閑話・殿下と義弟の日常
アルフレッドは生徒会書類の中にそれを見つけ、眉間に皺を寄せた。
「ルイス」
副会長を務めるルイスは、机から相変わらず感情の読めない顔をあげた。
「いかが致しました、殿下?」
その鼻先に先ほど見つけた書類を突きつける。
「関係ない書類が紛れていたぞ、確実に処分しておくように」
「そうでしたか、申し訳ございませんでした」
飄々とルイスが受け取った書類には、『婚約者候補除外に関する報告書』と書かれていた。
「あぁ、そう言えばこちらにも殿下の書類が紛れていたようです」
ルイスも同じようにアルフレッドの眼前に書類を突きつける。
聞こえるか聞こえないか程度の舌打ちをして、アルフレッドはその書類を受け取った。
そちらの書類には、『王太子婚約に関する制約及び許可書』と書かれていた。
「諦めが悪いね……君も……」
「殿下こそ、存外しぶといですね」
火花を散らす二人のやり取りに、回りは戦々恐々としながら小さくなっていた。
そう言えばと、不意に思い出したようにアルフレッドが呟く
「連絡が行ったかもしれないけど、ブロイヤ侯爵家とユーレオ伯爵家の令嬢は婚約者候補から外れる事になったから」
その二家は、ルイスがアルフレッドの婚約者に押す為入れたもので。
特にブロイヤ侯爵は古くからの名家に加え、近年経営でも大きな成果を挙げている家で、筆頭公爵家ほどとは言わずとも、政略結婚として押すには都合の良い貴族だった。
やっと滑り込ませて数週間で見つかり、候補から外されさすがのルイスも少々顔を歪めた。
しかし、ルイスも負けていない。
アルフレッドの背中をしっかり見据えると、不敵な笑みを浮かべ
「こちらも五日後の舞踏会ですが、祭事の巫女が体調を崩しまして、何度か受けた事のある義姉が出る事になったので、他の令嬢と出席してください」
と告げた、それは隣国の大使を招いた舞踏会で、アルフレッドはリディアーネをエスコートする事で、隣国に彼女こそ次期王太子妃と印象付けようと狙っていた。
本来なら大事な公務の一つだが、まだ候補でしか無いリディアーネに出席義務は無く。
まして、領民をとても好いている彼女の事だ、無理にこちらを優先させれば嫌われる可能性もある。
強く出れない痛い場所を衝かれ、アルフレッドも渋い顔になる。
「ルイス……薬でも盛ったのかい?」
生徒会室に雪山のような寒さが広がる。
冷たい笑顔の裏には、盛大な怒りが渦巻いていた。
しかし、ルイスの表情は崩れない。
「人聞きの悪い事をおっしゃらないでください、そんな事より殿下も数日で除外など侯爵を敵に回すおつもりですか?」
目を細め淡々と聞き返してくる様に、他の役員は恐怖を覚えた。
「心配ない、しっかり話はつけてある、これは円満な候補辞退だよ」
「そうですか、彼女もただのギックリ腰ですのでご心配なく……」
アルフレッドはしっかりをルイスを見返し、冷たい視線を尚も向け続ける。
しかし、興味を無くした様に自身の机に向き直ったルイスは爆弾発言を落とした。
予想外の情報にアルフレッドは驚き目を見開いて硬直してしまった。
「……祭事の巫女……歳はいくつだい?」
「84です」
当たり前のように履き捨てられたが、それはあまりに……
「早く後継者を探してやれ……」
アルフレッドはさっきまでの怒りも忘れ、ただただ祭事の巫女に同情した。