あとがき
「薇仕掛けの用心棒」全十一話、無事に書き終え完結を迎えることが出来ました。
ひとえに皆様の温かいご声援の賜物に他なりません。心より感謝申し上げます。
幕末の「妖怪」対「幻怪」のバトルを描いた処女作「小説幻怪伝」に始まりました幻怪小説シリーズは、これまでに五作品を、この「小説家になろう」サイトで発表させていただいてきました。いずれも本編「幻怪伝」の登場キャラを掘り下げたものだったのですが、今回の「薇仕掛けの用心棒」は本編とは完全に独立したストーリーです。
永らく続いた戦乱で荒廃しきった冥界が舞台。心と身体に傷を負った「ならず者」ゾーレス・ニーヨが、生きるための闘いや、様々な人々との出会い、そして過去の因縁と向き合うストーリーを西部劇仕立てで書き記してみました。
元・軍人たちが幅を利かせ、未だ暴力が社会の根幹を成しつつも、あらたな秩序体形が生まれつつある町。それに抗う群盗たちも、力に寄り添うことでしか生きられない女たちも、秩序と言う名の新たな暴力に従わざるを得ない丸腰の住民たちも、皆が心や身体に傷を抱えたまま。
誰もが、自分の考える「秩序」と「正義」に生きる中で、そのぶつかり合いが新たな苦しみを生んでしまう。
絶対的な身体の障害という「欠けた」男、しかし軍事技術を応用した身体パーツで「持てる」男でもあるゾーレスは、身体の、そして心の穴を埋める何かを探し求めるかのように生き急ぎます。
謎の男が、闘いと愛を交わしながら秘められた過去への復讐を遂げる、と云ういかにもウエスタンにありがちな物語ではありますが、その登場人物一人ひとりが、何がしかの「善悪」の観念を持ちそれに忠実に生きています。
時代も世界観も全く異なりますが、現代社会の「行き過ぎた資本主義社会」のほとんどを占める敗者たちが世界各地で、ネット上で己の主義主張こそ正しい、と終わり無き戦いの連鎖を紡いでいる様は、この物語と同じなのかもしれません。
でも、いつの時代もどの世界にも、ええ「冥界」にも、希望はあります。
長い影を残しながら去っていった賞金稼ぎと廓の女の如く、たとえそれがどんなに小さくても、希望の光を信じて未来へ向かって歩いていきたい。そんな風にも思います。
ご愛読いただいた皆様方、本当に有難う御座いました。
心より感謝申し上げます。
幻怪暦二万二千十六年師走吉日
蝦夷 漫筆




