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百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない  作者: 稲荷竜


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59話 それぞれの展開

「次は、今回やりかけたぶんがあるから、いつもより早くできそうだね」


『人は失敗から学ぶ生き物だ』と言われていたのは、いったいどこの世界だったか?


 もしくはカリナはギリギリの中に光明を見いだしていくのが好きなのかもしれない。

 たまにいる。逆境を楽しむ――より正確に述べれば、『逆境からの脱出』を好む気質が。

 そういった者に運と才能があれば『英雄』と呼ばれるようになる。


 カリナはひょっとしたら英雄の器なのかもしれない、と思うことはある。


 なんだかんだ今まで致命的失敗はしていないのだ。

 今回だって『土下座コピー本』というものを作製することになったが、ヤケクソで仕上げたはずのそれは妙に評判がよく、「ギリギリでこのクオリティなら、次もギリギリまで追い詰められてください」なんて冗談で言われたぐらいだった。


 俺は英雄という人種を知っている。


 それにかかわった人生もあった。俺がそうじゃないかと思っていた人生も、あった。

 俺にだって人並みの英雄願望はある。神の寵愛を嬉しく感じ、寵愛がある俺の人生はきっと祝福に満ちているのだと信じていたころも、あったんだ。


 その当時の自分は、『この世界の法則はすべて自分のために動くに違いない』と思いこんでいた。

 だからこそ英雄的行動をしたし、英雄になろうともした。


 まあ、無理だった。


 そもそも英雄として成功していたとして、それが『天寿をまっとうする』ことにつながったとは、とうてい思えない。

 英雄とは地上を駆ける綺羅星(きらぼし)なのだ。シュッと現われ、バッと光って、そして残滓も残さず消えていくのが英雄のありかたである。『長生き』とは対極だ。


 だから俺がカリナに言うのは……そうだな。たった一言。たった一つの言葉だけだ。


 お前……このペースの作業を次もやったら、早死にするぞ……


 あっ、あと普段の食生活もよくないのかキッチンが俺の知らないあいだに荒れに荒れてるし、冷蔵庫にはエナジードリンクと栄養ドリンクしかないし、ベッドもたまに干せよ? 小さな虫とかな、日光で死ぬんだから。ジメッとしたなにがひそんでるかわからないベッドで寝るより絶対に体力回復するって。必要なら俺が簡単な家事のやりかたとか教えるし……


「お母さん……」


 サークル内での俺のあだ名がお母さんになってしまった。


『趣味でBL同人誌の制作指揮をしてる人』といい、このサークルでの活動は俺に不名誉なあだ名ばかりを付与してくる。


 俺はちょっと真剣に、今後もサークル活動に参加すべきかどうか悩んでいた。


 必要か不要かで言えば不要だ。不要っていうか、俺の人生には邪魔だ。

 なにせ祭りのたびに心身を削る。カリナに忠告したように、あの生活は絶対に体に悪い。


 しかも大学のサークルという扱いになり、作業設備などはサークルに置けるようになったが……

 サークルに割り当てられた部屋自体は、カリナの家より狭い。


 今回も『あ、この部屋では睡眠がとれない』と確信した俺がカリナの部屋を作業場にさせてどうにか睡眠をとらせたものの、こいつら夏祭りの準備はサークルでやってたらしいし、なんかもう、『死』に向けて一直線って感じだ。


 しかも彼女らの一直線な勢いは、かかわった者を巻き込んで加速していく。


 まさしく英雄的ありかただ。


 英雄どもは周囲を無自覚に巻き込み、そして早死にさせていく。

 人は綺羅星と同じ速度で人生を駆け抜けることはできない。たいていの凡人は『綺羅星とともに走れた』という満足だけを抱いて道半ばで燃え尽きていくのである。


 俺もまた、そうして燃え尽きる凡人となるかもしれない。


 だが……


 不必要どころか危険と判断してなお、俺はこのかかわりを捨てようと決断できない。


 ……しかし、ミリムから『今回はなんで誘ってくれなかったの』という連絡がひっきりなしに来てるあたり、彼女も俺の身を案じてくれているのだろう。


 ……よし、そうだな。

 寂しさは無視できそうもないけれど、ここは決断の時だろう。


 なあ、カリナ、俺さ、今回でこのサークル――


「あ、待って。なんか通信が」


 カリナは通信端末の向こうにやたら丁寧に応対し、そして、しばらくの会話のあと、「えっ、本当ですか!?」とおどろいた声を出した。

 そして俺を振り返って言う。


「レックス、私――プロになるかもしれない」


 えっ、どういうこと?

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