どのように文章を読み、そして書くか
私は本を読む際、なるべく頭の中で音読しながら進めていくタイプです。
遅読なのはおそらくそのせいなのですが、私はどうにも物覚えが悪く、しかもそれが年々悪化しているため、音にしないとどうにも頭に入ってこないのです。しかし、音にすると非常に読みづらい文章というのがありまして、そういったものは目で追うことすら難しくなってきます。『目が滑る』という現象です。
ちなみに、声を聞いたことのある人、例えば声優や有名人、Twitterの一部のフォロワーさんのツイートなども、読むときはその人の声で脳内再生されています。フィクションである小説の場合、主人公が男もしくは神の視点であれば自分の声で再生されますし、女性であれば……う~ん、誰だろう、強いて言えば、椎名林檎の声に近い音声で再生されています。ただ、それよりももっと登場人物にイメージの近い人物がいる場合は、そちらの音声で再生されます。
例えば、ダンディな男性のキャラクター視点の文章を読むとき、そのほとんどが、川竹英克さんの音声で再生された時期がありました。
誰だそれ? と思った方は、ググってください(笑)数年前までEテレでフランス語講座の講師を担当されていた方です。この人の声と佇まいが、男の私から見てもこの上なくダンディでね……。今でも時々脳内声優を担当してもらうことがあります。皆さんはおりますでしょうか、脳内声優。
じゃあ文章を書くときはどうしているかというと、まず先に書きたい文章のリズムを決めて、そこに当てはまる言葉、あるいは文をパズルのようにパチパチと嵌め込んでいくパターンが多いです。音読しながら読むタイプだからか、文章のリズムというのはとても重要で、自分なりにカチッとハマるパターン、単語が見つからない場合は、そこからなかなか先に進めなくなります。
テトリスをイメージしていただくと感覚が伝わりやすいかと思います。思い通りのブロックが落ちてきて、隙間なくピチピチと積んでいけるととても気持ちいいですよね。ただ、ピチピチと結構な高さまで積んできたのに、なかなか縦長四つのブロックが落ちてこない。フラストレーションが溜まります。このままだとゲームオーバーになりそうだから、違うブロックで上の方を何列か消さなければいけなくなる。これもちょっとしたストレスです。
私が文章を書く場合は、文章を脳内で音読し続けていることによって蓄積された文のリズムのひな型があって、それにぴったりハマるブロックが落ちてくるのを待つ、という感じでしょうか。テトリスのゲーム開始時、下のほうに一、二段分ぐらいあらかじめ配置されているブロックがひな型。イメージ、伝わってるでしょうか(笑)
文頭に接続詞として置く言葉、あるいは文末に意味もなくポンと放り込む言葉には自分なりにリズムを整える効果があって、手前味噌で恐縮ですが、私が今週の即興小説バトルで書いた『猫の多い街』という短編では、
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でも、そんな中で一か所だけ、いつも明かりのついているところがあった。
古びたマンションの一室で、三時に行っても四時に行っても、常に明かりがついている。部屋の前にはちゃんと表札もかかっていたのだけれど、苗字の部分は油性のマジックで黒く塗り潰されていて、全く読み取れなかった。彼女の苗字が何というのか、僕は一度も聞かなかったし、今ではまったく思い出せない。新聞を配っていたんだから、当時はちゃんと覚えていたはずなのに、人の記憶ってのは脆いものだ。
そう、順番が前後したけれど、その部屋の住人は女性で、名前を薊子さんという。アザミコさんじゃなくて、ケイコさんと読むらしい。下の名前だけをしっかり憶えているのは、きっとその読み方が難しくて、何度も確認したからだと思う。
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こんな部分があります。下の文の書き出しの『そう、順番が前後したけれど』の『そう、』なんかは大した意味のない言葉なのですが、個人的には文章のリズムを作る上で必要だと感じたために挿入しています。アウフタクトみたいなものですね。
最初に音のイメージがあって、それに合うものを探していくという手法は、鳥の鳴き方の学習方法と似ているかもしれません。鳥が鳴き方を覚える際、まずは親や同種の鳥の鳴き方を聞いて覚え、次に自分がそれに合わせて鳴いてみて、少しずつズレを修正していくと言われています。
私は以前、『おはよう』の練習をしているカラスを見たことがあります。普通のカラスの鳴き方ではない『オ、ア、オー』という鳴き方を人間の近くで十分か二十分ぐらい繰り返していて、なかなか興味深かった。ようつべで探せば『おはよう』と鳴くカラスの動画はいくらでも見つかると思います。
私が文章を書く際にも、頭の中にある音とリズムのイメージに合わせて言葉を嵌め込んでいくので、方法論としては近いものを感じますね。
他の作者の皆様は文章を紡ぐときに頭の中でどういった処理を行っているのか、人それぞれ異なるメソッドがありそうで、是非伺ってみたいところです。