3
1人で夜空の道を行く
肌寒い季節で、22時を少し過ぎた時間というのもあり人とすれ違うことが少ない
だが、麻代の家族である猫が死んだ場所は私の記憶が正しければ、昼間でも人があまり通らないような、それこそ地元の人間でも知る人ぞ知る車1台がやっと通れるような細い道だったはずだ
現にその道に近付くにつれ人の数がガクッと減っているのを実感できる
そして歩いて20分弱
とうとう人や車とすれ違う事も無くなった
街灯もだんだんとその置かれている間隔がまばらとなっていき、人工の光よりも空に浮かぶ月のあかりの方が頼りがいあるようになってきた
私は白い息を吐きながら綺麗な夜空を見上げ、めちゃくちゃ後悔していた
普通に怖い
なんで私はこんな時間に墓参りみたいな事をする為に歩いているのだろうか?
腕を組み歩きながらながら、20分前の机の前に座っていた自分の浅はかさにため息を吐く
思いついたら即行動する私のよいところが裏目に出てしまったか
…まぁ、ここまでわざわざ歩いてきたのだ
片道30分だから、往復1時間だ
これで目的を果たさずに帰るのは私の人生の時間があまりにも無駄になってしまう
ということで決意を新たに、私はついにその麻代の家族である猫が死亡した場所についた
そこはやはり車1台分の広さしかなく、左右は壁がそそりたち圧迫感がある
しかも電柱や駐車禁止の看板も道横に刺さってるのでせまっくるしい印象が強い
その左側の、何番目かの電柱に真新しい花の束と何故かうまい棒や500mlのペットボトルに入った水が置かれている
その雑多な感じで我がクラスメイト達が置いていったものだと確信した
確信したので、私もその花の束やらが置かれた場所に近付き手を合わせ猫の成仏を願えばミッションは成功、即帰宅なのだが…
何故かその場所に子供がうずくまり、何も言わずにこちらをジッと見ている
私をめっちゃ見ている
私をごっつ見ている
ごっつ怖い
めっちゃ逃げ出したい
え、というか今10時過ぎぞ?
そして何故私をジッと見ている?
なぜ微動だにしない?
軽く混乱したが、私はまっとうな人間を自負している身である
こんな時間にこんな場所に一人でうずくまってる子供を無視するのはよくないことだ
「え、あ、こ、こんばんわぁ…」
「…」
無視である
いや、こっちをガン見してるから無視ではないのか?
私は、両手の掌を子供に見せながら怪しいものを持ってないことを示し話しかける
「こ、こんな時間にどうしたのかなぁ…? ま、迷子?」
「…」
なんだこの空気
今日の私こんなんばっかか
「え、え~と、もしかして、それが気になるのかな~…」
私はうまい棒を指さし言ってみる
「ッ…」
子供が反応した
なるほど
この子共は塾帰りかなんかでこの道を通った際にうまい棒が目にはいりお腹が減ったのだな
まったく、可愛いものではないか
だが落ちてるもの、いや捧げもの? を食べるのはよくないということを年上である私が教えなければ
「そ、それは、ですね? 別に落ちてる訳じゃ、ではなくて、お、お供え物? だから、君は触ったら」
ダンッ!!
瞬間、子供が立ち上がり急に地団太を踏んだ
そして私を見て、ゆっくり近づいて来る
え、なに? なになになに?
私は急にズンズンと近寄ってくる子供に恐怖を覚える
明らかに怒ってらっしゃる
足音を大きく鳴らしながら私に向かってくる
そしてその子供の顔が見えそうなほどの距離になり、私は自分の足が動かない事に気づく
ついでに声も出せない
異常事態に私の心臓は別の生き物かのように大きく鼓動を打ち始める
息も乱れ出し、寒いはずなのに身体が熱くなる
そして子供が
「あれれ! もしかしてそこにいるのは同じクラスメイトの!!」
瞬間、後ろから声がかかる
その声で魔法が解けたかのように呼吸が戻り、足から力が抜ける
私は大きく息をしながらその場にひざをつく
「え!? なになにどうしたの!?」
後ろから誰かが駆け寄り私の背中をさする
「大丈夫!? 持病? って、あれ、子共? あっ」
正面から走る音がする
何とか顔を上げると、先ほどの子共が走って夜の闇に消えてゆくところだった
「な、なんなの?」
私の混乱しきった声も、その夜の闇に飲まれていった