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逆鱗のハルトⅢ  作者:
36/77

結晶の代償②

 俺たちは螺旋階段を一気に駆け下り、最下部へとたどり着く。


 池は中心の柱を交点として十字に浮き橋が渡され、外周をぐるりと囲むように足場が設置してあった。


 紅い光はそこかしこで明滅を繰り返し、時折水面から飛沫しぶきが弾けてヒレが踊る。


 何匹いるんだあれ――かなりの数だぞ⁉


「おいストー! こいつらどこから入ってきやがる⁉ このままじゃ海月くらげが喰われちまうぞ!」


 グランが大盾を構えて怒鳴ると、階段に残っていたストーはにこにこしたままポンと手を打った。


「ふふ、安心してください〈豪傑のグラン〉さん! これは計画の一端です!」


「は、はぁ?」


 俺が思わずこぼすと、ファルーアが額に指先を当ててかぶりを振ってみせる。


「まさか……一網打尽ってこのことなのかしら?」


「はい、そのまさかです。さあ、一気にどーんとやってください!」


「ストーさん、それだと海月くらげの魔物も死んじゃいますけど……」


 ディティアが困惑を浮かべて呟くと、今度はウィルが答えた。


「雷の魔法なら問題ない。海月くらげたちは雷に強い」


「…………」


 ファルーアはそれを聞くと心底嫌そうな顔をする。


 魔法で使う分にはそこまで気にしている素振りはなかったけど、ファルーアは雷が苦手だもんな……。


 考えてみたら雷での派手な一撃って見たことがないかもしれない。


 まあそれなら――。


 考えていると、グランがぐるぐると肩を回してファルーアの隣に立った。


「最近体動かしてねぇからな。ちょっと俺にも相手させてもらおうか」


「グラン……」


 ファルーアが瞬きを返すと、ボーザックが大剣の柄を握り締めてにやりと笑う。


「ここなら俺、大剣使えちゃうんだよねー。任せてみない? ファルーア」


「グランさんもボーザックも格好いい! ふふ、私も頑張っちゃうねファルーア!」


 うん。考えることは皆一緒だな!


 俺は思わず笑って手の上にバフを練り上げた。


「それじゃあバフにも期待してもらおうか! ……いくぞ、肉体強化、肉体強化、反応速度アップ!」


 五感アップと魔力感知を上書きしてひとつ書き加えた三重のバフを広げると――ファルーアはどことなく嬉しそうに口元を緩める。


「まったく……言ったからには殲滅してもらうわよ? ハルト、威力アップを。池から足場に叩き出すわ」


 彼女はくるりと龍眼の結晶の杖を回し、カツンとヒールを鳴らした。


「任せろ! 威力アップ、威力アップ、反応速度アップ!」


 ……そんな俺たちを横目に〈爆風〉が笑う。


「若者は元気だな。さてウィル、俺も行くがお前はどうする?」


「――お手並み拝見といこう。よきに計らえ『冒険者』」


「言ったわね? 楽しませてあげるわ皇帝。とくとご覧なさい?」


 ファルーアはそんなウィルにいつもの妖艶な笑みを浮かべると、左手でさっと金色の髪を払い息を吸った。


 その動きに呼応して、龍眼の結晶が煌々と光を放つ。



「――逆巻きなさい」



 放たれたファルーアの声は決して大きくはなかった。


 けど耳に直接響くようなその声に、魔力が沸き立つのが感じられる。



 ズオオオォッ!



 途端に水面が波打ち渦を巻き始め、巨大なうねりが柱となって竜巻のように伸び上がり……。



 だっぱああぁぁんっ!



「――って、うおおおっ⁉」


 弾き出された紅鎧が一直線に落下してくるのを大盾で思い切りぶん殴り、グランが鼻息荒く振り返る。


「おいファルーア! 落とすなら先に言え!」


「あらごめんなさい? ほら、まだまだいくわよ!」


「うっわ! 昼ご飯は魚ばっかり――かなッ」


 ファルーアの声と同時に次々と魔物が飛び出し、ボーザックが大剣を振り抜いて次の紅鎧をぶった斬る。


 その隣を一陣の疾風が吹き抜け、彼女は重心を落としたまま浮き橋を殆ど揺らさずに身を躍らせた。


「はぁ――ッ!」


 気合一閃。


 落下して跳ねる紅鎧のヒレごと斬り飛ばされた結晶が宙を舞う。


 浮き橋が反動で飛沫を上げたところには……荒れ狂う風。


「そら、いくぞ〈逆鱗〉!」


「いつでも!」


〈爆風のガイルディア〉は思い切り体を捻ると、応えた俺に向かって次の一体を『蹴り飛ばす』。


「おおぉッ!」


 俺は足場を踏み締めて渾身の力で双剣を振り下ろし、飛んできた紅鎧を足場に叩きつけた。


「グラン!」


「おうよ! おぉッらあァァッ!」


 バリイィンッ!


 大きく一歩踏み込んだグランが大盾を打ち込み、砕けた紅い石がキラキラと光を散らす。


「えーっ、俺も交ぜてよ!」


 ボーザックが不満の声を上げて大剣を閃かせると、グランがぐるりと肩を回して豪快に笑った。


「――これだよこれ! 最近鈍っちまってたな!」


「まったくもう……それなら望みどおりにどんどんいくわよ! ボーザック!」


 そこでファルーアが杖を振る。


「げっ! ちょ、ちょっとファルーア!」


 逆巻く水の竜巻がぐにゃりと弧を描き、流れに逆らえずに放出された紅鎧が次々と降り注ぐ。


 ボーザックは慌てたように飛び退き、俺とグランは顔を見合わせてからお互いの拳をガツンとぶつけた。


「やるかグラン!」


「はっ、暴れ足りねぇからな!」


「いくぞボーザック! 肉体強化、肉体強化、肉体強化……もうひとつだ! 肉体強化ッ!」


 俺は自分とグラン、ボーザックのバフをかけ直し、さらにひとつ足してぐっと膝を曲げ、思い切り踏み切った。


「ありがとハルトッ! たあぁ――ッ!」


 ボーザックは俺が追い抜き様に出した手に拳を叩きつけ、自分も大剣を振りかぶる。



「どうですかウィル。これが『冒険者』ですよ!」


「ふ、悪くない」


 ――そうだろ、なんたって〔白薔薇〕だからな!


 ストーとウィルの会話が耳を掠めていくのを聞きながら、俺は唇の端を引き上げた。



戦闘!

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