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逆鱗のハルトⅢ  作者:
58/77

溺惑の必要悪⑥

******


 なにが楽しくてこんな状態でいなきゃいけないんだろうな。


 俺は頭のなかで盛大に吐き出しながら――といっても声にも顔にも出ない感情を激しく波打たせていた。


 いや、それがさ。


 聞こえるんだよ、皆の会話が全部。


 倒れてからずっと意識があるし、なんなら感覚だってある。


 ただ、下りた瞼を持ち上げることはできないし、指先ひとつ動かない。


 これがその病気のせいだとして……ああもう、どうにかしないと。


 とはいえ恐怖を感じないで済むのは皆のお陰だ。俺のために皆が動いてくれているのは……なんていうかこう誇らしいっていうかさ。


 なにがなんでも早く起きないとって、そう意気込むくらいには俺の背中を押してくれる。


 そんなときに左手に触れた柔らかく温かいその手に……俺は胸の奥がぎゅうっと詰まるのを感じた。


「――誰であれ、なんであれ、私たちがなんとかします」


 ディティアの声は強くて……悔しいけどやっぱり格好いいなと思う。


 ……そうして皆の気配が遠ざかり……ふと俺の傍にしゃがみ込む気配。


「お前、本当に寝ているのか?」


 唐突にぐにゃ、と持ち上げられた瞼の向こう……〈爆風〉が俺を覗き込んできた。


 おい、痛いって。眼が乾くって!


 正直眼球すら動かないってのは気持ち悪い。


「…………あの、そのような行為はハルトさんのご負担に……」


 ミリィがその隣であたふたと宥めると〈爆風〉は指を放してふむ、と唸った。


「〈逆鱗〉、お前の気配……眠っている感じがしないからな。……もし聞こえているならひとつ試せ」


 そう言った〈爆風のガイルディア〉は囁くような声で続けた。


「自分の魔力を活性化させられないか? 治癒活性の要領でどうだ。俺の考えではお前の魔力が働かないせいで急激な魔力切れを起こしているはずだ……それをなんとかしろ」


 ……たったひとり。


 伝説の冒険者だけが俺の状態に気付いたことは衝撃だった。


 俺は唸って――いや、実際まったく声にならないし動けないんだけど――改めて〈爆風のガイルディア〉のすごさを思い知らされたんだ。


 だから心のなか、しっかりと頷いて……行動に移す。


 治癒活性バフは細胞を活性化させて治癒能力を高めるバフだ。


 ヒーラーのヒールと違うのは『あるものをあるがままに復元する』んじゃなく、『あるものをあるがままに修復しようとする力を補助する』ってところかな。


 考えてみれば、確かに使いすぎってほど魔力を使った覚えがないし……こうやって意識があるってことは魔力自体がなくなったわけじゃないはずだ。


 俺が魔力切れになったときは完璧に意識が飛んだし、ファルーアが災厄の黒龍アドラノードを倒したときに昏睡状態に陥ったことを考えれば、魔力自体がなくなったら――たぶん意識だけじゃなく命を落とすってことだもんな。


 だから〈爆風〉の言うとおり俺の体のどこかにはちゃんと俺の魔力があって、毒にやられて単に不活性化してる……ってことなんだろう。


 さて、そうするとだ。


 魔力を活性化……ってことは、必要なのは魔力感知と同じように魔力を捉えることと……〈爆風〉の指示どおり治癒活性の要領……かな。


 体は動かないけど、まずは魔力を練らないとならない。


 いつもは手のひらから……こう、バフを形にしていくんだ。


 だから意識して――……っていやいや! 魔力が不活性ならバフにできないだろ!


 俺はひとりで突っ込んで、盛大にため息をこぼす。


 実際にはまったくこぼれていないんだけど。


 ……そこでふと思い出した。


 ずっとずっと昔。魔法都市国家と古代都市国家に生きた人たちはいまよりはるかに多くの魔力を内包していて、その肉体も強靱だったんだよな。


 だからいま古代の血を引いている人たちはそもそもの魔力が多くて、病の現れ方に差が出るのかもしれない。


 ――確か〈爆風〉が災厄の毒霧にやられたときは『抗毒剤』とかいうのを飲ませた。


『古代の血を引く者』と『血結晶の粉を呑んだ者』は後遺症なく毒から逃れられるって話だったっけ……。


 毒を受けたほかのひとたちも意識を失っていたけど……そうだ、全身麻痺が残るとかなんとかって話だった。


 それって、まさにいまの俺の状態に近い気もする。


 そうすると抗毒剤は『毒によって魔力が不活性化する』ことを防いでいたのかもしれない。


 ……とにかく。毒を克服した〈爆風〉の血を使って作られた薬がいま俺に投与されたわけだけど……それが『魔力の不活性化』を阻害してくれる可能性はある。


 それにさ。古代の血を引いていないとして――俺に流れるのはずっと昔に流行った病から生き残った人の血……そういうことだよな?


 目覚めたらしいアイシャ出身の商人は毒に打ち勝った……つまり俺のなかにも毒に勝てる魔力があるってことかも。


 これはなにもかも憶測だ。だけど――試さない理由にはならない。


 ――よし、もう一回やってみよう。


 俺はゆっくりとバフを思い描いた。


 体が動かなくてもいい。いつものように手の上に練って広げればいいんだ。


 魔力感知と治癒活性の応用……俺の魔力の形を変えて、俺自身を包むバフにするだけ。


 魔力に、もっと動けと命令するように――。


 俺は体内でどうなっているのかわからない魔力を懸命に手繰り寄せ、何度も何度も挑戦し続けた。


おはようございます!

本日もよろしくお願いします✨

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