混乱・困惑・混迷
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内容に変わりはありません。
数日後、新ヒロインからお茶会の招待状が届いて、私は目を疑った。
何せ場所が王宮だったのだ……
後になって詳しく調べた所、彼女はどうやら隣国からの留学生らしい。
殿下の周りに良くいたのも、陛下直々の命令で留学生の案内役を殿下がしていたかららしい。
あの事件の翌日、殿下が説明してくれた。
陛下の御命なんて簡単に話して良いのかと思ったけれど、私なら大丈夫だと言われた。
どういう意味かは、あえて聞かなかったけれど……
何故王宮でお茶会なのか。
これは、あれかな?留学生を格下だと思って虐めてたら、実は隣国の王女でしたとかいうフラグかな?陛下直々に命ぜられるくらいの人なら有り得る。
私お礼言われる為にお茶会に行くんだよね?まさか助けたのに強制断罪決行とか言わないよね?
何も悪い事してないし、大丈夫だと思いたいんだけど……
そんな事を悩んでいるとお茶会当日になり、私は爽やかな陽気に相応しくない、黒のドレスに身を包み王宮へ向かった。
もう心は断罪される悪役令嬢だ、いっそ服装もそれらしくしてみた。
若干喪服感も漂わせているけれど……
心配の余り青白い顔をしていたからか、ルイスがお茶会に一緒に行ってくれる事になった。
相変わらずの過保護ぶりが今はありがたい。
一瞬ルイスとヒロインの出会いイベントか?とも思ったけど、それならそれで断罪じゃないから助かる事に変わりは無い。
私はあの日、新ヒロインに言われた一言が頭から離れずにいた。
『……貴女には、本当の自分でお話したいですし……』
あの時小さな声ではあったが、彼女は確かにそう言ったのだ。
本当の自分とは何か、もしかして彼女も実は転生者だったりするのだろうか?
馬車が王宮についても、私は中々外に出ようと思えなかった。
先に降りたルイスが、手を差し出しエスコートしてくれる。
本当にルイスに来てもらって良かった。
この手が無かったら、私は延々馬車から降りなかったかもしれない。
意を決して馬車を降り、王宮侍女の案内を受け中庭に向かった。
しかし、長い廊下を歩いていると後方が何やら騒がしい事に気づいた。
王宮内でここまで聞こえてくる言い合いなど珍しい、それにどこかで聞いた声ばかりのような……
「だから着いて来ないでって、何度言ったらわかるの!?」
「私は貴方の世話を任されてるんです、何かあれば私の責任になりますから」
冷ややかな声は特に聞き覚えがある、あれはルイスと話している時の殿下の声だ。
もう一人にも聞き覚えがあるのだけれど、どうも思い出せない。
「今日お茶会するのは、僕とリディだけなの!他は戻って自分の仕事したら!?」
あれ?お茶会の話をしている……と言う事はもう一人はヒロイン?
それにしては声が少し低いような……そんなに何度も聞いた訳じゃないからわからないだけかしら。
「ダリル殿、人の婚約者と二人で茶会など許可すると御思いですか?」
ダリル?確か新ヒロインの名前はダリアじゃなかったかしら、名前を間違えるなんて流石に失礼よ。
それにしても寒い、声だけで背筋が寒くなるってどれだけなんだろうと遠い目になってしまった。
しかし、そんな殿下の絶対零度をものともしない美声がため息混じりに諌めている。
「……殿下、候補です」
「ラディアス……君最近ルイスに似てきたね……」
どうやらラディアスも居るらしい。
これはいよいよ断罪が濃厚になってきた、恐る恐る振り返って私は驚愕の為に動けなくなった。
「……ダ……ダリアさん……貴女…その髪……」
震える指先が指す先に、確かに新ヒロインは居たのだが、その髪は殿下と変わらないほどばっさりと切られていたのだ。
淑女の髪が!!
どうしてこんな事にと驚かずに居られない。
「リディ!来てくれたんだね!!」
喜色一杯の笑みを浮かべ、大型犬の如く両手を広げて新ヒロインが突進してくる。
避けきれない!と身を硬くして時を待ったが、一向に衝撃は訪れなかった。
恐る恐る顔を上げると、私達の間を遮るようにルイスが立っていて、激突した為か新ヒロインはぶつけた鼻をさすっていた。
「男女の適切な距離というものをご存知ですか?後、俺の義姉を気安く愛称で呼ばないでください……」
いつもの無表情になったルイスに対して、新ヒロインは無邪気な笑みを浮かべる。
「そっか、君がルイス君だね?将来の義弟とは親交を深めたいと思ってたんだ」
途端にルイスから冷気のような肌寒さを感じた。
殿下なら良くある事だが、ルイスからはとても珍しい……
目元を嫌そうに歪めたルイスは、一度目を閉じると今度は嘲笑を浮かべ言い返した。
「義姉が隣国に嫁ぐ予定は一切ありませんので、そのようなお心使いは無用ですよ」
その後殿下達を交えて何やら良い合いをしていたが、私はそれ所ではない。
ヒロインのこの姿はなんなのか、どう見ても男性にしか見えない。
いや……結構、かなり可愛いからこれで女性ですと言われれば、見えない事も無いけど。
しかし、どうしてと思って思い出した。
「そうか!ユーリが言ってた性別変換する魔術成功したのね!!」
「そんな訳ないでしょう!」
言った途端に殿下に否定されました……
すると、新ヒロインがそっと私の手を取りその場に傅き、指先に口付けてきた。
その姿はまるで絵本に出てくる王子様そのもので、私は再度硬直する事になった。
「この姿ではお初にお目にかかります。隣国の第二王子でダリルと申します。訳あって学園では女性の姿をしておりましたが、貴女にはこの姿でお会いしたかったので……来て頂けて嬉しいです」
まるで、ではなく本当に王子様でした。
笑う顔はヒロインなのに、本当は男性だそうです。
彼は尚も私の目を見つめながら話を続けました。
「僕を助けてくれた貴女の、強さに焦がれ優しさに惹かれました。どうか共に隣国に赴き、私の妃になってくださいませんか」
真剣な瞳に見つめられ、私の混乱は最高潮に達しています。
ヒロインが男性で、男性が王子様で、王子様が私に妃になれ?
混乱し過ぎて何を言っているのか理解できないで居ると、殿下が繋がれていた私の手を奪いました。
「何を馬鹿な事を、リディは私の婚約者候補だと伝えたはずです。隣国になど行かせない……」
自分の後ろに私を庇いながら、ダリル殿下を睨みつけて居ます。
「その候補も近い内に辞退しますが、この件だけは同意しましょう」
そう言うと、今度は殿下の隣にルイスが並んだ。
いつもの無表情に安心する日が来るとは思わなかった。
「…………お守りします、リディアーネ嬢」
そして更に距離を広げるように、私達の前にラディアスが立った。
立っているだけなのにものすごい威圧感を感じて、ラディアスが怒っているのがわかった。
「ふふふ、物騒だね。でも……これだけ時間が有って未だにリディに選ばれない男が揃いも揃ってね?」
嘲るような笑みを浮かべるダリル殿下も、眼光は鋭く笑っているようには見えない。
もう何が何だかわからない、ヒロインはどうしたんだろう、ゲームはどこに行ったのだろう。
ああ、寒いな此処……本当に寒いな……
あれ?これ殿下達のせいで寒いのかな?それとも物理的?
そう思った時には震えが止まらなくなっていた。
どうやら物理的に寒いらしいと気づいた時には、時既に遅く。
「「リディ!?」」
「義姉さん!?」
「リディアーネ嬢!?」
遠くで四人の声が聞こえるけれど、もう私は限界だった。
疲れた……急激な情報と混乱で今まで碌な熱など出した事の無い私は、人生初の知恵熱を出して倒れた。




