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逆鱗のハルトⅢ  作者:
35/77

結晶の代償①

******


 そんなわけで。


 俺たちは食事を終えて準備を済ませ、遺跡の『中枢』へと向かった。


 帝国宮ていこくきゅうにも遺跡への入口があって、そこから『中枢』に行けるんだ。 


 けど考えてみたらそれって物騒だよな――俺たちが昨日入った場所は『中枢』と繋がってたわけで、つまりは帝国宮ていこくきゅうに忍び込めるってことだろ。


 まあ普段は帝国兵が帝国宮ていこくきゅうの入口を見張ってるって話だけど。


 ちなみに俺が買うのをすっかり忘れていた浮き袋は出発までに届いている。


 ストーが研究所に連絡を入れて持ってこさせたそうで、がっつり鎧を纏ったグランとボーザックもこれで安心だな。


 それだけじゃなく水中で呼吸できる道具も渡されたけど……これを使う機会がないことを祈りたい。


「……俺、全然ダガーの練習してないや……」


 ボーザックが腰に装備したダガーの柄に触れながらぼやくと、ウィルが肩越しに振り返った。


「なんだ、ダガーの稽古なら付き合ってやってもいいぞ」


「えぇっ⁉ 皇帝相手に剣向けたら処罰されそう」


 ボーザックが頬を引き攣らせると、ウィルはにやにやと笑みを浮かべて「残念だ」と笑う。


 ――今日の彼の装備は一部に金属を縫い付けて強度を上げた革鎧だ。


 ストーに至ってはいつもどおり薄いチュニックだけどな。


 戦闘があるかもしれないのに呑気なもんである。



 ……遺跡内部は赤茶のレンガ造りで綺麗に整備されていた。


 松明も設置されていて明るく、いまのところはそれなりに広い。


 とはいえ大剣を振り回すには足りないだろうし、戦闘するには狭いだろう。


「〈逆鱗〉、この先はもう『中枢』だぞ」


 そこで先頭を歩く〈爆風〉が声を掛けてきた。


 ……ん? なんで俺?


 よくわからずに首を傾げると、隣にいたディティアが俺の左手を指先でつんと突く。


「ハルト君はバッファーだよね」


 俺はその言葉にはっとして慌てて手を上げた。


「五感アップ、魔力感知!」


「あははっ! ハルト、バッファーなのにバフ忘れてたんだ」


 からから笑うボーザックに俺は思わず唸るしかない。


「う――わ、悪かったよ」


 するとディティアが頬を綻ばせながら俺を見上げた。


「ガイルディアさんがいるし、ちょっと気も緩むよね!」


 いや〈爆風〉がいるかいないかじゃないというか……あー、なんかグサッときたぞ。


「……おいディティア。ハルトの気持ちを抉るのはやめてやれー」


「そうね。ハルトが緩んでいることに〈爆風のガイルディア〉は関係なさそうだわ」


「ファルーア……緩んでるってのも俺の気持ちを抉りにきてるんだけど?」


 グランが笑いながら助け船を出してくれたところにファルーアが笑みを浮かべて被せてくる。


 いや、まあ……反論はできないけどさ。


 思わず「はぁ」とため息混じりに応えると、ディティアが慌てたように首を振った。


「わ、ご、ごめんね! ハルト君らしいなぁって思って……!」


「あははっ! ティア、それ褒めてない!」


 ボーザックが突っ込むと、ますます慌てた彼女は両手を胸の前でぶんぶんと振る。


「ええっ! そ、そんなことないよ! ねぇハルト君?」


 俺はひょいと肩をすくめた。


「――ディティアは可愛いよな」


 本当に見ていて飽きない。


 微笑ましいというか、なんというか。


「……待って。いま全然そんな話じゃなかったよね⁉」


 瞬時に反応して盛大に頬を膨らませた彼女に、俺は満面の笑みで応えるのだった。


******


 中枢は驚くほどに広かった。


 ふたり並んで歩くのがやっとの螺旋階段を下っていくと突如視界が開け、目を瞠るような景色が飛び込んできたんだ。


 巨大な半球型の空間――その中心に太い円柱形の柱が聳え、俺たちはその柱の表面を這うようにして造られた螺旋階段にいたのである。


 手摺りから恐る恐る覗き込むとずっと下には水が溜まっていて……なにかの気配が色濃く満ちている。


 きっと海月くらげの魔物だ。


 壁からは管のようなものが幾重にも連なって生え、先端は水溜まり――というよりは大きな池だな――へと繋がっていた。


 あれが『水路』なんだろう。


 それ以外にもこの柱からはまるで蜘蛛の巣のように通路が伸び、おそらくはあらゆる区画に繋がっているんだと予想できた。


 広い空間が見渡せるのは階段や通路に設置された松明のおかげだ。


「はあ、ここが『中枢』ですか……!」


 手摺りから身を乗り出してうっとりと声を洩らすストー。


 ウィルは得意気な笑みを浮かべると、立ち止まって指先をすいと滑らせた。


「この柱からは見てのとおりほかの区画に移動する通路が伸びている。とはいえ大多数は塞がっていて使い物にならん。下の水面は湖面と同じ高さになっているんだ」


「そうすると俺たち、昨日はもっと深いところにいたんだな……って、あれ? じゃあ壁の管みたいなのは水が流れてるわけじゃないのか?」


 俺が首を傾げると、ウィルは真下を指し目を細めた。


「いや、あれは各区画から中枢に繋がる水路で間違いない。古代の機能がまだ動いていてな、溢れた水を送り込むことができるようだ」


「そりゃすげぇな……」


 グランが顎髭を擦りながら感嘆の声を洩らしたところで〈爆風〉と〈疾風〉が剣を抜いた。


 シャアンッ


 澄んだ音が反響し、俺たちはそれぞれがすぐに身構える。


「――見ろ。お出ましだ」


「水の中! 光ってます!」



よろしくお願いしますっ!

いつもありがとうございます!

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