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百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない  作者: 稲荷竜


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64話 レックスはママですか?

 ところで俺とマーティンの関係も未だに続いていて、俺たちは互いの家に行くことがある。


 俺の家にマーティンが来た場合、俺たちはなにをするでもなくダラダラと話す。出前とかとる。ファミレスとかいく。話題はない。目的もない。

 それでも俺たちは胸襟を開いて益体もない話をするのだ。


 しかし俺がマーティンの家に行った場合、その日は話をする余裕もない。


「レックスママ、助けて」


 いつだってそんな救援依頼を受けて俺はマーティンの家に行く。

 そうして数々の『武装』を道中でそろえ、そいつの家のドアの前で俺は言うのだ。


 レックスだ。掃除しに来たぜ。


「ママ!」


 マーティンは幼い子供かあるいは飼い犬のように俺に抱きついてくる。

 俺は相手の勢いを受け流してマーティンを後方に投げたあと、マスクと手袋と三角巾とゴーグルを装備し、バケツいっぱいの洗剤や掃除道具の重みをたしかめながら、中に入る。


 マーティンの家は汚い。


 洗剤や掃除道具は、マーティンの家においておくと『使わなさすぎておいてある場所がわからなくなる』のでその都度持ち帰り、足りないぶんは道々で補充している。

 おかげで俺の家には俺の家用の掃除道具のほかに、『マーティンの家用』『カリナの家用』が存在する。


 今日の俺は鬼軍曹だ。いつまでも落下防止フェンスに背中をぶつけて痛がっているマーティンに優しく声をかける。ハッハッハいつ来ても素敵な家だなあマーティン二等兵! 貴様にお似合いのゴミだめ(直喩)だ! 口から垂れ流したクソが排水溝に詰まって水が流れねぇじゃねぇか! どうやったら三ヶ月でここまで汚くできるのか言ってみろ!


 俺はマーティンが口からクソをたれ始めたタイミングで軍手を投げつける。


 まずは荷物をどかすところから始めねぇと床が見えねぇな! マーティン二等兵、このゴミだめのゴミどもを『燃えるもの』と『燃えないもの』に分別しな! 『残したいもの』があるなんて言わせねぇ! だがそうだな、十秒以上『残そうかなあ』と悩むようなもんはたいていいらないものだから、処分に回せ!


 マーティンが「サー! イエッサー!」と敬礼した。

 俺たちの関係はノリがよくないとやっていられないし、そもそもノリをよくしないと俺が『なんで俺は幼なじみの家を掃除とかしてるんだ? ヒロインなのか?』というまっとうな疑問を抱いて手を止めてしまうので、ノリは大事だ。


 俺たちはノリノリで部屋の片付けをしていく。


 あっというまにゴミ袋が三個も四個も出て、排水溝の詰まりは改善し、湯垢だらけの風呂はもとのクリーム色を取り戻していった。

 ガスコンロの上に置かれていた大量の漫画雑誌が縛られて、ようやくコンロの姿が見えるようになったころ、俺たちはいったん休憩を入れるために食事に出た。

 掃除に来た時だけは、マーティンが俺におごるのがルールだ。


「レックスママほんとありがとう」


 みんなして俺をお母さん扱いしやがって……

 俺の抱く『ママ』のイメージと、みんなの抱く『ママ』のイメージがどうにも違う。

 俺のママだって専業主婦になってからは(たしか俺が初等科か中等科にあがるころまでは共働きだった気がする)家事はしてる。家がゴミだめだったことはない。


 しかしそんな熱心に家事をするイメージがあったかと言うとそんなことはなくて、なんかこう、のほほんとしながら趣味に打ち込む時間が多かったような、そういうのが俺の『ママ』だ。

 ママっていうのはそう、なんていうのかな……自由で報われてなきゃいけないんだ。こんな鬼軍曹ロールプレイしながら他人の家を掃除しにくるマスク男はママではない……


「俺が大学卒業して、社会人になって……結婚してもさ。……こうやって掃除に来てくれよな……」


 マーティン……

 死ね……


 俺たちはこうして友情をたしかめあい、食事をとった。

 戻ったら、ようやく見えてきた床の掃除を始めようか――

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― 新着の感想 ―
マーティン、掃除しろ
マーティンとレックスの関係すこ
[一言] こいつら仲がいいな、久しぶりのマーティン、最近見かけなくて気になっていたんだぜ
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