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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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狂乱の英断④

 ミリィと名乗った女性の言うとおりに進むと、梯子へと行き当たる。


 俺は一も二もなく横木を掴んで足を掛け、跳ぶようにして上った。


 するとひんやり冷たい新鮮な空気が頬を撫でたので、思い切り息を吸い込む。


 ――外だ。


 梯子の掛かっている穴から腕を出し地面に手を突いて体を引き上げた俺はすぐに立ち上がった。


 大丈夫、近くに気配はなさそうだ。


 土埃を払って見上げた空にはすでに星が瞬いている。


「……うわ、もう真っ暗か……」


 わかってはいたけどかなり時間が経ったんだろう。


 俺はさっとあたりを見回してから踏み出した。


 とにかくどこか人通りのある道に出ないと。


 向かった細い路地には石ころや割れた鉢植えが転がり、建物同士が頭上で繋がっていたりもして想像以上に入り組んでいた。


 やがて人の気配を感じ始め、ようやく店が並ぶ通りに出てきた俺は、知らず詰めていた息をはーっと吐き出す。


 相変わらず研究服を着た人は多く、そのままの姿で酒を酌み交わしていたりもする。


 ここまでくれば大丈夫だろ。


 俺はバフを消し、どこかで帝国宮ていこくきゅうの場所を聞こうと考えて――気付いた。


 通りの先に一際明るく輝く門がそびえているのだ。


「…………」


 その巨大な門を照らし出すのは紅い核を宿した照明具と松明だろう。


 ふと顔を上げれば、俺がいる通りに並んだ街灯も煌々と光を放っていた。


 ――血結晶。レイスの血を特殊な方法で固めた紅い石の光だ。


 俺はかぶりを振って意識を引き戻し、止めてしまっていた足を再び前へと持ち上げ――地面をぎゅっと踏み締める。


 宝飾品や街灯だけじゃない。帝都にはもっと多くの結晶があるはずで。


 それが全部もともとは人の血だったと思うと――なんだかやるせなかった。


******


 はるか天を仰ぐ門は龍でも通れそうなほどにでかかった。


 帝国や皇帝の威厳を表しているのかもしれない。


 本来なら呆気に取られたと思うんだけど――そこで待っていた彼らに微笑まずにはいられなくて。


 俺は段々と歩調を早め、ついには駆け出してしまった。


「……ハルト君ッ!」


 一直線に駆けてくる彼女を両腕で受け止めて、その温かさにほっとため息をこぼす。


 彼女の向こう側で安堵の表情を浮かべる三人には、顔の前で右手を立てて精一杯ごめんと表現した。


 ――待っててくれたのが心の底から嬉しい。


 俺は少しだけ腕に力を込めてから体を離して、俺より頭ひとつぶんは小さなディティアにそっと呟いた。


「――心配かけたよな、ごめん」


 彼女は俺を見上げると……唇を尖らせて眉を寄せる。


「本当だよ……すごく心配したんだから――!」


 大きなエメラルドグリーンの瞳は不安でいっぱいに見えて。


 逆の立場だったらどれだけ心配したかを想像して……俺は彼女の髪をそっと撫でた。


 うん。きっと胸が潰れそうなくらい不安で仕方がない。


「……う、えぁ⁉」


「ありがとな、待っててくれたのすげー嬉しい」


 変な声を上げて固まる彼女に言って、俺はグラン、ボーザック、ファルーアにも声をかける。


「ごめん、説明はあとでするけど――皆もありがとう」


「いやお前、それはいいが……ディティアが固まっちまってるぞ」


 呆れた声で告げるわりに、グランはこれでもかってくらい笑顔だ。


「あんたそれ……どんな気持ちなの?」


 苦笑するファルーアに、俺は歯が見えるくらい唇を引いて笑ってみせる。


「逆の立場だったら俺も死にそうなくらい心配しただろうなと思って」


「うわ、自分でそれ言う? もー、ハルト! あとで心配したぶん叩きのめすから覚悟しといてよ?」


 ボーザックがわざとらしいため息をついてから不敵な笑みを浮かべるので、俺はふんと鼻を鳴らして目を眇めた。


「言ったな? 全力でこいよ〈不屈のボーザック〉!」


「……へへ、そっちこそ言ったね? じゃあお望みどおりにしようか――全力でいこう〈疾風のディティア〉」


「はい。全力でお相手します――〈逆鱗のハルト〉」


 俺は真っ赤になりながら頬を膨らませて突然言い放ったディティアに、ぎょっとして手を引いた。


「えぇっ⁉ ちょ、ちょっと待って――おいボーザック……! ど、どういう……」


「死ぬほど心配したからさー『俺たち』! ね、ティア?」


「うん――それに頭を撫でるのは……その……恥ずかしいですハルト君!」


「おいハルトー、動けなくなるのは勘弁しろよー。もう運んでやらねぇからな? ……よーし飯だ、行くぞ!」


 そこでグランが豪快に笑うので、俺は思いっ切り顔を顰めた。


「え、いや……グラン。ちょっとこれはさすがに……!」


 すると金色の髪を一房取って指先に滑らせながら、ファルーアが妖艶な笑みを浮かべる。


「〈爆風のガイルディア〉も参戦してくれるそうよ? よかったわねハルト」


 ――は、はあ⁉ う、嘘だろ……。


 俺は諦めなのか絶望なのかわからない気持ちで肩を落とし……歩き出した皆と一緒に門へと向かう。


 当然、帝国兵に話は通っているんだろうな。


 門番らしき甲冑たちが、門の横の小さな通用口からすんなりと中に入れてくれるのだった。

 


本日分です!

戦闘がしたい……ので、次は稽古をしつつ。

引き続きよろしくお願いします!

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