第5話~伝えたい~
「はぁ…。はぁ…」
思わず息がもれる。
久しぶりだ。こんなに勢いよく自転車で走るのは。
私をこんな気持ちにさせたのはなんだろうか。
雅也君が本当に入院してるか確かめるため?
彼に漫画の続きを見せるため?
私が彼と放課後の教室で過ごした日々がなんだったのかを確かめるため?
たぶんどれも正解だろう。
今日を入れなかったらたったの二日間だ。
雅也君が私の漫画を読んだのは。
このままで終わりたくない。
いや、終わらせたくない。
まだ広沢先生が言ってたことは信じられない。
だって、昨日まで私はたしかにあの教室で会っていたのだ。
私が見た雅也君はなんだったのだろうか?
もしかして、幽体離脱というやつなのだろうか?
今となってはわからない。
でも、もうすぐ真実がわかる。
彼が入院しているという鴨居沢病院に行けば。
ガチャ…ガチャ…。
自転車のペダルをこぐ音がよく聴こえる。
鴨居沢病院は私が通っている高校からだいたい自転車で30分くらいの距離になる。
小高い丘に建っているのが特徴な大きな病院だ。
遠くからでも私が目指している場所がよくわかる。
私は病院の敷地内に着いた途端、勢いよく駐輪場に自転車を停めて、病院内へ向かった。
「303号室に坂北雅也って人、入院してますか?」
受付にいた人に聞いてみる。
受付の人は最初、私を見て驚いていたが少し間をおいて「はい、たしかに入院してますよ」と言った。
私は303号室に向かった。
病院内は当たり前のことだが、とても静かだった。
廊下を歩いてる時、いろいろと考える。
そもそも彼は私のことがわかるだろうか?
私は彼を知ってる。
でも…。彼は?
でも、私は伝えたかった。
意識がなくてもいい。
彼にただ一言「私の漫画を読んでくれてありがとう」と。
「ここが303号室…」
私はついにここまで来た。
彼の部屋は個室になってるらしい。
扉の横についているネームプレートにはたしかに「坂北雅也」と書いてある。
トントン…。
私は勇気を振り絞って扉をノックしてみた。
「はい?どなた?」
少し間をおいた後、中から女性の声が聞こえた。
私は一気に緊張した。