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クラスメイト  作者: 渡瀬 琴葉
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4月3日

 「ナギちゃんだよね?」

突然知らないヤツに話しかけられた。誰だっけ、コイツ。そんな風に思っていると、そいつは

「ほら、アイだよ、アイ。高校で三年間同じクラスだったじゃん。」

と名乗ってきた。ますます分からない。

「えっと…」

突然のことに驚いてしまった。

「ほら、私ナギちゃんの後ろの席だったじゃん。もう忘れちゃったの?」

「あ、うん覚えてるよ。そう、だったね。」

突然のことで動揺して変な応答をしてしまった。待て、後ろの席だと? 確か後ろの席のヤツの名前は塩原日菜だったはず。もしかしてコイツ塩原か?

「えっと、苗字なんだっけ?」

「え?鹿沼だけど・・・」

「あ、そうそう。鹿沼さんだったね。」

塩原じゃなかった。それに、やっぱり覚えがない。そもそも同クラに鹿沼なんてやつはいなかったし、塩原のばあちゃんの苗字は茂木だ。何者なんだ、コイツ。

「とにかく、今年もよろしくね。」

そう言うと鹿沼とかいうヤツはどこかへ言ってしまった。よくラブコメなんかに出てくる「どこかで見覚えが」的なのもない。入学早々、変なのに絡まれてしまったものだ。


 オリエンテーションがやっと終わった。さあ、帰ろう。そう思って帰り支度をしていると、

「ナギちゃん、ナギちゃん」

また来た。これで今日三回目、ホントに何なんだ、コイツ。

「なに?」

「今日さ、一緒に帰らない?」

「うん、いいけど。」

まあ、帰るだけならいいか。どうせ大学前のバス停までだろう。

「ナギちゃんはどこに住んでるの?」

「私は出町柳の方だよ。アイは?」

「私も出町柳の方だよ。」

なんと、同じ方面。これは面倒なことになりそうだ。それにしても、今朝見かけただろうか?バス停にいなかったような気がするが…でも私の前か後に来たことも考えられなくはない。というか、私のように出町柳からわざわざ通っているヤツが他にもいたとは驚きだ。

「ナギちゃん?」

「あ、ごめん。そっかアイも出町柳なんだね。」

急に呼ばれたので素っ頓狂な声で反応してしまった。とにもかくにも、こんな面倒そうなヤツと一緒に帰るなんてゴメンだ。穏便に済ませよう。

「申し訳ないんだけど、私、今日用事あるんだ。一緒に帰りたかったけど、また今度ね。」

「そっか。じゃあ、また明日ね。」

鹿沼は教室を出て行った。

 さっきの、三年間同じクラスだった、というのがどうにも引っかかる。三年も同じだったら、名前までは覚えていなくとも見たことぐらいはあるはずだ。しかし、それすらない。誰かに似ているような気もしなくはないが…

「アルバム、見返してみるか…」

私は教室を出た。


 廊下を歩いていたら、アイツがスロープの手すりにもたれかかっていた。なんだ、帰ったんじゃなかったのか。

「やっぱり待っていようと思って。」

…結局一緒か。人見知りの私にとっては初対面のヤツと一緒に帰るなんてストレスでしかないのだが。しかしコイツがここまでしてくれる思いを無下にするのはむしろ失礼に当たるだろう。

「ありがとう。やっぱり用事は後でもできるし、今日は帰ろう。」

「そっか、ごめんね。じゃあ行こ!」

 上機嫌だ。私が言うのもなんだが、案外単純なんだな、コイツは。

大学を出てバスに乗り、私たちは家へ帰った。道中ずっとアイが話していて、俺はほとんど相槌を打つだけで話さなかった。聞き上手だとよく言われるが、こういうときにこの才能は役に立つ。聞いているだけで終わることほど楽なものはない。少々鬱陶しいが我慢だ。

「―でね、ユッカが―」

「―そうなんだ―へえ―」

コイツ、初日で一体何人友達ができたというのか。さっきから数えているだけで五人は出ている。これだけコミュ力が高いのは結構羨ましい。しかし、ちらっとアイの顔を見たが、そんなに楽しそうな感じではない。声色こそテンション高めでいかにも楽しいという感じだが、どこか陰っている。―どこかで見たような顔だ。


 出町柳のバス停に着いた。ここでお別れか、と思いきや

「あれ、ナギちゃんもこっちの方面なの?」

おい、嘘だろ。

「実はね、私もこっちなんだ。」

予感的中。くっそ、まだ一緒なのかよ。

「だからさ、別れるまで一緒に…いいかな?」

もう仕方ない。てか、なんでそんなに恥ずかしそうなんだよ。まるで私自身を見ているみたいだ。私は無言で頷いた。

 バスを降りてからもアイはずっと話していた。表情は相変わらずだ。私が何かアクションを起こしたら表情が変わったりするのだろうか?なぜかそんな興味が湧いた。

「あのさ、アイ。」

「うん?」

心なしか、少し表情が明るくなったように感じた。

「明日からさ、一緒に学校行こうよ。」

「いいよ!嬉しい!」

すごく嬉しそうだ。良かった。それにしても、なんだろう、この複雑な気持ちは。このテンションの差といい、どこかで見たような雰囲気だ。


 下宿先に到着した。

「あ、私ここだから。」

「そうなんだ。じゃあ、ここでバイバイだね。

「うん、また明日。」

そんなことを行ってエントランスに向かった。ちらと後ろを振り返ったが、そこにはもうアイの姿はなかった。やっと解放されたか、というちょっとした安堵感に包まれた。

 部屋に戻って鞄を置き、私はベッドに倒れ込んだ。目線の先に、卒業式の日につっきーと撮った写真が見える。彼女は私の、高校での数少ない友人だ。

「会いたいなぁ。」

そんなことをぼんやりと思いながら、やることを思い出した。そうだ、アルバム。

「この辺に…あった。」

ダンボールの一番下に入っていた。早速取り出して中を見る。

 クラスのページ―ここだ。一組から順番に見ていく。と、三組にアイに似た感じの女の子の写真があった。

(ひなた)…」

私の双子の妹だ。アイの顔と比べてみると、目や笑ったときの口が似ている。妹と似ているのになぜ気付かなかったのだろう。いや、問題はそこじゃない。陽は広島の大学に進学した。だから京都の、しかも同じ大学にいるはずがない。五組のページを開く。ここにもアイに似た顔の写真があった。

「つっきー…」

私の友人の一人で、中学校からの付き合いだ。髪が長く、背が高く、面倒見のいい子だ。それに美人。アイの髪の長さや身長はつっきーに近いものを感じる。

 六組―私のクラス。三番、岩舟凪。そして―八番、鹿沼アイ。彼女の名前が確かにあった。

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