後篇
久しぶりの王城だった。
本来ならこんなところに二度とくるつもりはなかった。
けれど、彼女の、ルナ姫の婚儀があると聞いたから、わざわざ来たのだ。
兄と結婚するのだ、彼女も幸せだろう。
そして、そんな彼女を見たい。
その一心できただけだった。
けれど、来てみればどうだ。
ルナ姫はまるで、人形のように感情をなくされており、兄もまたしかりだった。
狂気に犯されたんじゃないかと思うぐらいだった。
けれど、だからといって文句を出せるわけもない。
今の僕は、たんなる国際指名犯。
それに、例え、それがなかったとしても、単なる一貴族の息子でしかない僕にそんな権利はない。
けれど、だからといって、これ以上二人のあんな姿を見たくなかった、
だから、帰ろうと思った。
けれど・・・
そう思った矢先に王城が攻め込まれた。
しかも、周りを囲むほどの大軍で。
最悪だった。
いくら、守備のための軍がいるとはいえ、圧倒的に数が少なすぎる。
しかも、まったく予備動作を使わずに出てきたのだから、転送用の魔法を使ったのだろう。
かなり強力なやつを。
おそらく、何百人体制という大掛かりなものだったのだろう。
それぐらい、魔力消費が大きい。
けれど、それが効果覿面だった。
守備軍は奇襲に慌てて勇み足を踏み。
民は恐怖に慄き混乱し、阿鼻叫喚の地と化す。
まともに応戦できるような体制ではない。
僕は、ため息をついた。
この国ももう終わりだろう。
隣国すべてからの総攻撃を受けた。
それはつまり、すべてが敵。
そういうことだ。
おそらく強くなりすぎたのだろう。
そして、それは兄が原因。
向かうところ敵なしの完璧な天才。
その存在がそうさせたのだろう。
いつかは、この大陸全土がこの国のものとなる。
それを恐れたのだろう。
そして、兄にはそれだけの力があった。
それだけの軍略を持っていた。
完璧すぎるが所以のこと。
けれど、それが摂理。
どうしようもないこと。
だから、僕が手出しはしない。
それに、兄ならどうにかできるだろう。
天才と言わしめるその力で。
だから、僕は自分の里へと帰った。
第二の里。
忌み子達が集まる村。
僕のように逃げるしかなかったものたちが集まる集落だ。
僕はそこに逃げ込んだ。
最初こそ、歓迎されなかったが、次第に少しずつ受け入れてもらえるようになり、今では、里の代表者にまでのし上がった。
まぁ、卓越した知識に、常軌を逸した忌み子の中でも、特に強力な魔力、そして、人柄、それらをかねそろえたからだろう。
もちろん、通常なら、短時間でそれをなされるわけもない。
けれど、忌み子の力は特別だった。
紅眼には、数多くの能力があった。
そして、その中に、相手の心理を読む能力もある。
もちろん、すべてを読めるわけではない。
ただ、その人となりの大体を把握できるだけである。
けれど、それで十分だった。
その人の人間性を十分に把握できたからだ。
それに、里の代表者が決めたことは誰も拒否できなかった。
代表者の言葉は絶対だからだ。
そして、その代表者によって、僕は、今の立場にいる。
みんなが僕に会うと挨拶をしてくる。
もちろん、僕もそれを返す。
それが礼儀だ。
そして、この村の一番奥に僕の家がある。
代表就任が決まると同時にみんなが作ってくれた。
もちろん、僕も手伝った。
まぁ、魔法のスペシャリストである彼らが作れば、ものの数十分で完成したが。
中に入ると、僕は、コーヒーを入れ、茶菓子を出す。
これは、昨日お隣の人にもらったものだ。
その人はここに来てからずっとよくしてもらっている。
僕はそれを食べながら、ぼうっと考える。
いや、感知する。
そういったほうが正しいか。
今、僕は、王都の動向を見ている。
けれど、それはまったく芳しくなかった。
いつ崩れてもおかしくなかった。
いや、もうすでに崩れだしているだろう。
もうそろそろ防衛線も破られるだろう。
そして、そこを任されているのが兄だった。
けれど、その兄の采配は焦りばかりが目立ってなっていなかった。
周りのせいなのだろうが、兄らしくなかった。
これでは、もう持たない。
もうすぐ、この国は滅びる。
それがわかった。
けれど、僕にはそれは関係なかった。
あの戦で僕とこの国との関係は断絶した。
だから、関係ないこと。
僕は感知をとく。
今日はなんだか疲れた。
さっさと寝てしまおう。
そう思った。
けれど、どんなに寝ようとしても、眼がさえて眠れない。
いっそのこと魔法を唱えてでも、眠ろうか。
そう思ったときだった。
誰かが僕の名前を呼んだのを感じたのは。
誰かわからなかった。
けれど、確かに僕の名前を呼んでいる感じを受けた。
そして、思い出す。
仲間のことを。
彼らはあそこで戦っている。
そして、このままではおそらく死んでしまう。
この国はそういう運命だから。
そう、大切な人を失うことになる。
果たしてそれでいいのだろうか?
いや、よくはなかった。
僕は、寝室に行くと、タンスから服を出す。
依然着ていた、軍服。
もう二度と着ることなどないと思ってた。
けれど・・・
戦場に行くなら、これしかなかった。
この服には今までの思いが刻み込まれている。
人殺しとしての。
僕は、転送用の魔法の詠唱に入る。
ここから、王都までならすぐにいける。
そして、僕は、王都を囲む軍を見つけた。
足元に。
僕は、新しく魔法の詠唱に入る。
僕が知ってる中で最強を誇る魔法。
奇襲には奇襲を。
超特大の魔法をぶつけて混乱させてやる。
僕は、高速で詠唱を済ませると、放つ。
物質崩壊の魔法を。
そこから先は、もう戦といえるものではなかった。
僕は無差別に魔法を放ち、敵を追い立てる。
しかも、いつの間にか、僕の集落の若衆も集まって、一緒になって魔法を放っていた。
彼らの話では、里のものの守る者は里の守るもの。
そういうことらしい。
僕は感謝した。
さすがに、僕一人では時間がかかりそうだった。
けれど、彼らのおかげで短縮できた。
そして、僕たちは、いま、この国の国王の前にいた。
それと同時に兄を待っていた。
すぐに兄は出てきた。
ぼろぼろの姿で。
おそらく前線で戦っていたのだろう。
多数の返り血を浴びている。
まったくの無傷の僕たちとは大違いだ。
けれど、そんなことはどうでもいい。
今話し合うべきことは、そんなことではない。
「兄さん。これはどういう事ですか?王都はほとんど壊滅状態。王城にまでダメージを受けることになる。私が人のことを言えた義理ではないのかもしれませんが、兄さん、貴方はしっかりと、この国を守ったのですか?」
誰も声を上げない。
何もいえない。
忌み子風情が何を言う。
その言葉すら出てこない。
みなが恐怖している僕たちの力に。
兄は答えない。
ただ、俯くのみ。
たぶん、今、僕は兄より上にいる。
けれど、嬉しくはなかった。
むしろ逆にむなしかった。
別に僕は兄に勝ちたいわけではなかった。
ただ人に僕は僕、ミハエルとして認めてもらいたかっただけ。
けれど、僕は人ではなく、忌み子といて認識され、それゆえに兄を超えた。
むなしかった。
「まぁ、良いです。おそらくこの国は滅びるはずです」
けれど、表情は変えない。
貴族として生きてきた上で身につけたスキルだ。
けれど、そんな僕とは逆に、周りは騒然とする。
「隣国は怯えている、この国の脅威に。いつか、攻め込まれ侵略されるのでは、と。そして、だからこそ攻撃に転じる。やられる前に、やる。それこそ、周りを引き込んででも」
そして、その結果がこれ。
僕たちが来たおかげで何とか滅亡は免れたがこのまま衰退していくことは日を見るより明らかだ。
けれど、僕にとって、それは関係ない。
どうでもいいことだった。
この国が滅びようとどうなろうと知ったことではない。
僕は守りたいものを守るために戦う
それだけのこと。
そして、僕は振り返り、若衆のほうへと向き直ると合図する。
これ以上ここにいる必要はない。
ただ、それを言いにきただけの事。
兄に。
この国は滅びる。
だから、例え滅びても、彼女を、ルナを守ってほしい。
それを言いたかった。
誰かが呼び止めた。
この国の守護をしてくれ。
そういうことだった。
けれど、僕たちの誰もがうなづかない。
僕は代表者。
だから、里のものの思いを汲まなくてはいけない。
彼らは外のもののことを嫌っている。
自分たちをただ紅眼というだけで、迫害してきた。
それが許せないでいる。
だから、その申し出を受け入れられるはずがなかった。
いまさらになって都合よく、そんなことを言われてもばかばかしくて仕方がない。
それに、例え、守ったとしてもその後のことなどたかが知られている。
暗殺されるだろう。
用無しとなった僕たちは、その危険性により殺される。
それが眼に見えているのだ、うなづけるわけがなかった。
だから、滅びよ。
そういうことだ。
僕は移動する。
彼らには帰ってもらった。
僕にはよるところがあった。
目の前には、大きな木の建物がある。
軍の宿舎だった。
そして、このエリアは・・・
以前の僕が所属していた大隊だった。
少し緊張しながら、中に入る。
玄関には誰もいなかった。
おそらく、この時間は、修道場のはずだ。
僕はそっちに向かう。
そして、そこにいた。
ドアを開けた僕のことを拍手で招き入れてくれる仲間がいた。
紅眼をした僕のことを受け入れてくれる仲間がいた。
それから飲んだり食べたりして騒ぎ続けた。
そして、夜もふけたころに、
「みんなも私がいる村へと来ないか?」
唐突に切り出した。
みんなが驚いたような顔をする。
けれど、僕にとっては聞いておきたいことだった。
「もうすぐこの国は滅びる。強すぎるが故にだ」
国王に言ったことを、そのまま伝える。
「だから、私たちの里へこい。お前たちならきっと受け入れられる。私が保証する」
けれど、意味合いは違った。
失いたくない。
だから、そばにいてくれ。
その思いからだった。
けれど、誰一人としてうなづかなかった。
彼らには家族がいる。
家族のことを考えると、どうしてもうなづくわけにはいかなかった。
僕にもそれがわかった。
わかっていたけど、聞きたかった。
聞かないと後悔すると思った。
僕は、立ち上がると、みんなに別れを言う。
もともと、この話をするために来たのだ。
用件が終われば帰らなくてはいけない。
里にもそれなりに掟と言う物があるわけだし。
それを代表者が守らないと周りに示しがつかない。
みんなが渋るのをなだめてから、私は自分の家へと戻った。
けれど、行くときと状況が変わっていた。
人がいたのだ。
しかも、長老たちが。
この里には長老と呼ばれる人たちがいる。
簡単に言うと代表者の相談役といった感じだ。
その彼らがいる。
僕は自然と身を硬くした。
「君の同行を観察させてもらった」
そして、それと同時に、冷水のような言葉を浴びせられた。
それはつまり、僕が彼らに言ったことを聞かれたということだ。
本当は、誰にも言うつもりはなかった。
どうせ断られることはわかっていたのだから、僕の胸一つに収めておくつもりだった。
なのに・・・
「申し訳ございません」
僕は即座に謝った。
「紅眼の一族以外のものをここに呼ぶことは確かに、禁じられているのは知っていました。けれど、彼らは私にとってかけがえのない仲間でした。その仲間が死ぬかもしれない。そう思ったら、言わずにいられなかったのです」
誠意を見せるしかない。
言い訳は通用しない。
だから、言うことになった経緯を伝える。
これ自体がいいわけじみたように聞こえるかもしれないが、彼らはそうは受け取らないはずだ。
まぁ、許されるとは思えないが。
僕は頭を下げ続ける。
そうするしかできない。
けれど、不意に笑い声が起きた。
しかもいたるところから。
僕はびっくりして、周りを見渡す。
そこには、この里の人たちが集まっていた。
僕は何がなんだかわからなかった。
そんなことは、彼らは百も承知なのだろう、盛大に笑い終えると
「先ほど、私たちが、君の国の王のところに行ってきた。そしたら、君と同じく、援助をほしがられた。もちろん、私たちは拒否をしたよ。けれど、しつこくお願いされた。だから、こう提案させてもらった。私たちは基本的に後方支援として、参加し、その場合、一度の報酬は一人につき砂金袋を一袋、とね。けれど、だからといって、素直にそれを飲んでくれるとは限らない。だから、人質として、彼らの中で重要な人物を預かることにした」
長老のうちの一人がそう答えた。
けれど、まったく意味がわからない。
彼らは、恨んでいたはずだ、彼らのことを。
忌み子と疎んじ、蔑まされたことを。
それが、わかったのだろう、また別の長老の一人が答える。
「これは必要なことなのじゃよ。この里の規模もいい加減大きくなってきた。中には、紅眼でないものもおる。里の中もいよいよ、このままでは機能しづらくなってきておる。実際、この里の平均収入自体も減ってきておる」
すべてを自給自足するわけには行かなかった。
だから、足りないものはそのつど、買いに行っていた。
もちろん、眼の色を変えて。
「けれど、それも、もうそろそろ限界じゃ。だから、向こうさんを利用させてもらうことにした。せっかくの商売相手が見つかったのだ、捨ててしまうのはもったいなかろう?」
だからといって、それでいいのだろうか。
皆は納得しているのだろうか。
「もちろん、里の者の了承は取ってある」
それなら、文句は出なかった。
彼らが承認しているのならば、僕が口に出すことではない。
「わかりました」
僕は、それにうなづいた。
それ以外言いようがなかった。
これで、話は終わり。
みんなそれぞれ自分の家に帰っていく。
長老たちも。
僕は全員が帰ったのを確認するとため息をつく。
もうこれ以上戦いに身をおかなくてもすむ。
そう思った矢先にこれだった。
でも、まぁ、それも宿命に違いないが。
今まで、それこそ今日もたくさんの人の命を奪ってきた。
そんなやつが、戦いたくないなど言うわけにはいかないだろう。
僕もまた、戦場で散るだろう。
それが、騎士としての宿命だ。
また、ため息をつくと、寝室に戻る。
今日は本当にいろいろありすぎて疲れた。
眠たかった。
部屋の扉を開ける。
「・・・・・」
けれど、即座に閉める。
ありえないものを見てしまったからだ。
そうありえない。
僕のベッドの上にちょこんと座るルナ姫。
そんな姿があるなんてありえない。
あってはいけない。
僕は、いそいで、転送用の魔法を唱え始める。
けれど、それよりも一足早く、ドアをあけそれを中断された。
彼女の手によって。
何もわからなくなった。
どうして、彼女がここにいるのか。
「会いたかった」
そんな僕を置き去りにした彼女は続ける。
「どうして、私のところには会いに来てくれなかったの?私は待ってたのよ。それとも、私はミハエルにとってどうでもいいものなの?」
「いえ。」
そんなわけがなかった。
だからこそ、兄に後のことを頼んだのだ。
そして、会いに行かなかったのは・・・
決心を鈍らせないため。
彼女に会えば、また来たくなる。
また会いたくなる。
それが分かっていたから。
彼女がそれを望まなくても。
けれど、驚いたことに彼女は、僕のことを思っていてくれた。
やはり、憐憫の情を持っていてくれたのだろう。
それだけでも十分嬉しい。
「そう、それはよかった。」
彼女も安心したように安堵の息をつく。
せめてもの安らぎを。
そう思ってのことだった。
「それなら、安心して、ここで住めるわ」
「え?」
けれど、彼女の返した言葉は驚きに十分値することだった。
「私は、人質としてここにきたの。決して、紅眼の一族を裏切らない、その証のために。」
けれど、彼女の言葉を聴いて、理解した。
長老が言った人質、それが彼女なのだろう。
まぁ、彼女なら、人質としての価値なら申し分ない。
彼女を切り捨てることなどできないからだ。
唯一の王位継承者だから。
けれど、思い切ったことをしたものだ。
彼女を人質にするとは。
けれど、彼らにしてみれば、それぐらい僕たちの力は重要で必要なのだろう。
国を守るためには。
しかし・・・
「ルナ姫はそれでよろしいのですか?」
彼女はそれで良いのだろうか?
本当なら、彼女は兄と結婚するはずだった。
けれど、人質としてここにいることになるということになれば、それは難しくなる。
兄は王都で近衛を指揮しなければならない。
まぁ、王族の婚姻というものは、単なる儀式でしかないから、それでもかまわないが、まったく会わないというわけにもいかない。
次世代を担う子供を作らなくてはならない。
けれど、これでは会うこともままならなく、子供を作るなんてことは到底不可能。
まぁ、それ以前に彼女の気持ちはどうなのか。
そういう意味合いで聞いたのだが。
「そういう、ミハエル。貴方はどうなの?」
けれど、逆に、質問を質問で返されてしまった。
まったく意味が分からない。
どういう意図でそういう問いかけをされたのか。
「貴方はどうなの?私の夫になることに対しては」
それが分からず、だからといって聞き返すことも、ましてや答えることもできず、考え込んでいると、彼女が付け加えた。
けれど、それは・・・
はっきり言って、余計意味が分からなかった。
僕が彼女の夫になる??
それはつまり、僕と彼女が結婚する。
そういうことなのだろう。
けれど、それは現実に考えておかしすぎる。
実際、彼女は、僕の兄と結婚する。
そう決まっていたはずだ。
けれど、思い出す。
彼女が人質であることを。
そして、今の自分の立場を。
それを思い出すと、ため息がこぼれた。
彼女がいぶかしげな顔をした。
けれど、それぐらいしないとやっていけなかった。
これはつまり、たんなる、政略結婚。
国が紅眼の一族を裏切らない。
その証として、彼女を代表者である僕のところに嫁がせる。
国としては彼女を切り捨てられない。
唯一の王位継承者であるからだ。
そして、それを一族に嫁がせるという形で預けることで、お互いの同盟を正当なものに仕立て上げたのだ。
決してどっちも裏切れないように。
そう、国が彼女を捨てられないように、一族も彼女を捨てられない。
代表者の妻。
それを捨てることはできない。
切り捨てることは許されていない。
お互いがお互いに枷をつける。
そういうことだ。
それを知った僕は吐き気がした。
こんな婚姻最低だった。
彼女はこんなものを望んではいないはずだ。
彼女が好きなのは・・・
兄のはずだから。
「私は、構いません。この里の代表者となった以上、この里の存続を考えると、断るわけにはいきませんから」
けれど、だからといって、破談にするわけにもいかなかった。
結局は、権力を持つものに、『私』は許されない。
それだけのこと。
だから、僕も彼女も受け入れなくてはならない。
例え、彼女が僕のことを愛していなかったとしても。
「そう。」
そして、その問いに彼女は満足そうにうなづく。
すでに、決心がついていたのだろう。
王族としての。
「よかった。断られでもしたら、ショックで立ち直れないところだったわ」
そんな僕の答えに彼女は、安堵の息を漏らしながらそう言う。
まぁ、王族としての勤めを果たせなかった。
そうなれば、彼女に非難が集まることはまず間違いなかった。
「せっかくのチャンスなのに、ふられてしまうなんて、あれですからね」
「え?」
そう思ってのことなんだろう。
僕はそうだと思っていた。
けれど、彼女は違うみたいだ。
チャンス。
そういったのをしっかりと聞いた。
彼女にとって、これは何かのチャンスらしい。
けれど、僕にしてみれば、やはり分からない。
こうして、僕と結婚することで何のチャンスを手に入れるというのだろう。
少し、それが気になった。
いや、むしろ、かなり、そういったほうが正しいだろう。
けれど、聞けるわけもなかった。
彼女は極端な秘密主義者。
答えてくれるわけがない。
それを、彼女を護衛しているときに学んだ。
だから、僕はそれをあえて無視すると
「少し疲れたので、私はそろそろ休ませてもらいます。ルナ姫もお眠りにつきたくなれば、お好きな部屋をお使いください」
彼女にそう言うと、僕は自分の部屋へと入ろうとする。
けれど、それをそっと阻む人がいた。
もちろん、彼女だった。
何事だろう。
そう思った。
けれど、それを尋ねる前に僕の口をふさぐと
「ねぇ、貴方はこの婚姻を単なる政略的なものだと思ってるかもしれない。だけど、私は違うの。私はずっと貴方のことが好きだった。必死になって、ひたむきに前へと進んでいた貴方が。だから、私にとってこの婚姻は願ってもないチャンスなの。だから、せめて私の思いだけは受け取ってくれる?例え、貴方が私のことをなんとも思っていなかったとしても、私は貴方のことが好きだし、愛してるといえる。例え、貴方が紅眼の一族だったとしても・・・」
まるで独り言のように囁いた。
けれど、僕にしてみれば青天の霹靂だった。
僕はずっと彼女が好きだったのは、兄だと思っていた。
彼女があまりにも兄のことばかり語るので、そうなのだとばかり思っていた。
けれど、それが違った。
いや、もしかすると、彼女の嘘なのかもしれない。
この婚姻を確かなものとするための。
けれど、僕にとってそれはどうでもいいことだった。
それは、これから確かめればいいだけのこと。
それだけのことなんだ。
僕は彼女の腕を解くと向き合う。
いつ見ても、彼女は綺麗だった。
凛とした気高さを持つ女性。
私にとっては女神にも等しかった。
そんな人が僕の妻になる。
それは、幸せ以外なんでもなかった。
僕は、彼女の手をとると、
「私もずっと貴女のことをお慕いしておりました。ルナ姫」
彼女の囁きに答えた。
まぁ、ご都合主義だろうとなんだろうと、これで終了です。
あと、多少おまけが残ってますが……
それは、気が向いたら、という事でww




