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百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない  作者: 稲荷竜


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57話 趣味の話

『自分』とはなんなのだろう?


 サークル活動というものをしていない俺にとって、日々は『バイト』と『講義』で過ぎていく。

 したほうがいい、なにかするべきことを見つけたい――そういう思いはあるのだけれど、俺はどうにも、『趣味』を持つことが苦手だった。


 趣味というのは人物を構成する重大な要素の一つだと思う。

 たとえば『Aさん』のことを誰かに紹介する時、どういうふうに言うだろうか? 『十八歳の男性で、趣味は――』というように言葉を続けないだろうか?

 成績、運動神経、経歴……もちろん大事だ。けれど、『ある人とある人を友達にしよう』と思った場合、そこではやっぱり、『趣味』というものが重要なとっかかりになるのは間違いがないだろう。


「彼はレックス。趣味はBL同人誌の制作指揮だよ」


 待てコラ。


 カリナのサークルの新人を紹介されたのは、冬祭りも近いころだった。

 街は翌週にひかえた聖女聖誕祭に向けてイルミネーションでいろどられていたんだが、『そんなリアルが充実した連中のことなんか知るか』というメッセージ性を感じる殺風景な空間――カリナの大学のサークル室――で俺たちは面通しをしていた。


 新人が入ったのは春ごろらしいのだが、俺が今年はバイトの都合で夏祭りに参加できなかったので、今ごろの紹介となったのだった。


 しかし『趣味がBL同人誌の制作指揮』って紹介はさすがにないでしょ?


 そんな趣味聞いたことないし、俺だって趣味で制作指揮をしてるわけじゃない。

 俺以外にスケジュール管理をするやつがいないからやってるだけだ。

 それを『趣味』と言われるのは、もう二冊ほどBL同人誌制作にたずさわった俺でも、少々心外だった。


「じゃあなにが趣味なの?」


 そう、それだ。

 カリナの論法にはひどい前提が無言のままにしこまれている。


 すなわち、『人は趣味があって当然』という前提だ。


 趣味がない、ということをありえないと無意識のうちに断じる彼女の態度に、俺はちょっと不快感を覚えた。

 第一、『趣味がないならBL同人誌制作指揮が趣味だよ』みたいな感じもおかしい。なぜ『他の趣味がある』と『BL同人誌制作指揮が趣味』の二択なのか、これがわからない。


 趣味は特にない。

 そして、趣味でBL同人誌の制作指揮をしているわけではない。

 俺がBL同人誌の制作指揮をしているのは、なんていうか、そう、『俺以外にできる人がいない』というきわめてまっとうな必然性により発生した使命感のようなもので……


「レックスの使命はBL同人誌の制作指揮なの?」


 それも違うんだけどね!

 ダメだ。泥沼だ。なにを言っても俺が人生においてBL同人誌の制作指揮を重要な位置においている人みたいになってしまう。


 たしかに昨今は腐男子(ふだんし)とかいう『自身の恋愛対象の性別がどちらかとは関係なくBLものを純粋に娯楽として嗜好する人』がいるらしく、新人二名から俺に向けられる視線も理解あるものだが……


 俺は悩んだ。

 ぶっちゃけ、俺の趣味がBL同人誌の制作指揮だと思われることで不利益は発生しない。思わせておけばいい――だが、正したい、その勘違い。


 これは人生において必要のない寄り道みたいなものだった。

 生きていくうえで必要がないのにゆずりたくないという、言うなれば俺の『こだわり』だった。


 その時、俺は気づいてしまった。


 俺の趣味とは。

 すなわち――『人の間違いを正すこと』ではないのか?


 想像してみる。

『レックスです。趣味は人の間違いを正すことです』。


 ……ないわ。

 独裁者の気配を感じる。

 BL同人誌制作指揮が趣味の人と、独裁者思考の人と、どちらが評価としてマシなのだろうか……


 うーん。


 ……そうだね! BL同人誌の制作指揮が趣味です! がんばって指揮するぞ!


 こうして俺は後戻りのできない泥沼に足を踏み入れる。

 だが、もはや泥沼をおそれる気持ちはなかった。


 なぜならば、俺はすでに沼にいる。


 今年もまた、地獄のような進行スケジュールによる同人誌作製が、始まる――

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