第8話 親指姫サンベリーナ
第8話 親指姫サンベリーナ
赤ずきんメイジーとマッチ売りの少女アンネ・マリーは草原で休んでいた。
アンネ・マリーが水分補給に葡萄酒を飲んでいると地面に親指ほどの大きさの少女が倒れているのを見つけました。
「見るっすよメイっち、とても小さな女の子っす」
「もうその呼び方やめてって」
アンネ・マリーは優しく少女を手のひらに乗せメイジーに見せた。
「妖魔の類か」
「というより妖精さんに近いんじゃないっすか」
二人で話していると小さな少女が目を覚ました。
少女は二人の人間に見つめられ怯えている。
「あんたは妖精さんすか?」
「私はサンベリーナと申します。花から生まれた花の精です」
「なんであんなところで倒れてたんすか?」
「実は、野ネズミのおばさんにお世話になっていたのですが、モグラ地主の若旦那に見初められ結婚するとという話になってしまったんです。私それが本当にいやで逃げてきたんです」
「た、大変だったな」
「ねぇ、お腹は減ってないっすか?」
「……はい、ずっと走って逃げてきましたので」
「じゃあ、飯にするっすよ!」
アンネ・マリーは食べ物と飲み物をサンベリーナに分けてあげた、といっても微々たる量だったが。
食事も終わり一息つき、サンベリーナが二人に話しかけた。
「お二人は何をなさっている方々なのですか?」
「あたしらはハンターっす。妖獣や魔女狩るのが仕事すかね。まぁ、あたしの本業はマッチ売りなんですけどね」
「とか言って、アンタがマッチ売ってるところ見て無いだけど」
「それは心の持ちようっすよ」
「意味分かんない」
呑気に話をしていると、突然三人の近くの土がモコモコと盛り上がった。
「いけないですわ! モグラが追いかけて来たみたいです。皆さん逃げなければ!」
「モグラ? ってさっき話してた若旦那っすか」
「そうです! さぁ早く!」
「お前とと結婚する気は無いとハッキリ言えばいい」
「言って通じる相手ではないんです! しかも、最近何か、突然荒々しくなる瞬間があって怖いんです!」
土の中からそれは現れた。
スーツを着ているが、土まみれのモグラだった。しかもサングラスまでかけている、基本土の中で暮らしているにもかかわずだ。
「ハニ~、こんな遠くにお散歩なんてどうしたんだ。明日はオレたちの結婚式だろうが。早く戻って準備をしないと~」
「わ、私はあなたと結婚する気はありません!」
「さ、早く帰って、式のリハーサルだよ、ハニ~」
なるほど、全く聞く耳を持たないようだと、二人は納得した。
「オレが作らせたウェディングドレス、早く着てるところ見たいなぁ~」
ガツン!
メイジーは鞘で思い切りモグラの頭を打ちつけた。
「おい、獣。この子はお前と結婚しないと言っている」
「な、なんだお前らは! そうか、オレたちの仲を引き裂こうとする悪党だな~!」
「ちょいちょい、獣風情があたしらを悪党呼ばわりっすか。いい加減にしないと退治しちゃうっすよ♪」
「フッ、愛に障害は付き物だというが、これがそれかッ!」
チッ!
舌打ちをするメイジー。
いちいち芝居がかった物言いにメイジーは大分イラついていた。
するとモグラは土に潜った。
「どこに行った!」
モグラは土から出ては違う場所からまた土に潜る。それを繰り返し穴を増やしていった。
「穴を増やして攻撃場所を増やすつもりみたいだアンネ・マリー」
「全く、これで勝てると思ってるのが獣レベルっすね!」
そう言いながらアンネ・マリーはダイナマイトに火を付け、穴の一つに落とした。
少しの間の後、地面からボン!という音がした。
しばらくして一つの穴から瀕死のモグラが這い出てきた。
「ひ、卑怯だぞ、……お前ら……ガクッ」
そしてモグラは倒れた。
紐に吊るされたモグラが目覚めた。
「おいモグラ」
メイジーが刀の刀身をモグラに当てて呼びかける。
「もうこの子に付きまとわないというなら解放してやるぞ」
「フッ、ハニ~と一緒になれないなら死んだほうがましさぁ~」
「よし死ね」
「待った! 待った! 言葉のあやだよ。死にたくない、死にたく・な・い!」
「ならもう付きまとわないな」
「どれくらい待てばいいですか?」
「お前……、状況をよく理解していない様だな。『一生』近づくなと言っている」
「はぁ!?」
「はぁ、じゃねーから。分かったのか」
メイジーは刀身をより強く押し付けながら質問した。
「分かりました! 分かりましたから!」
「約束を破ったら2枚に割るぞ」
メイジーは刀でモグラを縛っていたロープを切り裂いた。
解放されるやモグラはサンベリーナに向け駆け出した。
「最後に、最後に別れのキスを!」
「やはり何も分かってなかったのか」
メイジーはモグラを一刀両断にした。
「それじゃあ、達者で暮らせ」
「どこかで会ったらまた一緒に飯っすね」
二人の別れの言葉に、サンベリーナは勇気を振り絞って言った。
「お二人の旅に私も同行させてもらえませんでしょうか!」
突然の予期せぬ願いに、二人は言葉が詰まった。
「あのねアンタ。私たちの旅は危険なの」
「小さい私にしかできない事があるかもしれません。決して足でまといにならないようにしますので!」
「私はいいよっすよ。本人には覚悟があるみたいだし」
「でも、危ないし。何もこんなしょうもない魔物狩りの人生を自ら進む必要だってないだろうし、私だって正直もうめんどくさくなってるし、本当にいやいやだし」
愚痴が止まらないメイジーにサンベリーナが哀願する。
「お願いします!」
「いいじゃないっすか」
アンネ・マリーはサンベリーナを自分の胸ポケットに入れた。
「大丈夫っすよ。リーナっちは、あたしが危ない目には合わせないようにするっすよ」
こうして、親指姫サンベリーナは赤ずきんメイジーとマッチ売りの少女アンネ・マリーと旅を共にすることになった。