第10話 長靴をはいたネコは斬り裂き魔
第10話 長靴をはいたネコは斬り裂き魔
悪党を斬り殺す、という事件が多発している街があった。
赤ずきんメイジー、マッチ売りの少女アンネ・マリー、親指姫サンベリーナの三人はこの噂を聞きこの街にやって来た。
街の雰囲気は悪く、澱んだ空気が流れていた。
「元凶に近い」
メイジーが口を開いた。
「いやー、これマジヤバいっしょ。なんか気分悪くなってきたし」
「早く倒さないといけませんね」
キャー!
路地裏から悲鳴が聞こえた。
行ってみると、女性が数人の荒くれ者に襲われていた。
「やれやれ」
メイジーは刀に手をかけ進んだ。
何者かが荒くれ者どもの近くに飛び降りたかと思ったら、その男どもは全身から血を流し倒れた。
「天誅ニャリ」
男たちを切り裂いたのは長靴をはいたネコだった。
惨劇を目の当たりにし、襲われていた女性は走り去った。
「あんたが噂の斬り裂き魔ね」
「斬り裂き魔? 何のことニャ。我は悪党を成敗しているだけだがニャ」
「悪党だろうと、全てをその場で殺していい道理ではない。法の裁きを受けさせる必要がある」
「法? そんなもの、人が勝手に定めたもの、動物のオレにゃ関係ないニャ」
「確かに! その通りっす! このニャンコ頭が回るッスね!」
アンネ・マリーがうなずづく。
「いやいやだめですって! たとえ猫様であろうと、直ぐ殺してしまうのは問題だと思います」
アンネ・マリーの胸ポケットの親指姫サンベリーナが諭す。
「とにかく、あんたを野放しにすることはできない」
メイジーは刀を抜いた。
「ほう、我とやろうというのかニャ」
ネコも剣を正面に構えた。
剣と剣が交わる音が鳴る。
「お主、やるニャ」
「あんたも、獣の割にはね」
戦いはやがてメイジーに有利に流れた。
速いとはいえ、何度も見れば目は慣れる。くわえネコと人とのリーチの差を活かし、体術でダメージを蓄積したいった。
そして決着の時が来た。
メイジーが刀を振り上げ、ネコの剣が宙を舞った。
「ここまでね」
刀をネコの首に落としメイジーが言った。
「フ、煮るなり焼くなる好きにするニャ」
「生憎と猫を食べる習慣は無い。その代わり聞きたいことがある」
「なんだニャ」
「世界に邪気をばらまいているカエルの事を知らないか」
「もっと具体的な情報はないのかニャ」
「元々は王子だったらしい、魔女に呪いをかけられたカエルになったそうだ。呪いが解けないカエルは世界にも自分と同じ不幸を願い、そして世界に邪気が漏れ出した」
「ひょっとしたら、オレに殺人衝動を与えているのがそいつかもしれないニャ」
「場所は分かる?」
「いや、だが方向は分かる、ここより北の方ニャ」
「貴方も一緒にそのカエルさんを退治しに行きませんか?」
サンベリーナが聞いた。
「我を殺さないのかニャ」
「貴方は悪人しか相手にしなかったと聞いています。そして殺してしまうのもそのカエルさんが原因です。ならば貴方は全面的には悪くはないと思います。あ、あのあくまでも私の私見ではありますが」
サンベリーナは二人の顔を伺いながら伝えた。
「許してくれるのかニャ」
「許す、許さないはとりあえずおいておくってことだ」
メイジーは刀を鞘におさめた。
「分かったニャ」
すると、猫は跳ね木上に登った。
「一緒にいると、いつお主たちを襲ってしまうかわからないニャ。我は単身、そのカエルを狩りに行く」
そうしてネコは姿を消した。
「とにかく、次に行く方向は決まった」
「そうですよね、あの猫様もほっておけないですし」
「サッサとカエルやらないと、気分悪くてマジやばいっしょ」
こうして一向は北へと向かった。




