランとチラと目配せを交わして頷く。


「……頼むよ」


 ストーは俺の前を歩きながら肩越しにこちらへと視線を流し、右手の人差し指を立てて言葉を紡ぎ出した。


「……紅い粉の蔓延は表面上は防げています。ただ『災厄』が片付いたいまも収まる気配がありません。水面下では確実に広がっている。私も皇帝も、これは『災厄』を起こしたアルバニアスフィーリア――通称『アルバス』の手から離れてしまった案件だと考えています」


「つまり誰かが作り続けてるってこと?」


 前を歩くボーザックが聞き返す。


「おそらくはそうなりますね。そしてこの状態は帝都を中心として進んでいる」


「確か……帝国には『魔力結晶』が集まっていて買い占めも起きているんだったよな?」


 俺が口にすると、ファルーアが頷いた。


 その動きに合わせ、ランプに照らされた金色の髪が影を纏って濃淡を揺らめかせる。


「道中でも聞いたけれど、その犯人を見つけられていないのよね?」


「はい。帝都で起きているというのに製造場所も不明なままです。……となると」


「遺跡内部の可能性があるってことですね――」


 先頭のディティアがストーの言葉を引き継いで、俺は唸った。


 また、こう……なんだか嫌な状況になってきたな……。


 俺たちが『血結晶』と呼ぶ魔力結晶――今回も間違いなく関わってくるとは思ってたけど。


 ――そのとき、ストーが明るい声でとんでもないことを言った。


「この際ですから白状しますが、実は私と皇帝は皆さんにその調査を任せるつもりでした」


「――あぁ?」


 グランが露骨に顔を顰めたところで、俺はふと気付く。


「あれ? なあ、そういえばさ。さっき下りてきた部屋――床になにもなかったよな?」


「そういえばそうだね。あんなに大きな穴が空いていたのに落ちてたレンガはそんなに多くなかったような……」


 ディティアが続けてから……ストーを窺うようにそろそろと振り返る。


 ――そう、そうなんだ。


 つまり、あれは崩れたんじゃなく意図的に表面を隠されていた穴ってことになる。


 ストーはぐるりと俺たちを見回してから当然のように笑った。


「ふふ、ご明察です。謀ったものではないのですが、まさに私と皇帝が望む状況の可能性が高いというわけですね。さあ頼みましたよ〔白薔薇〕の皆さん?」


 うわぁ……最悪だ。


本日分です!

毎日大変な状況ですが皆様いかがお過ごしでしょうか……

少しでも楽しみにしてもらえるよう、できるかぎり土日も更新できたらなと思っていますので、よろしくお願いします。

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