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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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始まりの始まり④

******


 トレジャーハンター協会アルヴィア帝国帝都支部支部長シヴィリー。


 噛みそうな名乗りをひと息でこなし、シヴィリーはきっちりと頭を下げた。


 豊かな茶髪が彼女の動きに合わせて大きく揺れる。


「シヴィリーと私は同じ支部長ですから、交流も深いんですよ」


 ストーがそう言うと、シヴィリーはこくりと頷いて右手を胸に当てた。


「私は一応『冒険者』にも理解があるほうでね。帝国を訪れる『冒険者』を補助する立場でもあるんだ。とはいっても、できればトレジャーハンターとして振る舞うことをお勧めするよ。……〔白薔薇〕は裏ハンターなのだろう?」


「ああ。これが証だ」


 グランが懐から薄蒼くて丸い板のようなものを取り出す。


 そんなに明るくないこの部屋でも見る角度によってきらきらと虹色に輝き、透き通った美しい濃淡を描き出すそれは『鱗』だった。


 奇跡の船と呼ばれるジャンバックの船長から賜った、俺たちが裏ハンターである証だ。


「素晴らしい――海龍の鱗だね。確かに確認した。……それじゃあ本題といこう。落ち着いて聞いてほしい」


 シヴィリーはゆっくりとストーの隣に腰掛け、たっぷりと息を吸ってから頷いてみせる。


 そして、とんでもないことを言った。


「実は……〈爆風のガイルディア〉が遺跡から戻らないんだ」


 ……一瞬、意味がわからなかった。


 俺たち全員がそうだったと思う。


 だってさ――戻らないってどういうことだ? 調査中ってことか?


「あ、の……ちょっと、意味が……」


 最初に声を上げたのはディティアだ。


 ぎゅっと寄せられた眉が彼女の困惑を如実に表している。


 シヴィリーは再び頷くと、胸元から一枚の紙を取り出した。


「彼がやってきたのは十日ほど前だ。遺跡に潜ったのはその二日後でね。……君たちが来るとわかっていた彼は、すぐ戻ると言ってひとりで出ていったんだけれど――それきりなんだ」


 かさりと開かれた紙には、なにかの説明文と〈爆風〉の名が記されていた。


 どうやら仕事を請けた証明かなにかのようだ。


 シヴィリーはそれを俺たちに見せたあとで説明を再開する。


「彼が請けた仕事は簡単な討伐で――仮面と布で顔を隠していたから〈爆風のガイルディア〉だと気付く人はいなかったと思う」


 ――仮面と布ね。


 初めて会ったときの〈爆風〉は目元を覆う仮面を被り、口元は首に巻いた布を引き上げて隠していた。


 そのときに『スレイ』と名乗っていた彼の姿を思い出しながら、俺は頷いてみせる。


 伝説の冒険者である以上、誰かが知っているかもしれない。


 だから帝都でも顔を隠していたんだろう。


「新しい領域が発見されたことで調査済みの区域の仕事が残りがちでね。彼が請けたのはそれだ」


 ストーも知っているというその場所はねずみ型の魔物が繁殖することが多く、定期的に駆除を行っているらしい。


 内容を聞くに〈爆風〉が失敗するとは思えない――なにかあったと考えるべきだろう。


「……すぐに行きましょうストーさん」


 ディティアが膝の上でぎゅっと手を握ったのが見える。


 その向こうでファルーアがゆったりとお茶を口に含み、こくりと飲み下してから続けた。


「賛成ね。〈爆風のガイルディア〉のことだから、そこで私たちを待っているのかもしれないわ」


「あの食えねぇおっさんのことだからな……十分有り得るだろうよ」


 顎髭を擦りながら、グランが目を閉じる。


「俺も賛成ー。最近は魔物に遭遇しなかったし、ちょっと動きたかったんだよねー」


 ボーザックも言いながら肩を回し、口角を引き上げた。


 なにがあったのかは不明だ。気は抜けない。


 それでも皆、ディティアを励まそうとしているのがわかる。


 俺はディティアの肩をぽんと叩いて頷いてみせた。


「仕方ないな。俺たちで〈爆風〉を『迎えに』行ってやろう」


 ディティアはエメラルドグリーンの瞳をぱちぱちと瞬かせ、皆を見回してから頬を緩めて頷いた。


「うん。――皆、ありがとう」


******


 食糧や応急処置用品はシヴィリーの好意でトレジャーハンター協会のものを分けてもらえた。


 それだけじゃなく探索用の道具なんかも借りることができて、準備の時間を省くことができたんだ。


 俺たちは遺跡調査の仕事を請け、すぐに出発した。


 ……ストーの案内で向かった先は意外にも町の中。


 広くはない道を抜けて突如小さな広場に出たと思ったら、格子の扉が填まった祠のような場所があったんだ。


「こんな町中に入口があるのか……魔物もいるんだよな?」


 思わず聞くと、ストーはその扉に手を掛けたまま肩を竦めてみせた。


「一応扉はこうやって付いていますが、やはり子供が入り込むこともありますね。……帝都は遺跡とともに成長してきましたから、珍しい話ではないんですよ。厳重に管理しているのは今回のような未踏の領域だけです」


 はー、そんなもんか。


「こんなところがあったら俺、入っちゃったと思うな。探検したいじゃん」


 真顔でボーザックが言うので、俺も頭を掻いて頷いた。


「それは……わかる。グランもだろ?」


「あ? 一緒にすんじゃねぇよ。俺は入らねぇぞ」


「えー? こんなに冒険が始まりそうな感じなのに?」


 ボーザックが目を剥いたところで……俺、ボーザック、グランの背中に次々と痛みが走った。


「いっ!」

「痛っ!」

「ぐっ!」


「しゃきっとなさい。……ここは遺跡よ、忘れたわけじゃないでしょう?」


 ……ファルーアの杖である。


「俺を巻き込むんじゃねぇよ……」


 グランは俺とボーザックに向けて恨めしそうに言ったけど、すぐに「はぁ」とため息をついてかぶりを振った。


「――とりあえず集中だ。ハルト」


「任せろ! ……五感アップ、魔力感知!」 


 俺は全員にバフを広げ、頷いてみせる。


「よし。行くぞお前ら!」


 俺たちはグランの声に、大きく一歩を踏み出した。



本日夜分です!

基本的に平日更新の予定でおります。


こんなご時世なので、少しでも皆様の楽しみになれればいいなと思っています。


よろしくお願いします!

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