第2話~名前を聞けなかったけども~
「漫画の続き…これでいいかな…大丈夫かな?」
私は自室の机で頭を抱えた。
数時間前、放課後の教室で会った謎の男子に誉められたのはとても嬉しかったけど、そのことが私のプレッシャーにもなっていた。
ちなみに漫画の内容はというと、話すことが大好きな女性がいろんな人の悩みを解決していくっていう感じだ。
話すことが苦手な私はこの漫画の主人公のようになりたかった。
だから、この漫画を書きはじめたのだ。
これは、自分の夢をこの主人公に託したってことになるのかな。
そういえば、私の漫画ノートを見たのはあの男子がはじめてだった。
と…いうことは…もしかして…。最初の読者?
そう思うとなんだか恥ずかしくなって、誰もいないのに顔が真っ赤になった。
「ふぅ…。コーラでも飲もう…」
私はコーラを取りに下の冷蔵庫に向かった。
冷蔵庫を開けてキンキンに冷えたコーラを取り出す。これほどおいしい飲み物はない。
飲む度にそう思う。
飲みながらあの男子のことを考える。
とりあえず私のクラスの男子ではない。じゃあ他のクラスの人だろうか?
私の学校は1学年に6つのクラスある。
だから知らない男子がいてもべつにおかしくはない。
でもクラスが違うのになんで私のクラスにいたんだろうか?
それも放課後に…。
考えれば考えるほどわからなくなる。
せめて…。名前だけでも聞いとけば…。
私は心から後悔した。
時計を見るともう夜中の2時すぎだ。
私が一番恐いと思う時間帯だ。
「もう寝よう…」
そうつぶやくと、自分の部屋に戻った。
ピリリリリ…。
いつもの目覚まし時計で目が覚める。
カーテン越しに太陽の日が透けて見える。
とっても気持ちの良い朝だ。
時間にも余裕があったので、私は昨日描いた漫画ノートを読み返して、学校に向かった。
授業中、私はいつもと同じように他のことを考えて過ごした。
こんな感じでもテストの点は不思議と悪くない。
要点だけをノートにまとめているからだろうか。
ぼんやりと窓から外を見る。
窓の外には綺麗な青空が広がっていた。
次の授業は体育だ。
「体育…。嫌だな…」
私は青空に向かってそうつぶやいた。
もちろん青空は何も答えてはくれなかった。
「はい!それじゃこれでホームルーム終わり。気をつけて帰るように!」
「起立~礼~!」
今日もいつもと変わらない1日が終わった。
クラスのみんなは続々と教室から出ていく。
普段なら私もこの教室から一目散に出ていっただろう。
でも、今日は違う。
私はここに残らなければならない理由があった。
あの不思議な男子にこの漫画を見せるという理由が。
時計を見る。
もうすぐ午後4時30分だ。
昨日、この場所であの男子と出会った時間だ。
「ガチャ…」
ゆっくりと戸が開く。
「やぁ、来たよ。漫画見せてよ」
彼が来た。
「こここここ…」
ダメだ。やっぱり緊張でうまくしゃべれない。
「昨日渡したメモ帳使いなよ。筆談しよう」
彼は微笑みながらそう言った。
カキカキカキカキ…。
パッ!
私はメモ帳に「こんにちわ(^-^)/漫画の続き描いてますよ」と書いて見せた。
「楽しみ。見せて」
「ははは、はい!」
私は彼に漫画ノートを渡した。
この人は私の漫画を誉めてくれた大切な人だ。
そして、大切なはじめての読者だ。
いつしか、この放課後の教室が私と彼の漫画を通じた交流の場所になっていた。