表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない  作者: 稲荷竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/164

62話 彼女の話

 マルギットという二歳年下の子がバイトに入ってきたのは夏になろうかというある日のことで、そいつはどうやら俺のことを知っているようだった。


 通っているのが同じ学園ということだったので、そこで俺は不本意ながらも有名人だったようだし、そういうことだろうと勝手に納得していた。


 だが、そうではなかったらしい。


「ミリム先輩からよく聞いてるんですよ」


 マルギットはなぜか機嫌悪そうに言う。

 彼女はいつだって機嫌が悪そうだった。それも『そういう顔』とかじゃなく、俺に対してだけ、機嫌が悪い。きっと俺が無自覚になにかしているのだろうと思う。人はすべての行動を自覚的にできるわけじゃないから、そういう可能性は考慮してしかるべきだ。


 彼女の顔立ちはどこか子供臭さの残る感じで、背も低いので、周囲の大人たちからよくちやほやされている。

 俺もちやほやしたかったのだが、俺たちの関係は決して良好とは言えなかった。


 赤茶色のお下げをもてあそぶクセが印象的な彼女は、休憩時間になるとなぜか俺にからんでくる――まあ休憩時間がかぶっても休憩場所が複数あるわけではないので、自然、狭い場所に二人きりになるから、しょうがないのだけれど。


「レックスさんは……ダメだと思います」


 拝聴しよう。

 俺は常に自己改善のための助言を求めているタイプだ。人は己のことを己一人では把握できない。いつだって、俺はアドバイザーというものをそばにおいてきたのだ。


「ミリム先輩は……言葉少ないけど、かっこういい人なんですよ。それが……」


 俺がどうダメなのかという話を始めたはずなのに、マルギットがするのはミリムの話ばかりだった。

 俺はいくつもの『俺の知らないミリムの話』を聞くことができた。運動神経が万能だとか、後輩の面倒見がいいだとか、成績も優秀だとか、そういう話だ。


 マルギットの話を聞いていて、俺はとある点と点がつながったような気がした――前にミリムがちらりと言っていた『女の子に告白されたことがある』という話、あれ、相手はひょっとしたらマルギットなんじゃないだろうか、と。


 もちろんそんなことを本人に確認するほど野暮ではない。

 とにかくマルギットは不機嫌そうにいくらでもミリムのことを語ってくれたし、俺は、ミリムについての新鮮な情報をいくらでも聞き続けることができた。


 休憩時間の終わりぎわ、またミリムのことを話してほしい、と言った。

 マルギットは不機嫌そうだったけれど、断りはしなかった――まあ、他に俺と休憩時間がかぶった時に話すこともないだろうし、自然とそうなるだろうとは、彼女も思ったんだろう。


 俺は休憩室から出る時に、ミリムに一つ連絡をした。

 スポーツ万能だったんだって?


『まあね』


 絵文字もスタンプもないけれどなんとなく嬉しそうなミリムの顔が浮かんだ。

 これからもマルギットとの会話は大切にしていきたいと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ