閑話・ラディアス心の叫び
今日私は、天使いや女神を見つけてしまった。
通常殿下の護衛の為お傍を離れる事の無い私だが、放課後生徒会の業務を行っている際だけは、城への報告もかねてお傍を離れる。
学園長の元で報告書を仕上げ、殿下を迎えに生徒会室へ向かう途中それを見かけた。
数人の女性が一人の女性に何やら詰め寄っているのだ。
弱者を寄って集って制裁するなど、もっての他と一言苦言を促すつもりだった。
しかしそれは、天上の調べにより遮られる。
一陣の風の如く颯爽と、それでいて水面に立つ白鳥の如く優雅に彼女は現れた。
美しい微笑みに、皆我を忘れ呆然と立ち尽くす。
囲まれていた女性に向ける笑みは慈愛に溢れており、彼女に大きな安心感を与えているようだ。
それだけではない、彼女は集団で物申していた女性達にも笑みを向けると、慈愛の心を諭していくではないか。
それに促され、一人また一人と謝罪の言葉を述べていく。
謝罪の言葉に平静を取り戻したのか、囲まれていた女性も相手の言い分を受け入れる姿勢を見せた。
一方的に言い募るのでは無く、双方の意見に耳を傾け和解を促す。
女神だ!彼女こそは神が地上に使わした女神に違いない!!
殿下の婚約者候補と言う事で何度かお会いした事はあったはずなのに、何故今日まで気づかなかったのだ!!
そう考えてから思い出した。
そうだ、かの女神はあのアルフレッド殿下の婚約者候補だったのだ……
何故か急に胸が苦しくなった。
「……所詮候補でしかありません。貴女が心から殿下を想っていらっしゃるなら応援させて頂きますわ………」
そんな時丁度良いタイミングで意外な言葉が耳に入った。
我が女神は殿下の婚約者になろうとは思っていないのか!?
貴族令嬢ならば、誰もが欲しているであろう王太子妃の地位を、手にする事が出来る場所にありながら望まないとは、何と欲の無い……いや女神ゆえの欲の無さか。
しかし、婚約者になるつもりが無いと言うことは、この話が無くなれば私にも可能性があるのだろうか?
女神の婚約者……あぁ、なんと甘美な響きだろう。
彼女と婚姻し子供が生まれれば、きっと黒髪の子供が生まれるに違いない。
出来れば女神に似た女の子が…………あぁああぁぁぁぁぁ!!!!!
心の中とは言え、我が女神に対して私は何と罪深い事を考えてしまったんだ!!
欲も穢れも無い女神になんと詫びれば!!
心の中は盛大な嵐が吹き荒れていた。
しかしそんな事をしている場合ではなかったようだ。
話は終わったのか、囲まれていた女性が頭を下げて立ち去るのが見えた。
何か、そう何か一言でも良い我が女神に告げねば……
「……お見事でした」
己の口下手さに呆れる、もう少し気の利いた事は言えなかったのか。
我が女神に対して美辞麗句の一つも言えんとは……
しかし、振り向いた女神を見て私は自分の心が完全に落ちる音を聞いた。
「ご覧になってらしたの?お恥ずかしい限りですわ……」
美しい女神が可憐に頬を染め恥ずかしそうに俯く姿に、心臓が早鐘を打つ所ではない。
早過ぎて今にも止まってしまいそうだ。
早々その場を後にする女神に、もう言葉を掛ける事は出来なかった。
ただ呆然とその後姿を見つめる事しか……