表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅢ  作者:
48/77

愚者の感謝⑤

******


 そんなわけで俺たちは遺跡の『別の道』へと進んだ。


 黒ローブの男はまだ歩けず、肉体強化を二重にしたボーザックが背負っている。


 先頭のディティアに五感アップ、ファルーアには魔力感知をかけた。


 俺たちは『製造場所』を征圧することになり、〈爆風〉は遺跡を壊すための場所――残り二箇所だな――を受け持つことになって別行動。


 あのオジサマのことたがら涼しい顔でなんとかするに違いない。


「次を右……そう、そこだ」


 おとなしく案内に徹する男は置いていくこともできたんだけど、製造場所の仲間を説得すると言って一緒に来ることを望んだんだ。


 ウィルの話をどこまで信じたのかは俺にはわからないけど――伝わったって思いたいしな。


 ……レンガ造りの通路は相変わらず暗く、急な下り坂が続く。


 出発の前、昼飯にとギュムギュムした食感の携帯食糧を噛み締めるあいだ……ありがたいことにファルーアが魔法を駆使してびしょ濡れのランプを乾かしてくれたんで灯りには困っていない。


 やがてレンガ造りの壁がゴツゴツした岩肌に変わり、足下が滑りやすくなったところで先頭のディティアがぴたりと足を止めた。


「……気配があります……でも、なんだろう……私たちから離れようとしてる……?」


 眉を寄せて困った顔で振り向く彼女に、俺は五感アップを重ねてあげた。


 ついでに自分にも重ねてみれば……なるほど。


 いそいそとどこかへ向かっている――もしくは逃げているような気配がひとつ。


「もしかしたらキィスかも」


 俺はウィルとミリィの弟の名を口にしてそろりと足を踏み出す。


 彼は気配を読むことができるはずだからな。


 一歩、また一歩。


 気配もじわじわと移動していく。


「製造場所にはキィス様がいるってこと?」


 ボーザックが言うと、男はその背で唸った。


「可能性はあるかもしれん。……だが今日は粉を運ぶ日ではないはずだ」


「あら、運ぶ日なんて決めていたのね」


 ファルーアが言うと男はため息をこぼす。


「紅い粉は危険だとわかっていた……そのために呑む量は厳しく制限していたのだ。……病が酷い者ほど効果は現れ、同時に散るのも早かったからな」


「つまりほかにもゾンビ化した人がいたってことか?」


 思わず顔を顰めて聞くと男は首を振る。


「……わからない。中毒症状がはっきり出始めた者はキィスヘイムアルヴィア様が連れていった」


「キィスが? どこに?」


 さらに聞き返すと彼は瞼を伏せて項垂れた。


「……それもわからない」


 キィスがゾンビ化しそうな人たちをどうしてきたのかは考えたくもない。


 それでも俺は嫌な予感がして視線を奔らせる。


 皆の目にも同じように懸念の色が見えて――俺は手を握り締めた。


 つまり、さ。


 キィスの部屋には『血結晶』の作り方の考察があったわけで……もし、もしも眠らせることが目的じゃなかったら?


「――ディティア。とにかく捕まえよう」


 俺は短く息を吸って言葉を紡ぎ、頷く彼女と自分にバフを重ねた。


「速度アップ、速度アップ!」


 五感アップは二重を保ってこれで四重。


 グランを見ると彼は真剣な表情で一度だけ首を縦に振る。


「頼むぞ」


「任せろ」


 俺はディティアと一緒に狭い通路を駆けだした。


******


「こっち、ハルト君!」


「あ、ああ」


 ……とはいえ。


 我ながら無謀だった。


 速いんだよ、ディティアが!


「次、こっち!」


「は、はい!」


 付いていくので精一杯。


 むしろ気を遣われてる気さえする。


 いや、間違いなく遣われてるんだよ。


 ああーくそっ!


 固い地面を蹴りつけ、前へ前へ前へ。


 ぐんぐん迫る俺たちに焦ったのか感じる気配も走り出したみたいだけど――遅い。


「この角の向こうッ!」


 鋭い声を上げて吹き抜ける〈疾風〉に敵うわけもなく。


「うわあぁっ!」


 角の向こう側、俺からは死角になった位置で悲鳴が上がる。


 俺は息も絶え絶えに覗き込み、ディティアの向こう側で尻餅をついている紺色のローブの男性を視界に捉えた。


 袖と裾には細かな刺繍。上等な生地は貴族のそれ。


「……はあ、はー、は……お前、キィスだな?」


 完全に愚か者の俺をこの場に導いてくれたのは間違いなく『彼』だろう。


 そうじゃなかったら――ミリィから情報を引き出すこともできなかったしな。


「お前……ッ!」


 フードは被っておらず、大きな翠色の瞳が見開かれるのがよく見える。


 ウィルとミリィとよく似た赤茶色の髪は緩やかに波打ち、幼く見える華奢な体付きは彼が病弱だったことを裏付けていた。


「その節は俺を誘拐してくれてありがとう。……立てるか?」


 俺はお礼を述べて、彼に右手を差し出した。



すみません一日あきました!

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ