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逆鱗のハルトⅢ  作者:
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思惑の交錯⑥

 ……ところが、である。


「皆さんすみません。これから遺跡の封鎖作業があるので、夕方に帝国宮ていこくきゅうの前で会いましょう!」


 ストーは両腕を広げてにこにこと笑顔を浮かべると、何人かの職員らしき人たちと出ていってしまった。


 おいおい。俺たち放置かよ。


「ったく、なら先に言えってんだ。おい支部長。『漁師組合』ってのがあると聞いたんだが」


 グランはわざとらしくため息をついてみせ、一緒に取り残されている支部長シヴィリーを見る。


 彼女は重心を右足に移し左手を腰に当てると、高い位置で結った豊かな茶髪を揺らした。


 大きな猫目がぱちぱちと瞬かれると……まるで橙色の火の粉が爆ぜるようだ。


「ああ、それなら定期運行の馬車で行くといい。この町の地図を進呈しよう」


「あの……お借りした道具もお返ししたいです」


 ディティアが言うと、彼女は大きく頷いてくるりと背を向けた。


「では斡旋部屋の一番にいてほしい。すぐに準備して向かうよ」


******


「君たちも災難だったね。それとも『持っている』と言うべきかな。まさかウィルヘイムアルヴィア皇帝がいらっしゃるとは」


 斡旋部屋に移動した俺たちにシヴィリーは開口一番そう言った。


 うーん。素直に喜べるものじゃないのは確かだよな。


 彼女は書類と一緒に淹れたてのお茶も運んできてくれて、慣れた手付きで全員にお茶を配ると書類から地図を取り出してテーブルに置いてくれる。


 花と果物が混ざり合ったような甘酸っぱい香りがふわりと立ち上り、ディティアとファルーアは嬉しそうにふうふうと息を吹きかけてから、そっと口に含んだ。


「……はい、これが地図だ。漁師組合はここ。定期運行の馬車が止まる停車場は帝都にたくさんあるんだけど……階段や細い路地が多い町だから自分で歩けるようになるのをお勧めする」


 シヴィリーは赤いペンでさっと丸を付けて、トレジャーハンター協会支部にも線を引いた。


「ただ、トレジャーハンター協会アルヴィア帝国帝都支部の前にある停車場から漁師組合を通る馬車が出ているから、今回はそれを利用するといい」


「どのくらいの頻度で馬車が出る?」


 グランが地図を覗き込みながら言うと、彼女は笑った。


「ひっきりなしに来る。主に研究員たちが使うんだ。町の主要な店にも止まるから一度ぐるっと乗ってみるのもいいかもしれないな」


「へー。ラナンクロスト王都のトロッコみたいな感じかな」


 ボーザックが言うので、俺はなるほどと頷いた。


 俺たちの故郷ラナンクロストの王都は山ひとつを丸々都市に仕立て上げた造りをしている。


 その主要箇所を繋ぎぐるぐると円を描いた線路が整備されていて、五連トロッコが随時運行しているんだ。


「そう思うと少し親近感が持てるね」


 ディティアがふふと笑うので俺も笑って「そうだな」と応えて地図を覗き込む。


 上へと伸びた都市をこう……ぺちゃんこに潰したらこんな感じなのかなっていう地図で、大まかな施設の場所が記されている。


 ちなみに俺たちが渡ってきたのは町の西側にある橋だ。


 まだこのあたりは橋に近いから地図の左端にあり、帝国宮ていこくきゅうは北なので上端、目指す漁師組合は南らしく下端に位置している。


「そうだシヴィリー、浮き袋買える店ってあるかな」


 俺が聞くと、彼女はお茶をひとくち呑み下して幸せそうな吐息をこぼしてから言った。


「ふぅ――それなら漁師組合に言うといいよ。彼らのものならどこよりも安全だ」


 ……好きなんだろうな、このお茶。


「そういえばシヴィリーさん、このお茶もお土産にしたいんですけど」


 そこで突然ディティアがぽんと手を合わせる。


 俺は思わず眉根を寄せた。


「あいつに土産なんか送らないからな」


 すると、お茶を口に運びながらボーザックが笑う。


「あれあれハルトー、誰もシュヴァリエになんて言って――」


「五感アップ、五感アップ」


「ない――熱ッ!」


 すかさず投げてやったバフにボーザックの感覚が研ぎ澄まされ、彼は舌を出すと涙目で訴えてくる。


「ちょっと! 新しい方法だけど――俺で試すのやめてほしい」


「安心していいぞボーザック? 火傷しても治癒活性してやるから」


「そのあとに舌噛んだら、俺、治りが遅くて悶絶しちゃうじゃん」


 ――ちなみに治癒活性のバフは傷が治るのを助けてくれるバフだ。


 その代償としてバフが切れると傷を負っていた場所の治癒が遅くなるため、続けて傷になると重症化しやすい。


 使いどころが難しいバフでもあるってわけだな。


 そんな俺とボーザックのやり取りを笑顔で見守っていたシヴィリーはそこで地図の右端を指した。


「町の東側がカタンと呼ばれる市場なんだ。そこに行けばなんでもある」


「帝都の市場ともなりゃ、いいもんが揃ってそうだな」


 グランはそう言い終えると一気にお茶を飲み干し、テーブルに両手を突いて立ち上がる。


「よし、さっさと行くぞお前ら。夜は久しぶりにたらふく食うからな。腹ごなしもしておかねぇと! 世話になったなシヴィリー」


「こちらこそ仕事があったらお願いさせてもらう身だ、気にするな。――気をつけるんだぞ〔白薔薇〕。ここはアルヴィア帝国。様々な思惑が絡み合う研究大国だ」


 思惑ね……。


 魔力結晶の研究、それを使った道具の開発。紅い粉の蔓延――。


 俺はシヴィリーの言葉に知らずごくんと喉を上下させるのだった。


すみません更新がまちまちになっています!

在宅勤務で家にいるのに書けないとはこれいかに……

いつもいらしていただいている皆様、本当にありがとうございます!

引き続きおつきあいいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

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