どんなものを書きたいか
最初のうちは誰でもそうなんじゃないかとは思うのですが、私にも『何を読んでも面白い時期』がありました。
読書にハマり始めた頃は、本当に何を読んでも面白かった。綾辻さんからミステリにハマり始めた頃も同じです。どのミステリを読んでもびっくりできた。所謂DD状態です。そこから数を重ねていくうちに少しずつ好みとそうでないものが分かれていきました。
で、今好きな作家を挙げろと言われたら、迷わず森博嗣、綾辻行人、三津田信三と答えます。三人とも同じミステリ作家ではあるのですが、作風はバラバラです。
森博嗣は『理系ミステリ』と言われています。本人もこの呼び方は好まないらしいし、私もどうかとは思うのですが、ロジカルであっさりしているから文系から見た理系像に合致してしまう、ただそれだけなのではないかと思ったりもします。
綾辻行人は新本格を牽引してきた第一人者で、私が今更語るほどのこともないですよね。ただし最近はホラーやサイコホラー方面の作品も書いていたりして、『Another』は新たなミステリ像の一つの完成形だと思っています。
三津田信三は綾辻さんよりさらにはっきりとホラーとミステリの融合を指向していて、ミステリのエッセンスを持つホラーもホラーのエッセンスを持つミステリも書いています。この二つのジャンルの境界線上に際どく成立しているところが三津田作品の最大の魅力ですね。
もちろんこれ以外にも好きな作家はたくさんいて、ミステリだけでも有栖川有栖、歌野晶午、法月綸太郎、島田荘司は何冊か読んでいます。海外ではクリスティやクイーンも。
ミステリしか読まないわけではありません。夢野久作も好きですし、夏目漱石、太宰、谷崎潤一郎、乱歩、芥川、安部公房とか、まあ色々読み散らかしています。
言葉による表現という意味でなら、ALI PROJECTの宝野アリカ様の書く歌詞も大好きです。アリカ様がブログなどで薦めている本も結構読んでいます。綾辻さんだってそれがきっかけでしたし。
こんな感じで色々読む本のジャンルを広げていったのですが、読めば読むほど、完全に満足するということがなくなっていきました。
綾辻さんにしろ森博嗣にしろ、最初は『こんなに面白い本が世の中にあったのか』と思いながら読んだものですが、ある程度年月を置いて再読してみると、ああ、こんなもんだったか……と思ってしまうんですね。ミステリとしては好きなんだけど文体に今一つ気に入らないところがある、とか。
じゃあ、完璧に満足できる理想の作家とは何なのか。
それは、森博嗣のようにロジカルで爽やかでウィットに富んだユーモアがあり、綾辻さんのように読みやすく、また悪戯っぽさがあり、三津田信三のようにおどろおどろしく、夢野久作のようにサイコで、太宰のようにデカダンで、漱石のように面白く人間を描き、乱歩のようにストーリーテリングが上手く、谷崎のように耽美で、芥川のように格調高く、アリカ様のように繊細な情景描写を流れるように行える作家。そして、以前当エッセイで書いたように、立体的な女の子を書ける作家。
そんな作家はいません。
好きな作家ですら完璧ではないのです。だったら自分が目指すしかない。おそらくこれが私にとっての最大のモチベーションだと思います。
だから自分の書いたものに完全に満足するということはありません。現時点で最も完成度が高いのは『おっぱいを育てよう!』だと思いますが、これは私のおっぱいに対する欲望が前面に出た作品で(笑)読みやすさやストーリーテリングはまずまずですが、耽美とか格調とかは程遠いですよね(笑)
ただ、これが私の個性なのかな、と再確認した作品ではあります。
それを踏まえた上で、目標はまだまだ遠い。ミステリ愛好家としてはやっぱりミステリを書いてみたいですし、あえてその枠を壊してもみたい。作品に合わせて文体を少しずつ調整したり、『Sシリーズ』では語り手となるキャラクターごとに文体を書き分けている、つもりです。色々実験しすぎてとっちらかったシリーズになっており、『この作者一体どこを目指してんだ(笑)』とレビューに書かれる始末ではありますが、まあこんな感じで目標は途方もないんです。『フューネラル』では作中作含めればあの一作だけで九つものジャンルの話を書いてます(笑)
だから誰のどんな本を読んでも完全に満足することはないですし、なろうで誰の何を読んでも、部分的にすごいと思うことはあっても完全に満足することはありません。ただそのすごい部分をできれば吸収して自分のものに活かしたいとは思う。
何だか最後は上手くまとまらなくなってしまいましたが、今回は以上です。




