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まおー  作者: ケンシロウ
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四 国捕り編

そのころフェイランド王国では軍事会議が行われていた。

といってもウェイムは両足切断・胸魔法攻撃貫通・全身殴打による骨折・打撲により身動きが取れない状態であった。ビカムは視力と右腕をなくし、左腕は重度の火傷と全ての指が複雑骨折。ランバードは死亡。フェイランド王国が誇る3将軍は現状戦力にならない状況となった。

1つの円く大きな机をビカムとその他の部下達が囲んでいる。ウェイムは治療中のため会議には参加しないようだ。フェイ王が部下を見ながら無言で座っている。空気の重さにビカムがエンジェルのアジト襲撃の報告をした。


「フェイ王、敵のアジトを見つけC109で大半を壊滅させました。相手にはもうこの国を攻める戦力はしばらく整えれないでしょう」

「それはこのフェイランド王国も同じことではないのかな」


フェイ王の返答にビカムは口をつぐんだ。将軍が戦えないとなればほかの国からも攻撃されかねない状況なのだ。つまりアジト襲撃にはほぼ成功したが、その結果国としては大打撃を受けることとなってしまった。ビュアラとアスカによって全てが変わった。


「王、恐れながら申し上げます。魔族のレジスタンスのリーダービュアラの戦力は今までのデータとは大きくかけ離れております。また、向こうに側に人間が1名メンバーとしています。その人間が精霊使いで私たちの魔法では太刀打ちできない状況です。」

「ビカム、つまりその二人が攻めてきたらこの国は負けるということかな?」

「そ、それはわかりません。全力を尽くして戦うのみです!」

「ふむ、そうか。ほかの者も同じ意見か」


円卓を囲む部下達はみんな静かに頷く。


「この国には城門が3つある。その門を護る守護者を将軍と名付1けた。国内に敵を一切入れないための守護者だ。将軍は王に自由な発言を許可され国内では私の次に最大限に優遇される。まさに兵士がみな目指すべき地位だ。だがそれだけの責任が伴う。ウェイム、ビカム、ランバードは責任を果たすことができないため将軍の職を解く。」


王の発言ににビカムは驚愕した。そしてほかの部下達の闘気が一気に高まった。


「フェイ王の名においてお前たち約束しよう。ここにいる5名の実力は噂で聞いている。お前たちで魔族が攻めてきたときに城門を、民を護って見せよ。見事護りきった者に将軍の称号を与える。」


「おおおおおおおお」


部下達が一斉に叫んだ。将軍の職を解かれたビカムはうなだれてしまった。ビカムは優遇されていた全てのことがこれからは一般の兵と同じように扱われる。ウェイムも同様だ。

フェイランド王国はいつ攻め込まれてもいいように慌しくなった。そして各門には王に選ばれ将軍の座を求めた7人が待ち受けているのだった。


軍議会議が終了し、5人の名将たちはそれぞれ戦いの準備を始めた。ビカムは眼が見えなくても相手の気配やオーラで大体の人間は判別できた。ビカムをとウェイムを除き5名。

若いころからビカムの側近として付き従い、剣と魔法を教えた弟子「ライオン」。彼女は今回の戦いに参加しなかったのはビカムがあえてついてこなくて良いと命じたからである。ビカムは自分がこのような姿で帰ってくるとは想像すらしていなかった。帰ってきたときはライオンにひどく心配された。彼女はビカムのずべてを学べるほどの人材だとビカムは感じていた。だが、闘争心がいささか薄いのが難点だろう。今現在もビカムのそばでライオンは体調を気にかけてくれている。だがビカムは将軍の任を解かれたため今では対等な立場なのだ。


「ライオン、もうあなたは私の部下でもなんでもないわ。ついてこなくてもいいのよ」

「部下ではなくても師匠としては何も立場は変わっていません。そんな寂しいこといわないでください。私はあなたを姉のように思っているのに。」


ライオンの言葉にひどく感動した。いきなり盲目になり、右腕もない。少なからずショックを受けていた中での将軍解任だった。だが、片手がなくても眼が見えなくても魔法は使える。頭も働く。まだ終わりじゃない。


「ライオン、ありがとう。まだまだ私もがんばるわ」

「はい!二人でがんばっていきましょう!」


ビカムはライオンと別れ、医務室へ向かった。医務室でウェイムは胸の傷の消毒と足に義足をつけ立っていた。その横には先ほどの軍議に出ていた一人「ハルベルト」がいた。彼もウェイムの部下だった。ウェイムほど屈強な肉体ではないがそれでも常人よりは体格がいい。人相も悪くない。だが闘争心がとても強くすぐ前線に出たがるようだ。それでも成果をあげていることを考えると実力は相当なものだろう。


「ビカム、きたのか」

「どういうこと?なぜ立っているの?」

「技師に早急に俺に合う義足を造ってもらった。今までのようには行かないがこれでまだ戦える。」

「ウェイム、私たちは将軍の任を解かれたのよ。」

「ああ、ハルベルトに聞いたよ。わざわざそんなことを言いに来たのか?」

「そんなことって…」

「俺にとって将軍という立場なんてお飾りみたいなものだ。将軍でなくても俺はまだ強い。それに次の世代に任せても別にいい。」


そこへハルベルトが口を挟む。


「ウェイムさんは将軍って言われても1回じゃ振り向かないですもんね。自分が将軍だってこと忘れてるでしょ」


ハルベルトはくすっと笑いながらウェイムを見る。ウェイムは「そうだな」と相槌をついて口元だけ笑う。ウェイムはビカムを見て


「お前は大丈夫なのか?もう何も見えてないのか。」

「ええ、もうきっと治らないでしょうね。」

「そうか、だが心配するな。俺がお前の前を歩いて導いてやろう」


本人は真顔で言っていたがビカムは赤面だった。ハルベルトも「おー」と驚いた様子でウェイムとビカムを見ていた。


一方、軍議に出ていた7人のうちの2人が歩きながらひっそり話をしていた。

一人はライガー。黒魔術系の使い手でいい噂は聞かない。だが、その黒魔術の威力が高く、将軍候補に上がった。もう一人はワーバン。彼は双剣使い。つまりランバードの弟子である。


「これで成果あげたら一気に将軍だぜ!今は亡き師匠ランバードの後を継ぐために手を貸してくれよライガー!」

「見え透いた嘘をつく。ワーバンがランバードを師匠のように思ったことはない」

「うお、なんだ。心でも読むのかよ。気持ちわりい。」

「ふん、僕に近づくな。僕一人で十分将軍になれるだけの力はある」

「へえ、見た目と違って自信家なんだなあんた」

「なに?」

「あんたの黒魔術って詠唱に時間かかるんだろ?そんなことしているうちに俺の双剣でくびちょうんぱだぜ」

「僕はどんなときでも油断しない。君の殺意が僕に向けられようが僕を殺すのは無理。」


魔術師特有の黒いローブとフードをかぶり、表情があまり見えないライガー。それに加え、ランバードの弟子であるワーバンは軽武装状態でいつでも戦闘に入れるようにしている。その二人が城の通路を並んで歩いている。そして通路を抜け、広い吹き抜けまで出たとき、ワーバンは最大速度でライガーに切りかかった。だがライガーはふわっと宙に浮くようにその剣をよけた。だがよけた先にはすでにワーバンがライガーの背のほうへ廻っていた。その斬撃はライガーの背を切り裂いた。「よっしゃ」と小さな声で言った矢先、ライガーの切り裂いた背中から黒い霧が出てきてワーバンのあたり一面を覆った。ワーバンは咄嗟に何かが来る予感がし防御体制に入ったそのとき、目の前に巨大な鉄の拳がワーバンを殴りつけた。ワーバンは吹き抜けの窓ガラスを突き破り城の下のほうへ落ちていった。


「だから僕には勝てないって言ったのに。」


ライガーは吹き抜けの中心に立っていた。さっき現れた巨大なて鉄の拳はどこにもいない。ライガーは自分の部屋へ戻っていった。


一方、落ちていったワーバンは屋根を突き破って女子風呂の浴槽に落ちた。


「いってー。くそ、ライガーのやつ絶対に後で俺をこんな目にあわせたことを後悔させてやる。」


持っていた双剣にひびが入っておりもう使えなくなっていた。 


「後悔なら今しておけば?」

「へ?」


周りを見ると女性が裸でタオルで前を隠している。それも十数人。みんな魔術を使う魔法使いたちのようだった。手には炎や氷の塊、電撃などあらゆる魔法がもう放たれるところであった。


「いぎゃあああああああああああああああああああ」


瀕死の状態になったワーバンはそのままゴミ捨て場に捨てられていった。


一方、会議が終わってふらふらと散歩をしている剣士がいた。その散歩の最中、ライガーによって女風呂へ突き落とされるワーバンを途中で見かけたあとのワーバンの叫び声を聞いて楽しい気分になっていたのだった。

彼の名は「ソエル」。戦うときもニコニコしているためみんなに殺意のある笑顔の戦士とあだ名を付けられた。だがこれは心外だと彼は思っている。ただ自分は狐に似たような顔で眼が細く、口元がちょっと笑ったように見えるなんとも間抜けな真顔だった。でも正直どうでもいい。戦っていると楽しいのは事実だったからだ。



エンジェルのアジトでも戦闘の準備が着々と進んでいた。エネムの傷も良くなってきておりもう自力で歩き回っていた。ビュアラは人数が増えた仲間をそれぞれのチームに分けた。

食料などを確保する援助班。ベンが組織した偵察班。ラム、ネム、モネなどを代表とした医療班。医療班、援助班などを護る守護班。そして戦闘を進める戦闘班。それぞれに役割が与えられたことによってさらに士気が上がり魔族は一致団結していったのだった。


「よし、みんな。これから私たちは表の世界を堂々と生きていけるように…仲間とともに戦って国を勝ち取る。それにはみんなの力が要る!協力してくれるかい?」


「おおおおおおおおおおおおおお!!!」


ビュアラの呼びかけにみんなが応える。

エグシオ、エーヴァは応えてはいないがとりあえずついていこうとは思っていた。魔族対人間の一方的ではなく、全うに戦うのなんて過去の戦争を振り返ってあっただろうか。エーヴァは昔を思い出していた。あー、昔の主もビュアラみたいなやつだった。強く美しく、頭脳明晰。セイジュ。あの時お前があいつに勝っていたら世界はどう変わっていただろうか。まあ今はどうでもいい。今は新しい主とともに新しい戦いに巻き込まれていく。流されるがままに。


「でもなんで人間たちの国を奪う必要があるんですかぁ~?新しく作っちゃえばいいのに」


モネがそれとなく呟いた。近くにいたベンがすぐにそれに応えた。


「新しく国を作るとなると労力もお金もかかる。僕たちはレジスタンスとして今まで活動してきたけど実際国を作るには何年もかかるしその間に攻め込まれたら不利な状況この上ない。だが人間たちは高い城壁を作りその中で街を築き生活をしている。その場をいただこうと思っている。できれば最低限の死傷者で奪えればいいが相手も対抗しようとしてくる。魔族に対してよく思わない人間がほとんどだからね」

「そうなんですかー。でも人間と魔族って肌の色と角があるかないかの違いだけなのに。」

「モネ!理由なく襲ってくるのが人間だろ?私たちの親だって殺されてるんだから!」


モネの疑問を払拭するようにネムが応える。親を人間に殺されて兄弟、姉妹の契りを結ぶものも少なくない。


「モネの疑問もわからなくもないよ。実際最初私も一緒に生きていくてことはできないかと考えたこともあった。でも、今回のような襲撃で仲間を多数殺された後じゃあそんなこと考えることすら愚かなように思えるんだよ。」


みんなビュアラの悲しいような怒っているような複雑な顔をみて恐ろしさと同時にビュアラの悲しみが伝わってきて俯く。そんな時、いつも無口なラッセルが前に出て意見を述べた。


「気になることがある。相手は人間だが、今回のように魔法で直接このアジトを詮索することをせず化学兵器で最初攻めて来た。それはこちらとしても予期できないことだった。人間は裏でそのような知識を持つ何かと手を組んでいる可能性はないだろうか」

「化学兵器だって人間は得意なんじゃないのか?」

「いや、このような魔族のみに致死率の高い毒ガスを作るということは今の人間の、いや魔族のわれわれでも難しい。だから気になる。」


ビュアラとラッセルはいろいろ議論しているようだが、結局攻め入ることには変わりないようだ。

人間の文明にも魔族の文明にも化学や科学というのはまだあまり発展していない。というよりは一度滅びたといったほうが正しい。ある国でその科学と化学がほかの国と比べて発展している国があった。それらを兵器として各国と戦争を起こした。周りの国はわけのわからない攻撃で対応のしようがなく次と次と傘下に入ることを余儀なくされていった。だが傘下に入る前に協力してその国を滅ぼそうと複数の国で同盟を結び一気に攻め立てた。科学の国は次第に劣勢になっていき、最後に自分たちの科学の結晶を駆使して外部に研究資料などがいきわたらないように国ごと自爆をした。それは攻め入った国をも飲み込み地球に巨大な穴を残し戦争は終結したのだった。これは魔族と人間とが戦争するさらに前の話である。


「どちらにせよ、偵察をして明日か明後日には攻め込めるように準備をしておいてほしい。エネム、それまでに傷は治るか?」

「医療班がやさしーーく看病してくれたら治るよ」

「エネムの看病なんかしません!いつもえっちいことばっかして来るんだから!!」


ネムはすぐに否定しまわりのみんなは盛大に笑っていた。


「じゃああたしがしっかり看病してやるよ」

モネが快く受け入れてくれようとしてくれていると

「いや~モネはちょっと看病が雑だからなぁ」

「お前、人がせっかく看病してやるってんだからおとなしく実験台…じゃなくて看病されやがれ!」

「え、え、?ちょ、最後なんか変なこと言わなかった?」


エネムはモネに連れられ医療室へ無理やりつれてかれるのだった。


「ラムって最近変な栄養ドリンク作るのはまってるよねぇ」

「あたし一回飲んだことあるけどその後しばらく涙が止まらなかったよ」


ネムとモネはお別れをいえなかったことを後悔した。エネムに。

そのあと集会は解散した。エグシオはビュアラに話しかけた。


「ビュアラ…」

「お、エグシオから話しかけてくれるなんて珍しいな。なしたんだい?」

「ビュアラがバーサーカー状態になればこの戦い勝てるんでないの」


そこへエーヴァが割り込んできた。


「だめだな。バーサーカーってのは10分程度しかその状態を維持できない。さらにその10分ってのも私が前回の戦争に参加していたときの話だ。今だったら…」

「5分以下ね。時間はまちまちだけどね。それもその状態になったあと30分は動けなくなってしまうし。どちらにせよバーサーカーは奥の手ってことね」

「そうなんだ。」


エグシオは無表情だがなんとなく残念だったようだ。確かにあのときのビュアラは強かった。離れていても殺気が伝わるほどに。ライアも化物が近くにいると勘違いをしたくらいだったろう。


「私よりもエグシオたちの活躍に期待しているよ。絶対に魔族が平和に暮らせる、太陽を怯えることなく見れる国を勝ち取るんだ!」

「太陽…空か…」


この星、ハイラルの空の先には一体何があるんだろう。いや、まずこの世界には何があるんだろう。まだまだ見ていないものばかりだ。これからそれを見ていけるんだろうか。そして最後には一人で死ぬんだろう。もしかしたら殺されるのかもしれない。でも失うものもないし、見たいものを見て行きたいところへ行くのも悪くないかもしれない。でもなんで僕は力を求めたのだろう。なんのためだろう。

エーヴァはエグシオが考えていることがなんとなくわかったようだったが何も言わなかった。


一方医療室に連れてかれたエネムはネムにビーカーに入れられた黒っぽい飲み物を渡されていた。


「えーっと…毒?」

「毒な分けないでしょ!薬!最近新薬作るのにはまってるのよ!これ飲めば一気に復活よ!」

「いや、どう見ても一気に死亡でしょこれ」

「飲んでもいないで何行っているの!一口飲んでみてよ!」

「ちょっとまて。まずモネのんでみてよ。」

「そんな危ないことできるわけないでしょ!」

「あ、きた!本音きた!ほらー!毒じゃねーか!」

「違うんだって。ちゃんと医療系の漢方を混ぜ合わせて作ったの。私は怪我もしてないし飲む必要がないってこと」

「いーや!さっきの言い方は絶対危ないってわかっているけど飲んだらどんな風になるか知りたいから飲ませてみようって感じだろ」

「…わかったわ。」


ネムは自分の服を胸のところまで捲り上げた。



「飲んでくれたらこれ脱いであげる」

「マジでか!!いただだきます!」

エネムは黒い液体を一気に飲み干した。体の傷がみるみる消えていった。

「え、すごい。毒じゃなかった!よし!ネム!約束の服を。。。」


次の瞬間エネムは白目を向いて倒れた。


「うーん?なんでだろう。ちょっと麻酔がわりにと思って入れたネムリダケが多かったかなぁ。まあ脱がないですんでよかったぁ!」


エネムは丸一日寝続けた。



「なぜ人間がこのアジトにいるんだ!」


アジトの大広間で地底世界から来た魔族の男にアスカが責められていた、その男の後ろには仲間らしき男たちが4、5人立っていた。アスカはしどろもどろになって何も言い返すことができずにいた。


「俺たちは人間に迫害を受け続けてきた。お前にこの苦しみがわかるのか!」

「お前はスパイなんじゃないのか?!前回の急襲だってお前がなんかしたんだろ!」

「違う!私はそんなことしない!」

アスカがすぐに反論するが魔族たちは話を聞こうともしない。

「殺せ・・・」


誰かが言った。だが人間への恨みが募っている彼らにとって今の一言が引き金となった。


「殺せー!!」


魔族たちの目の色が変わる。


「え、え、いや・・・」


アスカが壁に追いやられる。男たちの手には鈍器のようなものを掴んでいる。


「やめて!!」


どうしよう・・・アスカに来てもらったら精霊使いだってばれちゃう・・・でもこのままだったら殺されちゃう。

すると目の前にラッセルが現れた。


「さっきから野蛮な発言が聞こえると思ってきてみたら君たちかい。」


アスカを暴行しようとした魔族たちが立ち止まった。ベンの鋭い眼光にすくんでいるようだった。


「僕は暴力とかが嫌いなんだ。特に仲間内で争うなんて持っての他だ。」

「そいつは仲間じゃない!!人間だ!」


アスカを責める魔族がアスカを見ながら怒鳴り付ける。


「君たちより長く一緒に戦ってきた私たちの仲間を君たちは仲間じゃないと言うのかい」


アスカはその言葉に心を打たれた。自分が戦いに参加したくないがために自分の力を隠し、逃げてばかりいた。精霊使いは人間から見たらただの兵器としてしか扱われない。今までそうやって恐れられながら生きてきた。それが嫌で逃げて逃げて・・・いつのまにかずっと旅をするようになってエグシオ達と出会った。


「そんなの関係ねぇ!」


魔族たちが一斉に襲いかかってくる。


「アスカ・・・」


一瞬で精霊のアスカが蜃気楼を作り攻撃を見事にかわした。


「この大気を包むようなエレメントは・・・」

「ベンさんごめんなさい。私はただの人間じゃありません。精霊使いです」

「精霊使い・・・初めてあった時は何も感じなかったが・・・」


攻撃してきた魔族たちも驚いているようだった。だがベンだけ反応が違った。


「すごい!!僕に精霊を見せてくれないか!?なんの精霊なんだい?!」

「えっと・・・光の精霊です」

「光だって!?レア中のレアじゃないか!すごい!伝説でしか聞いたことがないよ!書物とかでもあまり情報が少ない貴重な精霊様だ!」


アスカはベンの目を輝かせている反応にちょっと唖然としてしまったがアスカを呼び出すことにした。アスカの横に光が集まって人間の形へと変わっていく。そして光の精霊アスカが現れた。


「あらー、いいの?ばらしちゃって。あたしは知らないわよ?」

「さっきから見ていたでしょ?それにあのままこの人が助けてくれなければあなたが出てきて相手を殺していたでしょ!」

「あらー、さすが私のパートナーね。全部わかってるじゃない」


人間のアスカと精霊のアスカの話をきいて攻撃してきた魔族たちはそそくさと逃げていった。ベンは目を輝かせていた。アスカたちの回りには光のエレメントが渦巻いておりただならぬ空気ということが誰にでもわかる状況だった。


「あ、あの、あなたは本当に光の精霊様なのですか?」

「あらー、この男性は誰かしら?」

「さっきから見ていたくせに・・・」

「いいじゃないー、紹介してよー。」

「あ、自分で自己紹介をします。私はベン・ガムです。主に魔法関係の研究をしています。まさか精霊様に会えるなんて光栄です。」

「あらー、魔族って魔法関係に疎いんじゃんかったけ?」

「はい。だけど比較的魔法を扱いやすい体質だったみたいで。」

「アスカ、そろそろいいわ。紹介したかっただけだから。」

「あらー、アスカ冷たいじゃない。用もないのに具現化させるなんて。せっかくだからもうちょっと表にいたいわ。もう隠す必要がないんでしょ?」

「是非!もっと色々僕もお話を聞きたいです!」


アスカは消えるのを拒み、目を輝かせているベンはアスカに色々話しかけていた。精霊のすごい魔力にエーヴァも大広間にやって来た。人間のアスカはあきれたようにベンの横に立っていた。周りの魔族たちは信じられないような顔をしていた。精霊とは竜や天使といった伝説上の話でしか出てこないため実際目の前に現れて困惑するのは当たり前だった。


「お、光の精霊のアスカじゃないか。」


ベンと話し中だったアスカがエーヴァのほうを向いた。


「あらーエーヴァちゃん。あなた目覚めちゃったの?」

「おかげさまでぐっすり300年くらい眠らせてもらったよ」


ベンと人間のアスカは仰天した。エグシオと共にいたエーヴァがなんと精霊アスカと面識があった。


「どうやってエーヴァちゃん目覚めたの?」

「魔族のガキが封印本に触ってその瞬間封印が解けたよ。」

「あらー、これは大変。他の精霊ちゃんたちに知らせないとー」

「そうはさせない。いまこの場で精霊アスカを葬るからな。」

そういった途端二人の気が一気に膨れ上がった。殺気がピリピリと伝わってくる。人間のアスカが途中で止めにはいる。

「ちょっと!エーヴァちゃん!いきなりなんなのよ!」

「邪魔をするなアスカ。こいつは私を本に閉じ込めた精霊のうちの一人。」

「あらー、だって戦争のパートナーさんがいなくなってから荒れてて手がつけれないから封印するしかなかったのよー。」


精霊アスカはおっとりと会話に入りエーヴァから遠ざかる。


「アスカがやめろっていうから私ちょっと消えちゃおうかしら。いまのエーヴァちゃんだったらあたし一人でなんとかなりそうだし。みんなに伝える必要もないかなー。」

「なに!?」


エーヴァが精霊アスカを睨み付ける。


「あらー怖いから消えるわね。じゃあまたなんかあったら呼んでねアスカ。」


そういうと光の粒子がバラバラになっていき、アスカは姿を消した。


「ちっ、相変わらず調子が狂うやつだ。」


周りはまだポカーンとしている。というより二人の威圧感に圧倒されていた。そこベンが口を開いた。


「えっと・・・精霊アスカとは知り合いだったのかい?エーヴァ。」

「知り合い?さっきも言ったがやつらは私を本に封印したやつらだ。そもそも前回の戦争の時戦った精霊の一人だからな。」

「え、前回の戦争ってあ300年前の戦争よね?アスカと戦ったの?」


アスカが驚いた顔でエーヴァに問いかける。


「ああ。そもそも精霊は魔族と契約しないからな。竜と神は戦争には参加しなかったな。」

「神様と竜って本当にいるのかい?」


ベンが目を輝かせてエーヴァに問いかける。


「ああ、だがやつらとは関わらない方がいいぞ。傲慢なやつもいれば頭がおかしいやつもいる。特に竜のあいつときたら・・・」


エーヴァが苦虫を噛んだような顔をしたがラッセルはその話が気になってしょうがなかったようで最後まで聞く気満々だった。


「いいか、まず竜といっても小さいのから大きいのもいる。そのなかでも竜王と呼ばれる竜が三匹。竜王バハムート、竜王シンリュウ、竜王アニマ。この三匹目のアニマが好戦的でしつこい。こいつと戦うことになったらこの世界では逃げるが勝ちだ。他のやつらは比較的話がわかる。そして神といわれるやつらだが、私が知っている限り二人しか知らない。魔神サタン、天神ゼウサー。あとは私のように神に近い存在。要は強すぎるやつらを神と呼ぶやつらもいるが実際は神ではない。私はゼウサーとは会っていないがサタンとは一度だけあったよ。」

「神と会ったのか?!」


ベンは驚愕していた。もちろん横にいるアスカもだ。ただ、神が本当にいるのかと言う疑いはまだ晴れない。なんせエーヴァもほんとに300年前の戦争に参加していたのかどうかも証拠はない。信じられるのはその強さだけだった。

 しかし精霊アスカとのやり取りでエーヴァは本当に封印されて過去の戦争に参加していた信じざる終えなくなってきた。ここでさらに竜とお神の話をされたら逆に頭がこんがらがってしまう。アスカは興味はあったがその場を離れることにした。


「まあ、精霊もいるんだから竜とかいても確かにおかしくはないわよね」


アスカは独り言をいいながら自分の部屋に戻った。戦いは着実に近づいている。しかも自分は人間なのに魔族側についている。もう後戻りもできない。アスカはベットに横になって目を閉じたらいつのまにか寝ていたのだった。


ビュアラはベンの偵察隊の情報を聞き、作戦を練っていた。城に乗り込める門は三つ。三つ同時に攻めるべきか1つの門に集中するべきか。一つの門に集中した場合他の門から裏をとられる可能性がある。三つの門を同時に攻めた場合、兵を分担しなければならない。そして門には各兵隊長が待ち構えている。誰がどこにいるかまでは情報を得られなかった。

 それにしてもアジトも手狭になったものだ。このアジトはラッセルが結界を張るまでは危険な場所でもあった。だがあえてこの場所に選んだ理由もあった。まず地下空間が思った以上に広かったこと、そして地か水脈があったことだ。これで地上にわざわざ飲み水を取りに行くリスクが減る。ラッセルの決壊ができるまで運よくフェイランド軍には見つからなかった。違う部隊が敵を撹乱していてくれたからだ。地下からきた仲間たちとも大分親近感が沸いてきた。というか向こうが親近感沸きすぎだ。毎日のように告白されていた。かなり下心まるだしな感じのやつらだ。


「俺と毎日いい感じになろうぜ!」

「却下」

「僕と一緒に寝てください」

「却下」

「水浴び一緒にいかない?ビュアラさん」

「またボコられたいのかエナム」


という感じで来るやつらが沢山いて困る。もうすぐ戦い間近なのに大丈夫なのだろうか。ちょっと不安だ。ワレキューレも今ではナナミとユーナだけとなってしまった。強力な組織を作り戦いに備えてきたが先手をとられてしまった。みんなの仇は必ずとると心に誓った。


 

 その頃ライアは地底世界からきた仲間たちと稽古をしていた。地底世界は人間が攻めてくるまでは平和だったので戦いの術を必要としなかった。だがこれからは違う。生き残るために強くならなければならない。期間は短いものの魔族ということもあり戦いのセンスはみんな持っていた。あとは実践で発揮できればいいのだが緊張気味の若者も少なくない。


「みんな今日は終わりにしよう!休むことも大事だからな」

「はい!!ありがとうございました」


 地底世界の魔族たちはライアの強さを知っていたので素直に稽古に励んでいた。ライアが振り替えるとハーネスが立っていた。汗をかいていたライアにタオルを手渡した。


「おお、ハーネス。ありがとうよ、なにしにきたの?」

「なんとなく様子を見にきただけよ。」

「いよいよ俺たち魔族が天上界で国を作るときがきたんだな。」

「この戦いに勝てたらでしょ?」

「勝つに決まっているじゃん。そこから疑うのかよハーネス。」

「疑ってはいないわよ!でもなんとなく嫌な予感がするのよ。だからちょっと心配になっただけ。」

「ハーネスのそういうのってたまに当たるから怖いんだよなぁ」

「ちゃんと・・・生きてまたみんなで一緒に頑張ろうね。」

「おう!当たり前だよ!」


 ライアはそういって自分の部屋へ戻っていった。ハーネスの不安感はなぜか増すばかりだった。



 フェイランドでは軍議により各門を護る場所がそれぞれ決まった。1の門はビカムを慕っているライオン、黒魔術の使い手ライガー。2の門は殺意のある笑顔の戦士ソエル、ウェイムの弟子ハルベルト。3の門はランバードの弟子であるワーバン、負傷しながらも実力は認められているビカム。彼女に限っては自分からの申し出で前線に立つこととなった。ウェイムは劣性になった門の応援をすることとなっている。ウェイムも義足を履き、以前の実力とまではいかなくても戦うことを望まれた。ウェイムにとってはビカムが前線にいるためできればビカムの応援に行けたらと考えていた。それぞれが互いにライバル視をしていた。将軍になれるかがかかった戦いなため当然である。特にワーバンはどんな手を使ってでも将軍の座に就くと決めていた。


「ビカムか、、これは好都合だ」


 ワーバンは不適に笑っていた。ビカムは再び将軍の座に就くために集中しておりワーバンの異変に気づかなかった。

そして戦いは始まった。

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