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百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない  作者: 稲荷竜


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86話 やすらかなる婚前準備

 どうして人は競争しなければならないのだろうか?


「誰に招待状送ろうか?」


 結婚式である。


 式場を見に行ったり算段をしたりしているうちに季節はもうすっかり秋をすぎようとしており、学園への通り道にも葉を枯らした木がチラホラと見えるようになっていた。


 結婚式までもうあと半年とないこの時期、俺たちはいよいよ具体的に式の全貌を描かざるを得ないタイミングを迎えていた。

 段取り、そして招待客。


 客の数は新郎新婦でそろえるのがのぞましいらしい。

 つまり新郎vs新婦のコミュ力の総決算みたいなものが開催されるのだ。


 ここで相手よりも招待客が少ないと、それは今後の結婚生活に長くかかわってくるらしい――具体的には『招待客の数』というよりも『ご祝儀の金額』なのだが、資本を重要視するこの社会では、結婚まで『いかに他者より稼げるか』というマネーゲームと化すのだ。


 俺とミリムのあいだにそんなつまらないいさかいは発生しない――そう、現時点の俺は思っている。

 だが、今後ミリムのヒモになるからには、結婚式ぐらいは稼いでおくべきだろう。

 俺はそういうわけで、自分が呼びたいと思うような人をピックアップしていった。


 祖父母で四人。

 もちろん両親。

 マーティン。

 カリナとサークルのメンバー。

 生徒……生徒はアリか? うーん、クラスの連中? いやさすがに……まあ文芸部の子らぐらいは呼んでもいいのかな?

 あとシーラも俺の顧問弁護士みたいなところがあるので、都合がつけば来てもらおう。


 共通の知り合いではもちろんアンナさんも呼ぶ。


 こうして考えていても、誰か一人二人忘れているだろうから、またなん度かカウントしなおそう。

 なぜだろう、絶対忘れるんだよな……いや、忘れていないのかもしれないけれど、忘れてるっていう強迫観念にかられるんだ。

 あっ上司……上司か……うーん、まあ一応呼ぶか。正直プライベートでのつきあいがなさすぎて微妙な感じだけど、今から式までに『こいつにご祝儀払うのは仕方ないな』ぐらいまで好感度を上げておこう。


 こうして『結婚式に呼ぶような相手』をカウントしていくと、意外な多さにおどろく。


「……なんか、多いね」


 テーブルを挟んで自分側の招待客を選んでいたミリムも、予想外に多かったらしい。

 俺たちは互いを見て笑う。


 互いに発表した招待客の人数は奇しくもぴったりで、ミリムの親戚はだいぶ遠方からも来てくれるようで、俺たちはかかわる人数の膨大さにあらためて『結婚式ってすげーな』という感想を抱いた。


 準備ははっきり言って大変で、よくわからないところに金が流れていくのはちょっとモヤッとしないでもなかったが、まあこうして計画を練る時間は悪くないと思った。


「すごい。なんにもない」


 ミリムはそんなことをつぶやいた。

 主語の明確でないその言葉は、きっといろんな意味をはらんだものだったのだろう。

 問題がなにもない。

 事件もなにもない。

 大過なく、日々がすぎていく。


 ふと俺は弛緩している自分に気づく。


 張り詰め続けて生きてきたとは言えない。そんなことは不可能だとわかっていたから、ある程度警戒する対象を選別し、それ以外ではリラックスをたもつように生きてきた。


 それでも心の底では、世界に、『敵』に対する警戒を抱き続け、いつ窮地におちいっても一瞬で心を臨戦状態にできるよう己を戒めてきたはずだ。


 だというのに、結婚式の準備をしている俺は、心の底から弛緩していた。


 これではいけない。この弛緩は『敵』の罠かもしれない――そうやって自分を叱咤してもゆるんだ心が引き締まることはなかった。

 どことなくぼんやりしたまま日々がすぎていく。授業にも部活にも身の入らない時間が流れ、秋は気づかないうちに終わり、冬が過ぎ去り、俺はいつのまにかまた一つ歳を重ねて、そして――


 ある、うららかな春の日だ。


 俺たちはついに、式をあげた。

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