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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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愚者の感謝④

「――そうだな。俺は迷わず『狩る』側だ」


 低くて渋い声で紡がれる言葉。


 握った拳をぶつける場所はないから、俺は黙って唇を噛んだ。


「罪は罪。許した結果ほかの者が傷付くことのほうが恐ろしく罪深い。俺はそう思っている」


 ウィルは続けた〈爆風〉を見下ろしながら喉の奥を震わせて笑った。


「さすが伝説の爆とまで言われる冒険者……とでも返すか?」


「世辞はいらん。――だが、そうだな」


 さらっと受け流した〈爆風〉は俺に視線を移す。


「今回は〔白薔薇〕に任せるつもりだ」


「……は?」


 眉をひそめる俺に、彼は歯を見せて笑った。


「お前たちはそのために強くなろうとしていたんじゃないのか?」


「ガイルディアさん……」


 思わずといった様子でディティアがエメラルドグリーンの瞳を瞬かせる。


 見ると、グランもボーザックもファルーアも口元に笑みを浮かべていた。


 ――まったくもう。なんだよ急に。


 俺は口元が緩みそうな気がして……慌てて腕で隠す。


「……ふん、そんなこと言ってあとで『任せた覚えはない』とか言うなよ?」


 吐き捨てた俺に〈爆風のガイルディア〉はにやにやしながらウィルを見る。


「そんなわけで俺は様子見だ、ウィル」


「はは、言ってくれる。とはいえどうするつもりだ〔白薔薇〕。この国の法はこの俺だぞ」


 そう。それは確かにそうなんだ。


 ミリィからキィスのことを頼まれたときだって、俺たちがなにもできない可能性は懸念していたんだからさ。


 だけど。


 言いながらも楽しそうなウィルに、俺はビッと右の人さし指を突き出した。


「処罰は必要かもしれない。でも最大限、彼らの生活を守ったうえでの処罰だ。それが嫌なら情報は渡さない。彼は俺たちが連れていく」


「ほう」


 だけど、今回は交渉材料がある。


 利用しない手はないだろ!


 俺は指先を『俺たち』へと滑らせた。


「言っておくけどなウィル。俺たちはユーグルと強い絆がある。……わかってるだろ、どういうことか」


「あははっ、ハルト完全に脅しになってる!」


「うっ……うるさいぞボーザック」


 突っ込まれて振り返ると、彼は黒い双眸を細めて腰に手を当てた。


「皇帝、紅い粉の製造場所は俺たちがなんとかしてくるからさ。それで条件呑まない?」


「わ、私からもお願いします! ……やっぱり誰かがゾンビになってしまうのは嫌です。でもいまならまだ間に合うかもしれません。製造場所をなんとかしましょう!」


 胸に手を当てて、ディティアが必死な顔で言った。


 前のめりになる彼女の髪が前後に揺れる。


 ……考えないようにしてたけど、俺はゾンビ化してしまった黒ローブの女のことを思った。


 救えなかった、また。


 そんなふうに思うなんておこがましいかもしれない。


 だけどもしもっと早く俺たちがなんとかしていたら――なんて。


 ……こんなことになるたびに毎回考えている。


「……本当にあなたたちはお人好しですねぇ」


 そこでやんわりと声にしたのはストーだった。


「正直、こんなに早くことが進むとは思っていませんでしたから……なんというか、持ってる? というやつですかね」


「そんなもん持ってても嬉しくねぇだろうよ」


「むしろあなたといるから厄介事が増える気がするわ、ストールトレンブリッジ」


 グランが呆れたように返すと、ファルーアが妖艶な笑みでストーを迎え撃つ。


「ふふ。――仕方ないですねウィル。ここは条件を呑みましょう……というか呑んだ方が圧倒的にお得ですし。なんならキィスも彼らが見つけてくれると思いますよ」


「そうだな。結晶の製造場所を潰しスルクトゥルースもなんとかなれば――そのときはもう一歩研究も進むだろう」


「……研究?」


 反芻した俺にウィルは短い髪を手のひらで撫でるようにしてくっくと笑った。


「俺は我が帝国をよりよくする義務がある。それが皇帝であり、それがアルヴィア帝国だ」


「まあ、その姿勢はいいことだと思うけど……」


 首を傾げてみせると、彼は組んでいた足を解いて立ち上がる。


「――よきに計らえ冒険者。ストー、ここももうじき片付く。俺たちは一度戻るぞ」


「はい。……赤鎧の骨は部屋に運ばせておきますね。気を付けて!」


「え、は? いや、ちょっと待てよウィル。情報は聞かないのか?」


 思わず座り込んでいる男を振り返ったけど、彼もどうしていいかわからないようでポカンと口を開けていた。


 そりゃそうなるよな。


「お前らが解決してくれるなら聞かずとも問題ないだろ。兵に命じてゾンビ化した女性はこちらで連れ帰る手配をしておいてやる」


「!」


 その言葉に俺は息を呑む。


 ウィル……そんなことまで考えてくれてたのか。


 俺は水場で赤鎧と結晶の処理をしている何人かの帝国兵を見下ろして……頷いた。


「ありがとうウィル。俺からも頼むよ」


「俺たちから……でしょ、ハルト!」


「うん。そうだよねハルト君!」


 ボーザックに突っ込まれ、隣のディティアは俺と目を合わせて微笑む。


「はは、若者はいいな。では動くとしよう」


 伝説の爆の冒険者がまとめて――俺たちは再び遺跡へと入ることになった。


 いまもずぶ濡れとはいえ……もう水の中は嫌だけどな。



本日分です。

気がつけば10万文字……

ラノベ一冊分でアルヴィア帝国編を纏めていきたいところです。

12から14万文字くらいですかね!

あくまで目標ですが引き続きよろしくお願いします!

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