掃除屋GIftの非日常
「アキラー、終わったにゃん。ご褒美欲しいにゃー。」
「なにそのキャラきもい。」
「はい。ごめんなさい。」
そういいつつも林アキラは、柴田ミサキに近寄り、そのミサキはアキラの隣をルンルンという効果音がピッタリのハイテンションで歩く。
彼らは周りの人からどんな風に写っているのだろうか。多分仲睦まじいカップルに見えるだろう。
歩いている場所が、炎で包まれた半壊の街で無ければ………。
✳︎
「隊長、ただいま帰りました。」
「帰りまーしたっ!!」
本日の任務を終えたアキラとミサキは、《報告までが任務》という組織のポリシーに添い、一度基地へと帰ってきていた。
「おう、帰ったか。ユウサクたちはどうした?」
「いやいや隊長。隊長が私たち2人に行かせたんじゃん。街1つなんて危険な能力者いたらいくら私たちでも危なかったよ?」
ミサキはふくれっ面で第03小隊の隊長、岩槻尚人にそう言う。隊長に対し、タメ口なのは単純に彼らが同期で同い年だからだ。
「なんだよ、おれを信用してないのか?街の住人の一人一人死にかけから生まれたてまで全ての人間の能力と身体能力を調査してから任務に行かせてるんだぞ。」
そんなことは当然ミサキもわかっている。
「わかってるよ、ちょっと遊んで見ただけ。」
ミサキはいつもこのよくわからない所謂ダル絡みをする。しかし、ウザくなく、どちらかというと心地いいムードメーカーのような存在なのが不思議だ。
「で、その様子なら聞くまでも無いけどどうだった?あれはあったのか?」
「いや、やっぱりなかったし、それらしい情報も手に入らなかった。予定通り街は消しといたよ。あの街はあれがなくとも邪魔だからな。」
あの街は別名情報街と呼ばれている。それ以外にもたくさんの所謂裏の金、というのが蔓延していた。
アキラたち、G・Aはそういった非合法の存在や国にとって不都合な存在を消すのが仕事である。別名掃除屋だ。
「そうか。まああれについてはあまり期待していなかったからいいとして、とりあえず任務お疲れ様。」
「というかあんなでかい街なのになんだあの腑抜けさは。ボス以外はうちの第02小隊以下だぞ。そのボスも結局ミサキ1人で倒したしな。」
「ああ、偽情報を掴ませてほとんどは街の外におびき出したからね。それも俺とユウサクとノリミで倒したんだ。っていってもこっちもたいしたことなかったよ。ほとんど最初の奇襲で決まったしね。ちなみに2人は戦後処理中。」
仕事が楽な分には構わないとアキラは思っていた。めんどくさがりのようだ。
「ってかユウサクの居場所知ってるじゃん。なんだよそれ。」
「いや、遊んで見ただけ。」
「お前もかよ!」
✳︎
「あーめんどくせぇー。なんで俺がこんなこと……。」
そう悪態をつくユウサクの横をアキラとミサキが歩く。ビグノウンの街の外れにあるG・Aの第3支部からここG・A本部までは約1時間かかる。
「まあまあいいじゃんいいじゃん?たまにはこういう無駄なことも!」
これにはアキラも概ね賛成であった。サラッとミサキも無駄だといっていることから、ミサキも同意見なのだろう。
「にしても無駄すぎる。いつもは出なくていいのになんで今日は出るんだ?ナオトが自分で出ろよ!」
「といっても小隊会議は隊員全員がるんだぞ、本当はな。まあ隊長のナオトが出ない会議に俺たちが出るわけないけど。」
自称根は真面目のアキラにとってもどうやらめんどくさいことらしい。
今まではナオトがごまかしてきたが、突然今回の会議は参加することにしたのだ。それも全員ではなくじゃんけんに負けた下位三名のみだ。
「でもユウサクがじゃんけんで負けるとこ初めて見たわ。でもお前の能力で負けるってことはそういうことなんだろ?」
「まあ不発なんてことは今まで一度もなかったからな。」
ユウサクはサラッとそんなことを言う。謙遜するそぶりを一つも見せない。
「でも隊長何も言ってなかったけど大丈夫かな?」
ミサキのその言葉は的を得ていた。いつも必要以上の情報を与えられるのだ。先の作戦においても同様だった。なにも言われないということは考えられるのは2つしかない。言う必要がないほどの些細なことであるか、言う余裕がないもしくは予想できないかなのだ。前者ではないと言い切れるほど今回の会議参加は異質なことであった。
「まあ俺たち3人ならなんとかなんだろ。」
アキラはまるで自分に言い聞かせるかのようにそう呟いた。この組織に小隊はたったの5つしかない。そのなかでもナオト率いるアキラたち第03小隊が専門としているのは遊撃機動。簡単に言えば戦闘だ。
さらにその中でもアキラたち3人とナオトとノリの戦闘力は他の隊員とは桁違い。前の任務にもあったが、人口万単位の街に対しての任務なんてザラにある。まあつまり、アキラたちはとんでもなく強いってことだった。
「……ミサキ。」
「…うん。」
アキラはミサキに声をかけると、ミサキはそれに応えながら右肩のフォルダーに入っているトランプサイズのカードを一枚取り出す。
「メガカノン!!」
ミサキが体の正面でカードを破りながらそう叫ぶと、破ったカードから極太の光線が飛び出した。
それまでなにもない長い階段のように踊り場であったが、途中で光線は何かにぶつかり消し飛んだ。
「とんだご挨拶ですね、アブソリュートカオスの皆さん。」
そこには第04小隊隊長ブルーノとその部下クライニーと渋沢がいた。
「人気を感じだと思ったらアーツキングダムのブルーノ隊長でしたか。これは失礼しました。」
アキラはそう言葉で発しながらも警戒を解かない。わざわざ姿を消して接近するなんてことをする意味がわからないし、ナオトの指示がない以上“これ”は警戒するには十分なほど異常な出来事あったからだ。
「まあいいでしょう。アブソリュートカオスの皆さん。重大な反逆行為により、第03小隊隊長岩槻ナオト副隊長高木ユウサク以下17名に死刑を宣告します。抵抗はやめなさい。」
そう言いながらブルーノ隊長とその部下クライニー、渋沢は戦闘態勢にはいる。
重大な反逆行為?意味がわからない。アキラはユウサクの顔をチラッと見るがなんのことかわからないと首を横に振った。
意味もわからず殺されるわけにもいかない…。でもこいつらが相手じゃ……な、手加減ができない。殺しちまったら、それこそ「重大な反逆行為」になっちまう。
アキラ、いやアキラだけじゃなく、ユウサクやミサキも判断に困っていた時、ユウサクの携帯が鳴った。
「どうやらはめられたらしい。とにかく今すぐ総長室に向かって神崎さんを救出して脱出してくれ。」
着信はナオトからで短く要件を伝えるとその電話をすぐに切った。どうやらナオトの方もただ事じゃないらしい。
「私たちがなにやったって言うのよ!」
事態が理解できていないであろうミサキは、怒りのままにそう叫ぶ。すると予想外にブルーノたちは臨戦態勢を解き、その口を開いた。
「とぼけても無駄ですよ。あんなことを出来るのはこの組織の中であなた達しかいない。」
他の隊とは多くの例外を持つアキラたち第03小隊なので、アキラたちにしか出来ないことは確かにたくさんあった。
「我が組織のリーダー、神崎守を殺害したんですよ。今は亡き、前第05小隊隊長の能力フリーダムアートでね。あなた達も良く知る能力のはずですよ。」
確かに知っていた。なぜなら今はそのフリーダムアートの能力は、ナオトの能力の一つなのだから。
「おかしな話ですね。神崎さんのあのエンペラーアイが最近手にしたばかりで使いこなせてないナオトのフリーダムアートに負けたのですか?」
ナオトが今いくつの能力をコピー出来ているのかわからないが、それでもフリーダムアートは新しい方の能力で間違いない。
アキラたち全員がかかれば、神崎さんを殺せる力を確かに持っているかもしれないが、少なくともこの第03小隊のBest5には入るアキラでも1人で神崎守を倒すのはまず絶対に不可能だ。
ナオトは隊長と言うこともあり、確かにアキラより強いがアキラとユウサク、ミサキ、ノリミの中の2人を同時に相手に出来るほどの力の差はない。そもそもあいつは能力こそチートだが、頭脳派であった。
だが、決定的にこの矛盾を主張出来る状況ではないことをアキラたちは理解していた。
「岩槻隊長と大野ノリミ君が力を合わせれば神崎総長を殺害することも可能でしょう。フリーダムアート以外の能力は痕跡ない様に使うことなど彼なら朝飯前でしょうしね。」
2時間前に会議の出席を命じられ、3人で昼食をとった後、会議室のあるG・A本部二階に向かっていたアキラたち3人は”それ”が不可能だったとしても、アキラたちの部隊にはまだ2人の強者がいる。2時間前から2人が作戦を始めたのならば、ギリギリこのビグノウンの北端ににある神崎守の自宅に向かい殺害することはできる。確かにあの2人なら神崎さんを倒すことも可能かもしれない、とアキラは考えていた。ブルーノの言うとおりナオトがフリーダムアート以外の能力の痕跡を消すことは可能だろう。しかし、フリーダムアートだけその痕跡を残す意味もわからないし、そもそもそんな不慣れな能力を使う意味もわからない。少なくともアキラはナオトがフリーダムアートを使っているところを見たことがなかった。
「それでうまくでっち上げたつもりか?ブルーノ。確かにエンペラー・アイを持つ神崎さんを殺せるのは恐らく俺たち第03小隊だけだ。だが、決定的な矛盾を、自分たちが言っていることに気づかないのか?」
アキラが思考に入っているとユウサクが少し薄ら笑いを浮かべながら口を開いた。運だけではない。
「神崎さんがいない今、当然最強は俺たちだ。…お前たちはどうやって、自分たちより強い俺たちを殺そうって言うんだ?」
そもそも本当に会議があるのか、と疑うほど本部は静まり返っていた。魔力コントロールに優れているミサキですら、感じられる魔力は第04小隊のメンバーだけであった。明らか罠だ。
いくら第04小隊が束になったところでアキラたち3人を処刑するなんて不可能なはずなのに、この自信は一体どこから来るのか、とアキラは不思議に思っていた。
「にも関わらず、あんたらは俺たちの前に立っている。可能性は二つ。玉砕覚悟で俺たちに向かってきているか、俺たちを倒せる力を持っているか、だ。」
そこまでユウサクが言ってアキラも気づいた。つまり。
「もし後者ならあんたらも神崎さんを殺せる力を持っているってわけだ。」
ユウサクの推理が当たっていて驚いているのか、ブルーノたちは険しい表情のまま、全く口を開かない。
「なるほど。やはりあなたたちをおびき出して正解でしたね、しかし、まああなたたちTOP5のうちの3人に来られるとは運が悪いですよ。」
まるでユウサクの推理を肯定するかのようにブルーノは戦闘態勢に入る。
「そりゃまあ俺の運には勝てないだろう。」
ユウサクが皮肉を込めてそう言った直後、背後、階段下から複数の気配を感じた。
「後ろは任せろ。」
「そのつもり。」
アキラは後ろを振り向くと黒いフード付きのコートを身に纏った6人組、シックスピリオドが現れた。こいつらのことはイマイチよくわからない。今わかるのは敵ってことぐらいか。ミサキに力を借りて一思いに殲滅したいアキラは思っていたが、ユウサク1人であの3人を相手するのは難しい。それどころかユウサクの推理が当たっているとしたらブルーノ達は強い。焦りばかりが募っていた。
「死んでもらう!!」
表情は見えない。アキラは先頭に立つ男の刀による攻撃をいつの間にか手に握っていた大剣で防ぐと、追撃をかけてきた2人を蹴りで牽制する。だがシックスピリオドの残り三人の同時攻撃も完全にいなしたその瞬間、そんな心配も杞憂に終わった。
「お、まだみんな生きてんじゃーん!!おまたっせ!!」
すでにドンパチ始まっているユウサクたちの間をすり抜けながらアキラの背後に現れたのはノリミだった。
「骨だけでも拾ってこいって隊長に言われたけど、その必要もなさそう。」
いつものよくわからない冗談だろうということにして片付けて、アキラはノリミにユウサクたちを助けるよう指示を出した。
「オペレーション」
アキラがそう呟くと次の瞬間景色は変わり、黒いコートで身を包んだ人間が目の前に立っていた。
アキラはなんの躊躇もなく、背負った大剣を振り下ろす。
「まずは1、だな?」
アキラはすぐさまさっきまで自分がいた場所に戻り、そう呟いた。
シックスピリオドの中にざわめきが起きる。こいつらのことをアキラはよく知らない。アキラがよく知らないってことはつまり、大したことないってことだ。
なぜならナオトはあらかじめ最悪の事態を想定し、そうなった場合の脱出手段や連絡方法、注意すべき敵やその敵の能力などの情報をすでに用意し、アキラたちに伝えていたからだ。今回の会議出席について何も伝えられなかったのはこういうことだったのか、とアキラはこの時理解した。
と言ってもこれはまだナオトのいう最悪の事態ではない。さっきのブルーノの発言の通り、死刑対象である第03小隊のメンバーは恐らく裏切っていない。だからナオトはノリミをこちらによこしたのだろう。
アキラはアキラの初動を見きれなかった敵に見切りをつけ、一気に片付けるために能力を発動した。
✳︎
ナオトが想定した最悪のシナリオ。
それはアキラたち5人を除いた全ての人の裏切りだ。
あいつのことだ、どこまで本当かはわからないが。
といってもアキラは他の第03小隊のメンバーとも強い信頼関係を築けていると思っている。あいつらが裏切るとは到底思えない。
ナオトがノリミをこちらに送ったあたり、恐らくその最悪のシナリオにはなっていないようだ。
「もう抵抗はやめなさい。確かにあなたたちは強い。だが、たった14人…いや、5人でこの組織全ての人を相手にできるほどではない。」
第03小隊は、隊長岩槻ナオトに副隊長高木ユウサク。それと12人の隊員、さらに3人の隠密行動で構成されている。さっきのブルーノの発言から隠密行動3人の存在はばれていない。さらにこっちの戦力は5人だけだと勘違いしている。
アキラたち5人と他の隊員の力にはかなりの差がある。
それは我が組織の一員なら知らない人はいない常識だ。しかし、それも実際はフェイクだった。
ナオトは裏切りを想定していたため、かなり前…まだこの組織に小隊など存在しなかった頃から準備をしていた。
「まだ終わってないのか…ってまさかの本命じゃん。」
「にしても時間かかりすぎです。隊長は逃げろと伝えていたはずですよ。」
その隠し札の一つがこの2人、佐藤ハヤトと小山エリだ。
「錠を外すのは何年ぶりだ?とりあえず能力も試したいから変われよユウサク、ミサキ。」
「まったくノリミさんは一体なにをしてるんですか?これでは貴女だけ先に向かってもらった意味がないでしょう。」
そう言いながら戦闘が終わったアキラの横を通り抜け、現在進行形で戦闘を行っているユウサク、ノリミ、ミサキの方へとゆっくり歩いて行った。
「ああ、アキラもう疲れた無理。」
と、あっさりユウサクは引き下がり、続いてミサキは置き土産とばかりビームを放ってから退いた。
「私はさっき来たばっかりだから大丈夫だよん、ちょうど3対3だし。」
「いや、俺もいけるぜ。ほとんど能力も使ってないからな。」
アキラがシックスピリオドを相手にして、ノリミが助太刀にくるまで2人で3人の相手をしていたユウサクとミサキは目立った外傷はないものの能力の使いすぎで疲れ切っていた。
ミサキはともかくユウサクの能力は戦闘中常に使い続けなければならない能力だから疲れるのは無理もない。
「まあ命令は撤退なんだろ。4対3だがこっちの方が不利だ。時間もないしな。」
「神崎総長の救出は?あの人が死ぬわけないだろう。」
「なおさら一旦引いたほうがいいでしょう。隊長からもそう指示を受けています。」
まずは牽制。敵との距離は10m。アキラは背負っている大剣を勢いよく引き抜いた。同時に能力を発動。
視点が変わり、目の前にはブルーノの左半身。
「昔から言おうと思っていたが、直した方がいいぞ。」
まるでわかっていたかのようにアキラの位置をすぐ認識したブルーノは、アキラの大剣をかわすとすかさず反転しながら自らの刀を振るった。
「初動で必ず敵の逆手の後ろに回るその癖。」
キンっという金属音が辺りに響いた。
「と、思うじゃん?」
「チーム戦って言葉、知ってますか?」
ブルーノの刀をエリの2本の小刀が防いだ。
言うなれば瞬間移動とも言えるアキラの能力《空間オペレーション》にスピードという観点でついて来れるのは、エリの能力だけだ。瞬間移動ではなく、高速移動。
スピードというだけならこの組織で1番かもしれない。
ようやく反応した渋沢が、エリに対して攻撃をしようとするが、エリと渋沢の間を10枚ほど刃が通り過ぎる。
ハヤトの能力《百花繚乱》だろう。
「いややっぱあぶねぇわ、逃げよ。」
「アキラ、お帰り!」
アキラが能力を使って逃げると、後ろに手をついて座り込んでいるミサキが天真爛漫という言葉がぴったりの笑顔でそう言う。
「ああ、危なすぎる。なんでエリは避けられるのかわからん。」
「まああの二人はね〜。相思相愛以心伝心だよ。」
「ああ、アキラらと一緒だな。」
というと、ミサキは一瞬ハッとした顔をした。
「んじゃ、そろそろ私も逃げる準備を始めとこっかな。」
第03小隊が誇るチート能力集第一弾、ミサキの《トラップマジック》だ。ミサキのお花畑な脳みそのせいでその実態はほとんど分かっていない。ミサキは肩につけたフォルダーの中からトランプサイズのカードを一枚取り出すと、指でその表面に何かを書き始めた。
ミサキが能力で逃げる準備をする中ずっと観察していたハヤトたちの戦闘に、アキラは違和感を覚えた。確かに能力は無限に使えるものではない。いくら体力がある人だって十何時間も走り続けていることは不可能なように。
だが、かなり消耗しているユウサクが現在もまだ能力で援護しているようにその時間はかなり長い。この組織で常に鍛錬をしているのであればなおさらだ。まだブルーノたちは一度も能力も魔法も使っていなかった。そうしている間にもエリとハヤトのコンビで敵はかなり消耗している。
「よーし、準備完了!!みんな逃げるよ!!!」
アキラが答えにたどり着いた瞬間、ミサキの声が耳に届いた。
「ミサ…!!」
アキラの言葉はそこで途切れた。ミサキの能力が発動されたのだ。視界は光で包まれた。そしてその片隅で確かにブルーノが笑ったのを見た。このままでは、神崎さんが危ない…!
✳︎
「ナオト、謀られた!神崎さんが危ない!!」
アキラは目を開けると同時、そこになにが写っているかを正確に認識する前に、ナオトの名を呼んだ。
ミサキの移動能力はそこで便利ではない。こういう時は第03支部には予想できていたからだ。
「ああ、わかってるよ。神崎総長はすでに自宅にいなった。いるとしたらやはり総長室だ。他の小隊の隊員も危ないしな。すぐに向かう。」
ナオトはパソコンから視線をそらさず、アキラの言葉に答えた。心なしかナオトも焦っているようだ。らしくない。
「作戦を考えている時間もない。とにかく向かうしかない。戦える奴は全員来てくれ。」
その言葉に一瞬全員が止まる。
ナオトの口からそんな言葉が出るなんて想像もしてなかったからだ。
「あ、ああ。確かに神崎さんの命が最優先だ。敵はたったの15人だし、そのうち6人はアキラが倒している。」
フォローするかのようにユウサクがそういうが動揺を隠しきれていない。
「ミサキ、俺だけでもすぐに能力で送ってくれ。時間が惜しい。」
しびれを切らしたのか、ナオトはそういうとミサキのフォルダーからカードを一枚抜き、無理やりもたせた。
「まて、俺もいく。あとはユウサクにミサキ、それとエリ。ハヤトとノリミは此処を頼む。」
アキラは迅速に判断し、そうみんなに告げた。落ち着け、ナオトがこうなった以上俺たちがしっかりしなきゃならないんだ、と自分に言い聞かせる。
過去に一度だけ、ナオトがこうなったことがある。みんなもそれを思い出しているんだろう。
ミサキのカードが切られ、視界が光で包まれた。
あの時は仲間を4人も失っいた。
✳︎
ナオトが冷静さを欠いている時はいつもの反動がきているのか、びっくりするぐらい事態が悪化する。ユウサクはそう感じていた。
それはユウサクの能力を使ってでも立ち直せないほどだ。
神崎守のいるであろう基地に着くとナオトは何も言わずにスキルをつかって姿を消した。
こんなことも二度目だ。
仲間の命に順位なんてつけたくないが、まず間違いなく、ナオトにとっては1位だったはずだ。
あの時失った、「彼女」の命は。
「ユウサク、どうする?」
アキラがそうユウサクに尋ねる。
ナオトのいない今指揮権は副隊長のユウサクにあるからだ。
「あの状態のナオトは危険だ。俺たちも総長室に向かおう。おそらく神崎さんもそこだ。」
基地は何事もなかったかのように静かだ。おそらく他の隊は何があったのか、何が起こっているのかも知らないだろう。
なんの障害もなくユウサクたちは30階の総長室に続く廊下にたどり着いた。
「貴様ら、やはり生きていたか。」
数メートル先に立つのは、黒いフードで顔を隠している6人組。シックスピリオドだ。
「恐ろしく手応えがなかったからな、さっきのはお前らの誰かのスキルだろう。」
アキラがそう6人組に問いかける。6人組は俯き加減でこちらの話は聞いているのかいないのかわからない。
「嫌だなぁ、アキラさん。まさか僕のスキルを忘れちゃったんですか?」
「お前は…!?」
先頭に立つ男がフードをとった。
それに合わせ周りの連中もフードをとる。
小山ツバサ。小林勇気。高橋和人。鶴屋ルーク。ミユ・ノーシン。
それに柊ユイ。
アキラは思わず、エリのほうを振り返った。
ツバサはエリの弟、そして2年前の事故で死んだとされていたからだ。他の5人もその時に死んだとされているメンバーだった。
「なるほど、俺が斬ったのはお前の残像だったか。精度も出せる残像の数も増えたみたいだな?」
アキラはツバサを弟のように可愛がっていたため、エリとアキラの動揺は計り知れないだろう。ナオトがこの場にいなくてよかった、とユウサクは思った。ナオトが以前取り乱してしまった時に起きた事件。その時に死んだとされる人物がいた。
「ユイちゃん、何やってるの!?あの事件、何が起こったの!?」
あの事件では死体は残っていなかった。残存魔力と血の量から考えて死亡したと考えられていた。
「私は全てを知ってしまった。あなたたちがブロイル皇国の出身ってことも。バカにしてる、私があなた達と会った時、私は全てを失っていた。なぜ!?皇国のクソ共に私の家族もたった1人の親友も殺されたからでしょ!!」
ユウサクたちはユイの境遇について全て知っていた。それを知った上で受け入れたのだ。
「でもね、私にだってあなた達にも言ってないことがあるんだよ。」
そう言うとユイは周りに浮かせた黄色いテープを引っ込めた。代わりに赤いテープが宙に浮き始める。
「スキルに第二段階があることを知ってた?知るわけないよね。それができるのは世界で、私一人なんだから!!」
そう言い切ると赤いテープは拡散し、ユウサクたち3人に襲いかかる。
「それはどうかな?」
ロック解除。スキル《確率プログラミング》発動。
「赤いテープが俺に当たる可能性を0に。」
一本は時が止まったかのように動かなくなり、一本は突如現れた極太のレーザーが焼き尽くし、一本はコントロールを失い、天井を突き破って消えていった。
ユイの表情が驚愕に染まる。
エリを狙わなかったのは皇国の人間じゃないからだろう。
「ユウサク、ユイは俺に任せてくれ。」
そう言うとアキラはいつも使う大剣ではなく、一本の刀を取り出した。
「ツバサは私が。」
エリはとてもできた姉だった。責任を感じているのだろう。
その隙にミサキとエリは能力を使って移動した。
アキラはゆっくりと刀を抜く。だが誰から見てもその一挙一動に隙はない。
先に仕掛けたのはユイだった。
右手に持った銃の引き金を三回引く。
「オペレーション。」
アキラがそう呟くと弾丸はユイの黄色いテープより内側に移動していた。
第03小隊のチート能力集第3弾、アキラの「空間オペレーション」だ。
ちなみにこの第何弾というのは神崎さんがつけた。順番は発現した順だ。あんたの能力が一番チートだろ!と全員が思ったのは言うまでもない。
アキラは空間と空間の位置と向きを入れ替えることができる。
ただ、自分以外の生命体に干渉することはできない。
アキラが移動させた弾丸をいつの間にか新たに生まれていた赤いテープが弾くとともに、雷鳴が轟いた。
ユイの能力は究極のカウンター。与えられた衝撃を変換して相手に返す。魔力では力を上乗せすることもできる。
雷は不規則な動きをしながらアキラに向かって行くが、次の瞬間、アキラはすでにその場にはいなかった。
何度も見ているからユウサクには移動先がわかった。完全にユイの背後を取った。
アキラは持った刀で黄色いテープを突き破り、ユイの首筋を叩き切った。
かと、思われた。
直前でアキラはターゲットを右足アキレス健に切り替えたためにユイの赤いテープが間に合ってしまった。
大爆発を起こし、あたりが煙に包まれた。
「なんのつもり?アキラ。ちゃんと殺す気で来なさいよ!!!」
ユイも今のアキラの行動の意味に気づいてしまったのだ。
アキラは爆発と同時に能力で回避しようとしたが右腕に大きなヤゲドを負っていた。
「うるさいよ、あんただってわかってんだろ!!ゆい姉さん!」
「余計なことを…思い出したようね。」
「アキラ、ユイもう終わりだ。」
「どうやら話す時が来たようだね。俺たちの本当の敵について。」
✳︎
「この展開、どうやら大方予想通りのようだね。」
「いつまでそうやって余裕ぶっていられますかね。」
「余裕ぶってるわけではないよ、実際に余裕なんだ。」
直後、神崎マモルが座る椅子の横に黒い影が出現する。
「遅かったね。ナオト。」
「申し訳ございません。それが洗脳装置ですか。」
「よくご存じで。」
「すでに状況は逆転していることに気が付いたらどうだい?全部知っているんだよ。君たちがビーナ王国の回し者であることもね。」
その言葉にブルーノの顔は青ざめる。
「なぜそのことを…?」
ブルーノの言葉を守は鼻を鳴らして一蹴した。
「ふん、バカかい君は。敵の君に教えるわけないだろう?」
見下した目をしたまま守は続ける。
「どちらにせよ、君はここでゲームオーバーだ。楽な死に方はできないよ。君たちの民族、すべてね。」
「“究極覚醒”」
ブルーノらは初めての感覚に戸惑いを隠せなかった。圧倒的力。情報。戦う前に敗北を認めた。ブルーノ達はそのまま意識を手放した。
こうしてメイテイ帝国専属“掃除屋”G・A本部で起きた反乱はわずか4時間で幕を閉じた。