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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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真相の失踪⑥

「キィスは幼い頃から体が弱かったからな……遺跡の地図ばかり眺めて過ごしていた。俺よりも遺跡には詳しいかもしれん。研究所ともやり取りをしていたはずだ」


 ウィルが言うと、ストーが唇を引き結んだミリィを見て肩をすくめた。


「彼はミリィを慕っていましたから連れ出していたことに疑問はないのですが……『薬』とやらを誰から受け取っているか隠しているのはおかしい気がしましたね。ちなみに弟君おとうとぎみはウィルのことは嫌っていますよ。なにせ私が友人でしたから」


 それを聞いたミリィは弾かれたように顔を上げて首を振る。


「ストー。それは違いますわ! キィスは嫌っているのではなくて……その」


 ちら、と俺を見た彼女は言いにくそうに口籠もり……最終的には視線を泳がせた。


 なるほど……理由は『俺たち』ってことか。


 俺はグランと目配せを交わし、やんわりと彼女に告げる。


「言っても問題ないよミリィ。『冒険者』が嫌いだから、それを許容しているウィルやストーが気に入らないってことだよな?」


「アルヴィア帝国じゃよく思われてないってのは聞いてたからな。いまさら気にしねぇよ」 


 すかさずグランが相槌を打つと、ミリィは申し訳なさそうに身を縮こめて瞳を伏せてしまった。


 あんなに楽しそうだったのに……キィスの話で酔いが冷めるほどの衝撃を受けたんだろうな。


「――この国の風習なのですわ。『冒険者』はよそ者で野蛮だと……そういった話を多く聞いて育ちましたの。ほかの国が帝国ほど『冒険者』に厳しくないことも知っていますが、キィスは特にその考えが強かったのです。わたくしも……」


「その冒険者のおかげで『災厄』も倒せたというのに、皇族や帝国兵はこんな方ばかり――ユーグルたちも苦笑するでしょうね」


 さらりと言葉の刃を閃かせたのは曲者ストーだ。


 ミリィは酷く悲しそうな顔をしたけど、なにがおかしいのかウィルは不敵な笑みを浮かべてくっくと喉を鳴らした。


「だからこうして『冒険者』が名を上げる場所を提供しているだろう?」


 いやいや……そういう場のつもりで遺跡調査の話をしたって? 絶対違うだろ……。


「は、よく言うぜ。ここで俺たちが冒険者だって名乗っても反感買うだけだろうよ」


 グランが顎髭を擦りながら鼻を鳴らすと、ミリィはますます小さくなってしまう。


 ディティアだったらどう反応するかなと思いながら俺はゆっくりと次の疑問を口にした。


「それから……慈善活動ってのも気になるんだけど、どこでやってるんだ?」


「……え? えぇと……そうですね、ハルトさんが外に出るために使った入口からはそう遠くありませんわ」


「外に出るためって……ああ、誘拐されたときの遺跡か?」


 思わず瞬きを返すと、答えてくれたミリィは深々と頷く。


 うーん、帝国宮ていこくきゅうの門が見える大通りから逸れた場所なのは間違いないけど――そんな細かいところまで思い出せそうにない。


「……裏路地みたいだったのは覚えてる」


 仕方なくそれだけ言って肩をすくめると、ウィルが吊り上がった翠の目を細めて唇の酒を親指で拭った。


「――おいミリィ。その活動団体に名前はあるか?」


「え? どうでしょう……確か、ええと……なにかの単語は重ねておりましたわ。スルク、ト? トルス?」


 ところが、である。


 ――ガシャアッ!


 それを聞いたウィルが突然テーブルに拳を叩きつけた。


 食器たちが衝撃で弾み不協和音を奏でたところで、彼はチッと舌打ちをする。


 ……皇帝にしては品のないものだけど、ウィルのそれはどこか様になっていた。


「スルクトゥルースか」


「――なんだそりゃ」


 グランが真剣な眼差しで声を落とすと、ストーが懐から白い布を取り出し、黒縁眼鏡を外してキュッと拭きながら静かに答える。


「革命派……簡単に言えばウィルの陥落を狙う組織ですよ。今回、紅い粉の調査に兵を派遣したのは彼らの動向を探るためでもあった――遺跡に製造場所があるとして、彼らが関わっているなら納得できます」


「……! そ、そんな……」


 ミリィがふるりと肩を震わせ、助けを求めるようにストーを見詰めた。


 けれどストーはそれに視線を合わせず……スチャリと眼鏡をかけ直す。


「ええと? 失礼かもしれないけど……アルヴィア帝国って盤石じゃないのか?」


 思わず聞くと、ウィルは鼻先でふんと笑い飛ばした。


「この町を見ただろう? 継ぎ接ぎだらけだ。地位を得ているのは商人でも漁師でもない研究員たちでな。昔から住んでいる者たちの不満は大きい。自分の家の上にどんどんと無計画の家が組み上がり、いつ崩壊するのかを恐れている」


「なるほどな。帝国っつーよりは帝都が問題か」


 グランが太い腕を組み、唸るように言う。


 ウィルはゆっくりと両肘を突き、顔の前で指を絡ませて翠の瞳を光らせた。


「――もし本当にスルクトゥルースと関わっているのなら、キィスの命はないと思えミリィ」


「皇帝……!」


 ミリィが腰を浮かしかけたのを、ストーが右手を翳して制したのはそのときだ。


「ミリィ。あなたは帝国そのものを危うくしている自覚を持ってください。……どうか危険には近付かないよう……お願いできませんか」


「……っ、キィスは、キィスはそんなことしませんわ……! 皇帝の……兄様の陥落を謀ろうなどと! ……失礼します、おやすみなさいませ」


 彼女は震えを必死で押し隠し執事の手も借りずに立ち上がると、ドレスの裾を摘まんで優雅に一礼してみせた。


 ――その瞳に宿るのは決意を秘めた光。


 顔を上げ真っ直ぐウィルを見た彼女に……俺は思ったんだ。


 ディティアと似た強さが、ミリィヘイムアルヴィアには確かにあるんだ……って。



すみません1日飛ばしになってしまいました!

引き続きよろしくお願いします。

魔物とか戦闘とか遺跡とか……頑張ります!

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