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まおー  作者: ケンシロウ
3/7

弐 新たな仲間編

小さい小屋にある暖炉。その暖炉の中の横に隠された扉があった。そこから地下へと続く階段を降りると大きな空洞があり、避難していたはずの魔族たちがまだそこにいた。


「ここが俺たちレジスタンス エンジェルのアジトだ!ってあれ?何でみんないるんだ?」


ライアは残っていた魔族たちのところに向かった。ライアの周りに魔族たちが集まっている。

話が終わったのかライアが戻ってきた。


「リーダーのところに案内するからこいよ」


ライアの後についていくとまた大きな空洞にでた。そこの一番奥に髪が青色でポニーテールの女性が椅子に座っていた。

エンジェルのグループの人たちは同じ服を着ているようだがその女性だけは軽い防具を付けていた。


「ビュアラさん、ただいま戻りました。なぜ避難をしていないんですか?」

「ライア一人をおいて私たちだけ逃げられるわけないだろうが!って後ろの…」

「あ、彼らに助けてもらったんです。命の恩人だ。」


ライアはビュアラやほかの魔族にエグシオ、エーヴァ、アスカのことを話した。


「そんな子供たちがそこまで強いなんてね…どれ…」


ビュアラの姿が一瞬姿が消えたかと思った瞬間エグシオの後ろから声が聞こえた。


「ほんとに強いのかねぇ…」


エグシオは少し驚いていたがすぐに振り向いた。ビュアラの胸元あたりにエグシオの顔がある。少し見上げるとビュアラは笑っていた。


「エンジェルにようこそ。」


こうしてエンジェルに快く迎えられた。

エグシオは本がたくさんある部屋に缶詰にされてエーヴァの近くで黙々と知識を蓄えさせられた。

アスカは人間であるため最初魔族と話すのに抵抗があった。魔族のほうもアスカが人間ということで敵意むき出しの人もいた。そのたびにライアが割って入りその場を切り抜けた。

ライアは背が高く好青年だった。ちょっと性格が曲がっているところもあるがいざというときは頼りになった。魔族は接近戦を得意とするためみんな体格がよくアスカが子供のように思えてくる。


「エグとエーヴァは書庫か…もう3日だぞ…よくやるよな…信じられん!」

「エグは地底世界から来たばかりらしいから天上世界のことを知るために猛勉強してるの。」


ライアはエグシオが書庫からしばらく出てこないので驚いていた。アスカもさすがにエグシオが心配になる。


「地底世界…俺ずっと天上で人間と戦ってきたから地底世界ってどんなところかわからないや。他にも仲間がいっぱいいるのかな…」

「私もよくわからない。ってかなんで私が人間と魔族の闘いに巻き込まれてるのかもわからない…」

「そりゃあ乗りかかった何たらだよ。まぁこうなったらがんばって戦おうぜ!」

「はぁ…お先真っ暗ね…」



書庫にエグシオとエーヴァがこもって3日。フェイランドの兵士たちはあれから攻めて来なかった。あの小さな小屋からはいった入り口はなんらかの封印術で封じられたらしい。

魔族は魔法が苦手でもまったく使えないというわけではない。まれに魔法を使える文武両道の魔族がいる。エグシオもその一人なのかもしれない。

エーヴァは文字の読み方を教えてひたすら本を読ませて基礎知識を付けさせていた。


「よし、大体一般常識は叩き込んだな。」

「頭が痛い…」

「ふん。ひ弱なガキだ。とりあえず一休みするか。」

「わかった…」


エグシオはテーブルに伏せるようにして眠ってしまった。エーヴァはそんな姿を見つめていた。するとアスカが書庫に入ってきた。


「あ、こんなところで寝ちゃって…もう…」

「3日くらい寝てなかったからな。」


それを聞いたアスカはまた怒り出した。


「はぁ?! ずっと寝ないで本を読ませてたの? 信じられない!! ちょっとエグ君にきつすぎるんじゃないの?! ってかちゃんと名前で呼んでやれば!?」

「ぴーぴーうるさいガキだな…こいつがやっと寝だしたんだ。私が無理矢理読ませていたわけではない。静かにしてやったらどうだ?」

「う…。」


エーヴァの思わぬ優しい気遣いにアスカは驚いてしまった。

(エヴァちゃんにこんな一面もあったんだ…)


「さて、私も一休みする。貴様はどっかいってろ。」

「はい…」


アスカが部屋を出た後、エーヴァはにやっとしてエグシオの首を噛み血を吸った。


「ふう、生き返るようだ。ふふふ。」



人間界ではレジスタントをしとめ切れなかったフェイランドの将軍ウェイムが会議に呼び出されていた。


「ただいま参りました。」


そこにはウェイムを含め3人の将軍がいた。

将軍ウェイム。将軍ランバード。女将軍ピカム。そしてフェイランド王フェイ。王は白髪だがしっかり髪型をセットしており鎧を着ていた。静かだが威厳をかもし出していた。


「お前ほどの男がまさか失敗して戻ってくるとは…」

「王、申し訳ありません。ですが…」

「あらら? 言い訳かい? あんな簡単な任務に失敗してさらに言い訳かい?」


ウェイムが事情を説明しようとすると将軍の1人が話に割って入ってきた。長髪の髪を後ろで縛っており、軽装でげらげらと笑っていた。すべてを見下しているような笑い方をする。3将軍の一人ランバードだ。


「ランバード、ちゃんと最後まで話し聞かなきゃだめよ。ウェイム続けて。」


ランバードを静かにするように注意したのは3将軍の一人女剣士のビカム。彼女も鎧を着てはいるがスタイルのよさは鎧の上からでもわかるほどだった。髪も赤毛で長く顔も美しい。


「あぁ。入り口付近で見慣れない魔族が邪魔しに入ってきてそれからはあっという間。魔法軍団は壊滅。数秒の話です。みんな腰のところや首で一気に真っ二つだった。あの…黒い風。」

「黒い風…?」

「ん? そういえば地底世界を領土にしようとしたときに失敗したよね? そのときみんな上と下で真っ二つだったよね~?」


黒い風の正体はビカムもわからなかった。ランバードは考える気すらないようだ。


「最近はいろいろ失敗続きだな。地底世界侵略、レジスタンス鎮圧。だがあの兵器の完成は失敗はしなさそうだがな。」


フェイ王は3将軍を見て兵器について語りだした。


「まさか…C109ですか?!」

「おぉ? それは面白いことになりそうだね~! 一気にレジスタンス潰せるじゃん!」

「まだ完成まで少し時間かかるみたいだけど…できればC109使わないで終わりたいわね。あれでの死に方は惨すぎる。」


C109.人間が吸うと体の痺れなどを起こしてしばらく動けなくなってしまうだけだが魔族が吸うと体中から血を噴出しながら死ぬ。人間界ではいまだに魔族と人間との間で小さな戦いが続いている。

そのため人間側は魔法と科学の力を駆使して魔族ではなにも手出しできない兵器をつくることに世界各国が力を入れていた。フェイランド王国も例外ではない。


「えぇ? 魔族なんかみんなむごったらしくしんじゃえばいいんだよ~。」


ランバードは嬉しそうにはしゃいでいた。


「とにかく、C109ができるまで少なくとも3週間はかかる。それまで軍の整備とレジスタンスのアジトの入り口を探しておけ。そこからC109を入れる。」


王は話を終えるとその場を後にした。ウェイムは考える。魔族を殺すのは文句はない。だがこんなやり方で本当にいいのだろうか。この兵器はそう考えさせられるようなモノであったのだ。



エンジェルのアジトの書庫。エーヴァがエグシオに話しかける。


「おい! おきろ!」

「ん…」


エグシオは机で寝ていた。エーヴァに起こされるまでは。


「なんか話し合いをするらしい。いくぞ。」


エグシオとエーヴァは書庫からでて大広間に集まった。そこには何人かの人が椅子に座っていた。ビュアラが一番前の席に座っており話を始めた。


「エグ、適当なところに座ってくれ。エーヴァも。みんなに紹介しよう。エーヴァとエグシオだ。今回ライアを助けてもらった。」

「めっちゃつええぞ! こいつら!」

ライアもみんなにエグシオたちについて話そうとしたがビュアラに制止されていた。


「こちらのメンバーも紹介しよう。ここにいるやつらは軍を持たせている、実力のあるやつらだ。まずはライア・ライム。」

「改めてよろしくぅ!」


「続いてベン・ガム。数少ない魔法使いだ。」

「よろしく。出入り口の封印も全部僕がやっているんだ。一緒にがんばろう。」


ビュアラは次に勤勉そうな男を紹介した。ベンは眼鏡を掛けていて知謀といった感じだ。白衣のようなものを着ていた。前線に出るのではなく後方支援をするタイプなのだろう。魔族の中では貴重な魔法タイプでかなりの実力があるようだ。


「次にラッセル・ガム。ベンの弟だ。こいつも魔法を使えるが主に封印ではなく防御などを担当している。

「よろしく。」


ラッセルは無口でいつも眉間にしわを寄せている。背が高く体も大きいため魔族特有の接近戦タイプらしい。体中がすべて武器というぐらい筋肉質な体系だ。


「最後にエナム・カイトリュー・センジュレルコルフォムド・カイドルワイト。名前が長すぎるので最後まで覚えなくてもいい。」

「リーダー…そりゃないっすよ…まぁよろしくな。エグシオ、エーヴァ。」


エナムは見た目が遊び人のようだがいざというとき部下より前線に赴き一人で仕事を終わらせてしまうことがあるほど勇敢でありたくさんの人から信頼されている。

髪眺めで赤毛だ。ビュアラ・エナム・ライア・ラッセルは鎧など着込んでいなく、戦闘のときもそれほど重装備をしないらしい。それが魔族の戦い方なのだろう。


「あと医療班にネムとラム、モネだ。」






髪の色が緑色の3人の女の子のほうをビュアラが見た。魔族は肌の色が黒め、もしくは褐色色をしているがこの女の子たちは3人とも他の魔族と比べて色が白っぽかった。

3姉妹で年は違うといっても魔族の寿命は長いため見た目は大人だった。


ネム:「よろしくおねがいしまーす!」

ラム:「傷ついてなくても遊びに来てくださーい!」

モネ:「待ってまーす!」


「あいつら3姉妹だがみんな性格が似ててうるさくて休めないかもしれないが…」


ビュアラが3姉妹をみてクスっと笑った。


ラム:「うるさくないし~! ビュアラさんひどいー!」

モネ:「全然にてないし~!」

ネム:「そうだよ~! 個性豊かだし~!」


3人ともおっとりとしたしゃべり方をしていた。


「ふん、耳が痛くなるな…」


さすがのエーヴァも3姉妹のおしゃべりにちょっと苦笑いをしていた。


「…ベンさんとラッセルは兄弟…?」

「そういえば…なぜだ? 魔族は寿命が長い分子供は生涯1人しか産めないはずだ。双子で生まれたのなら例外があるかもしれないがそのような例は聞いたことない。」


エグシオの質問にエーヴァも思い出したように質問を重ねた。


「それは…」

「私たちは本当の兄弟ではない。ラッセルは義理の弟だ。」


ベンが答えようとするとラッセルが先に答えた。義兄弟。エーヴァも納得がいったようだ。


「なるほどな…。」

「まだ頼りになる仲間…いや私の仲間に頼りにならないやつらはいない。このアジトにいるやつらとはなるべく顔を合わせといてくれ。今日は仲間の紹介をしとこうと思ってな。だが作戦も大体練ってある。最終目標だけを言うとフェイランドを落とす。というよりは我ら魔族の街とする。といったほうがいいか。」


ビュアラは最終目標をこの場にいるリーダー格全員に伝えた。エーヴァが興味津々に聞き返した。


「魔族の街?」

「そう。我ら魔族は人間の気性に怯えながら隠れて暮らしているケースが多い。このアジトも私が結界を張っているから見つかっていないだけであり他の村ではそうはいかない。だから地上で暮らし、さらに攻められても守れるような要塞が必要なんだ。」

「その条件にフェイランドは都合がいい。国の中心に城が建っておりその周りを街が覆っている。さらに街の周りには一周水を張ってある。いや川を作ってあるといったほうがいいか。水もあり土地もあり城もある。文句がないんだ。」


ベンが目的の意図を付け足した。この戦いで勝利すれば地上に始めて魔族の安全な居住地が得られるかもしれない。


「つまり、近々大きな戦いがあるってことかな?」

「よっしゃ!!気合いれとこう!!」


エナムとライアはいつでも戦えるといった雰囲気を出していた。そこへエーヴァは冷静にビュアラとベンに問いかける。


「国を落とすほどの戦力があるのか?」

「それなんだよ…問題は。」


ベンが問いかけに答える。


「リーダー、私から話そう。簡単に言うと向こうの戦力を100だとすると我らは20くらいしかない。こちらは接近戦を有利とするが人間側は魔法による遠方砲撃が予想される。しかし兵が少ないためできれば全員無傷で城に近づきたい。もし無傷で近づけたとしてもやはり兵の数が少なすぎる。フェイランドにも強者はいる。それらの対策を考えなくてはならない。」

「今、近隣の魔族のアジトと村に声を掛けている。戦力を50以上、欲を言えば60以上ほしい。」


ビュアラはどうしたものかと考えていた。エーヴァはこの戦いは魔族側にとって今のままでは相当不利になると感じた。


「なるほどな…(私とガキがいれば国ひとつくらいは落とせるがこいつらがに合わせておくか。)」


「地底世界に仲間がたくさんいる…」


エグシオが唐突に発言をした。その言葉にビュアラとベンは目を輝かせた。


「なに?! はっ! そうか! それだ!」

「私たちは地底世界に行ったことがない。ずっと地上にいたから。地底世界にも仲間になってくれそうな人たちはいるのか…?」


ベンの問いかけにエグシオは無表情で答えた。


「行ってみなければわからない。」

「ふむ…他の仲間が集まるまでにはまだ時間がかかりそうだ…エグシオ、地底世界に案内してもらえないか?」

「…。」

「いいじゃないか。仲間は多いほうがいいのだろ?」

「わかった。」


ベンの頼みを最初聞く気がなかったのか返事をしなかったがエーヴァの後押しで地底世界に行くことにしたらしい。ビュアラも先行きが少し明るくなったようだ。


「よし。明日出発してもらう。準備しといてくれ。ライア。お前と他に数名ついていけ。」

「おっけー!地底世界か…よーし! 気合入れていこう!」

「エグシオ、エーヴァ、今ここにいないがアスカ。君たちがこのアジトに来てくれたおかげで戦力が大幅にアップした。作戦が練りやすくなったよ。感謝する。」


知謀ベンはエグシオたちに頭を下げた。そして会議が終わった。

エグシオが図書室に戻ろうとするとライアが近づいてきた。


「エグシオ! さっきリーダーがみんなと顔合わせしておけっていってたろ? 案内するぜ!」

「…。」


エグシオがエーヴァを見た。

「いってきたらいい。大体お前は人並み以上の知識がもうあるはずだ。」


そういってエーヴァは自分の部屋に戻っていった。

エグシオはライアに引っ張られてアジトを案内してもらうことになった。


「ネム、モネ、ラム!」


医療班の部屋、医療室に案内された。


ネム:「あ、ライア! エグシオ君もきてくれたんだ! ネム嬉しい!」


ネムはエグシオに抱きついた。魔族は動きやすい格好を好む。ネムたちも下着に近い格好をしている。普通の男だったらドキッとするかもしれないがエグシオはまず抱きつかれたことに驚いてしまった。

地上に出てから他の人に触れる機会があまりなかったからかもしれない。


モネ:「あ、エグちゃん! ってこらラム! くっつきすぎ!」


ネムはポニーテールだったがモネはショートヘアだ。ちなみにラムはロングでさらさらしてそうな髪だ。


「お前らのところに来ないとあとでネチネチ言われそうだからな。」

ラム:「ライア~そんなことないし~!」

モネ:「こっちも忙しいんだから!ワレキューレの部隊が毎日怪我してくるんだから!」


「ワレキューレ?」

「あぁ、ワレキューレってのはリーダーが組織した女だけの軍団だ。戦いで人手不足ってのもあったがリーダーに憧れて戦いたいというやつもでてきたからリーダーが指導しているんだ。こいつらも一人ひとりがめっちゃ強くてな!」

「…。」

ネム:「ライア、このあとはどこか周る予定なの~?」

「ん~ワレキューレんとこと魔法研究室とかかな?あ、酒場も行ってみる。」


5人で話をしていると医療室にエナムが入ってきた。


エナム:「おや、ライアとエグ君。怪我でもしたのかな?それともこの子達にちょっかい出しに来たのかな?」


エナムはニヤニヤ笑ってネムたちを見た。ライアはすぐに弁解した。


「違いますよ!さっきリーダーがみんなに顔合わせしとけって言ってたから案内しようと思って。アスカはエグが書庫にこもっているとき案内したしな。」

「あぁそっか。」

「エナムさんはどうしてここにいるんっすか?」

「俺はこの子達にちょっかい出しに来たの。」


エナムは横にいたモネの肩に手を回して引き寄せた。エネムのそのさりげない手の運び方も驚いたがネムはそれに動じず普通に対応していた。


ネム:「エナムさん、セクハラで訴えますよ~?」

「違うでしょネムちゃん。これは愛情表現でしょ。」

ネム:「とかいって…あ、ビュアラさん!」


エナムはびくっとなってネムから離れた.


「え、リーダー?!」

ネム:「うそだよ~ん。」


ネムはニヤニヤしながらエナムを見た。


「こいつ…。」

「さて~他も見に行きますか!エグ!」

ネム・モネ・ラム:「またね~!いつでも遊びに来て~!」


医療室を出た。歩きながらライアが話を始めた。


「あいつらも義理の3姉妹だ。ってわかってるか。」

「…。」

「親を殺された人たちはこうやって義理の兄弟姉妹の契りを結ぶことが多いんだよなぁ。仲間を求めるんだろうな。」

「仲間…。」

「お、ここだ。魔法研究室。ま、俺はここ無縁だから適当に見てくれ。」


部屋に入るとたくさんの魔方陣が壁に書かれていた。


「魔方陣…?」

「あら、魔法陣のことわかるの?」


エグシオが部屋に入ると眼鏡を掛けた女の人が話しかけてきた。


ライア:「よう、ハーネス。今エグを案内してたんだ。適当に話済ませてくれ。」


ハーネス:「こら! 適当ってなんだ! そうやって自分が興味ないことはそういう態度なんだから!」


ハーネスはめがねをかけており少し髪が長く後ろで縛っていた。眼鏡がとても似合う女の子という感じでライアと同い年くらいだろう。白衣の下はTシャツ短パンとラフな格好をしている。

奥からベンが歩み寄ってきた。


「おや、ライアにエグシオ。会いにきてくれたのかい?ハーネス、そんなところで話をしないで奥に行こう。」

「はーい! ベンさん。エグシオいこう! あ、私ハーネス! よろしくね!」

「先に自己紹介しろよな。」

「うるさいわね! ライアはさっさとどっかいけば?」

「あぁ?! これからエグをワレキューレんとこに案内するんだよ!」

「リーダーの軍隊? なんで?」

「そりゃあ…リーダーの軍隊だからだよ。」

「あんた…ワレキューレの格好が派手だから見たいだけしょ?ライアえろーい。」

「違うわい!ただ案内ししてるだけだろーがい!」

「とかいって顔赤いしぃ。図星かな~?」


ライアとハーネスのやり取りが永遠に続きそうだったところをベンが呼び止めた。


「ハーネス!!」

「はい! すみません! すぐいきまーす。」

「怒られてやんの。」

「むかぁ!」


せっかくベンが二人の会話を終わらせたかと思いきや再び二人はまた口げんかを始めた。相当仲がいいらしい。エグシオは二人をおいてベンのいるところに行った。


「まったく…あの二人は幼馴染でね。いつもあんな感じなんだ。」

「…。」


エグシオは周りを見渡した。魔方陣は壁だけでなく天井にも描かれていた。


「この魔方陣のおかげでこのアジトは見つからないんだ。すごいだろ?」


エグシオは無言で魔方陣に見入っていた。ライアとハーネスがいがみ合いながらベンとエグシオの元にきた。ライアがエグシオに話しかける。


「お、なんだかもう話し終わった?まったくうるさいやつに絡まれたから…」

「はぁ?! ネチネチしつこくてやんなっちゃう!」

「あああぁ?! だれがネチネチしてんだ!」


ベンが再び間に入る。


「はいはい、もう君たちが仲良いのわかったから。」

「ちょ、ベンさん! なにいってるんですか!」

「そうっす! 仲がいいわけないじゃないですか! こんな奴と!」

「こんな奴ってなんだー!!」


騒いでるところに大柄の大柄の男が近づいてきた。ラッセルだ。


「うるさいぞ。」

「げ、ラッセルさん。」

「げってなんだよ、ハーネス。」

「なんだ、文句があるのか、ハーネス。」

「さっきラッセルさんの悪口言ってましたぜ、ハーネス。」

「いってなーーい! いってないです! ライア!!」


ハーネスはラッセルが苦手らしい。ハーネスが文句を言おうとしたらライアはもうエグシオと研究室の入り口にいた。


「じゃあ次行こうか!!」

「ライアの馬鹿ー!」


ハーネスの罵倒を聞きながらライアはハーネスを小ばかにした顔で見て出て行った。


「ふう、さて次はリーダーのところか。ん、あれアスカじゃ…アスカ!!」


少し先にアスカが歩いていた。


「ライア、あ!エグ!」

「…。」

「体調大丈夫?エヴァちゃんにきついことされてない?」

「…。」

「体調大丈夫?」

「大丈夫。」


エグシオは学習していた。アスカはしつこいくらい答えてくれるまで同じ事を聞く。


「アスカも一緒に行こう!エグを案内してるんだ。」

「うん、いいよ。あれ?エヴァちゃんは?」

「…。」

「エヴァちゃんは?」

「部屋に戻った。」


アスカはにっこり笑ってエグシオの頭をなでた。


「何回も聞かなくてもすぐ答えてくれるようになったね!お姉ちゃんは嬉しいぞ!」


(いつからお姉ちゃんなんだろう…年だけ見たらおねえちゃんか。父さんも頭をこうやってなでてくれたな…お母さんも。なぜか落ち着…。)


アスカとライアはエグシオを見て心配そうな顔をした。


「エグ?」

「エグ?どうした?どこか痛いか?」

「…なんでそんなことを聞くの?」

「だって…泣いてるじゃない…。」


エグシオは泣いていた。自分でも気づかなかった。知らないうちに泣いていた。悲しいという感じでもない。どこも痛くない。


「なんで…涙が出るんだろう…」


エグシオは理解できなかった。でも涙が出る。するとアスカがエグシオを抱きしめた。


「大丈夫だよ。誰もいなくならないよ。今までよく一人で辛い思いをしたのに耐えてきたね。」


アスカはエグシオが相当辛い思いをしたのを聞いてた。13歳の少年が目の前で両親を殺されたのだ。感情がなくならなければ人格が壊れてもおかしくない。

エグシオは何かの糸が切れたようにアスカの胸の中で泣いた。



「落ち着いた?」


アスカがエグシオの顔を覗き込んできた。エグシオの顔は前より活き活きしているように見えた。


「大丈夫…ごめん。」


「びっくりさせんなよ~? 男は女の前で泣くもんじゃないぜ?」

「そんなことないです! 泣きたいときに泣きなさい! ライアも泣きたくなったら胸貸すわよ?」

「んな、泣かないし!! ほら! 早く行くぞ!」


ライアは顔を赤らめた。

しばらく歩いていくと金属音が聞こえてきた。部屋名前につくと緑色の下着のような鎧を付けた女戦士たちが訓練をしていた。


「この人たちがワレキューレだ。めっちゃつええんだ。」

「下着みたいなカッコウなのに戦えるの? 危ないんじゃ…。」

「いや…」


ライアがアスカの問いに答えようとしたらビュアラが現れた。


「お、エグたちか。どうした?」


「ビュアラさん、ワレキューレの女戦士の人たちってあの格好で戦ってるんですか?」

「ふ、下着…いやビキニみたいな格好だからか? あれは特殊な鎧でな。魔法研究所で開発した鎧だ。魔族はもともと接近戦に長けている。だから思い鎧を着けていたら動き悪くなる。そこで魔法防御の膜で体を守れるようにした装備があれだ。ほとんどの攻撃は遮断される。ただし衝撃は受けるがな。」

「すごいだろ? ラッセルさんが発明したんだ!」


ライアが誇らしげな顔をしている。アスカはあの無口なラッセルが女性の鎧を作っているイメージが全然わかなかった。


「あの怖そうな人が…」

「あとハーネスもな。女の体だからラッセルさんが調べるに限度あったしな。」

「すごい…人間達の魔法レベル以上かもしれない!」

「アスカ、一つ聞いておきたいことがある。」

「ビュアラさん、なんでしょうか?」

「われわれ魔族は人間と戦ってきた。それは人間が全ての魔族を悪とし、理由なく殺戮を繰り返してきたからだ。そのなかでアスカは魔族と共存できる人間がいることを教えてくれた。私はお前を仲間だと思っている。」

「あ、うん! ありがとう!」

「お前は仲間だが我らはこれから人間と戦う。アスカは人間と魔族側どちらにつく?」

「え?!」

「はっきりいうとアスカの防御魔法のレベルはわれらの中で最高レベルだ。ラッセルとベンと肩を並べている。我らにとっては頼りになる仲間だ。しかし敵になると戦いに大きく影響を及ぼしかねない。」


ビュアラとアスカの話にライアが割って入ってきた。


「ちょ、アスカは仲間なんだ! 俺らにつくに決まってるじゃないっすか!」

「そうなってくれると嬉しい。どうするアスカ。」

「そんな…私…」

「もし…敵になるのなら…」

「アスカが抜けるなら僕も抜ける。」


エグシオが唐突に言った。ビュアラ、ライア、アスカは驚きを隠せないでいた。


「なに!?」

「エグ!! なに言ってんだ!」

「エグ…」

「エグシオ、お前が抜けたら我らは不利になる! アスカが人間側についたらお前も人間側につくのか?!」


ビュアラの問いにエグシオは即答した。


「それはない。」

「…アスカ…お前次第だ。敵になるならこの場でけりをつける。」

「リーダー!?なにいってるんすか!」

「魔族が勝つためには多少の犠牲もやむ終えない。」

「リーダー…」


ライアはビュアラの本気の目に困惑した。もともとこのレジスタンスエンジェルはビュアラの強さにほれた輩が集まった集団だ。だからライアもビュアラの強さを知っていた。ビュアラは遠まわしに魔族の敵になるならばアスカを殺すこともいとわないと言っているのだ。


「なにやら面白い話をしてるではないか。」


部屋で戻ったはずのエーヴァが部屋に入ってきた。ビュアラと目が合った。


「エーヴァ…。」


「やれやれ、アスカ…貴様を連れてきたせいで不穏な空気だぞ?はっきりしろ。」

「私は…ここにいます。もう上では指名手配になってるかもしれないし…人間界に未練もないから。」

「ふぅ…そうか。アスカ…お前は仲間だ。共に頑張ろう。」


アスカの返答に満面の笑みでビュアラは答えた。ライアもほっとしたようだ。


「ちょ、ちょっとびびった…」

「…」

「話はまとまったな。ガキ、ちょっとこい。」


エーヴァはエグシオだけをつれて部屋を出て行った。ビュアラはエグシオを見てアスカに言った。


「エグシオはアスカのこととなると無表情でもお前を護ろうとするな。」

「そうね…少しずつ心を開いてくれてるのかも…」

「あ、そうだ。アスカ、魔法研究室いって研究手伝ってやってくれ。人手は多いほうがいい。」




エーヴァは自分の部屋にエグシオをつれてきた。


「さて、お前に話しておかなければならないことがある。」

「…。」

「貴様は13歳だ。だから私の魔力を受ける受け皿も成人と比べて小さい。実際は他の成人よりはお前の受け皿は大きいんだがそれでもやはり貴様が成人したときのほうが魔力も十分に供給ができて私も発散ができる。」

「発散…?」

「悪魔・魔女は契約者の近くにいなければ魔力が著しく低下する。さらに契約者も魔法を使えなくなる。だからお前が近くにいなければいかん。」

「エーヴァの近くにいれば魔法も使えるしエーヴァも力を使える…」

「そうだ。お前が成長すればさらに魔法も使える。」

「成長っていっても…」

「最初に宿に泊まった時に使った魔法覚えているか?」

「あ!」

「そうだ。あの魔法を使えばお前を成人にできる。実際私自身この姿で出せる力は50%が最高だろう。本来の姿に戻れたなら…」


エグシオの体がまだ小さいためエーヴァの莫大な魔力を扱えないでいた。だが、強制的に体を一時的に成長させて戦えば100%の力を引き出せる。



「すぐにあの魔法を…」

「馬鹿が…さっきした話を忘れたのか?私はお前のそばにいなければ魔法が使えなくなるんだ。つまりさっきのようにばらばらに行動するなどはできない。戦闘のときのみ使える戦術だ。覚えておけ。」

「まだ強く…」

「まずはおまえ自身が強くなれ。」

「!!」


エグシオは体力もない。力もない。まして勇気や戦闘の経験もない。エーヴァとめぐり合ったことでいきなり大きな力を手に入れた。だがそれだけなのである。エグシオ自体一人だと何もできないただの魔族の子供だった。

エーヴァは話が終わると自分のベットに横になり寝始めた。

エグシオは考え込んでいた。そして思いついたようにエーヴァの部屋を出て行った。向かった先はワレキューレのところだ。

ワレキューレは20名ほどいて槍を持って稽古をしていた。そこにビュアラもいた。


「ん、エグシオ。どうした?」

「僕にも稽古を付けてほしい。」

「? お前はエーヴァがいれば十分強いじゃないか。」


ビュアラは理由はわからないが稽古をつけてエグシオの強さを見てみたいと思った。


「…僕も強くならなきゃいけない。」

「…そうか! それはいい心がけじゃないか! よし! 明日地底に出発するまで稽古を付けてやろう。なにか武術はやってたのか?」

「…父さんと少し組み手をしたことがあるくらいで全然なにも…。」

「そうか…よし、組み手をやってみようか。」

「はい。」


それから寝るまでビュアラはエグシオに稽古を付けた。次の日。


「うわ! エグシオ! なんか顔おかしくないか?」


エグシオの顔は少し腫れていたのをみてライアはびっくりしていた。

ビュアラに稽古を付けてもらってぼこぼこにされたのだった。エーヴァは何も言わず笑っている。

今回地底世界に行くのはライア、エグシオ、エーヴァ、そしてなぜかハーネスがついてきた。


「なんでお前がいるんだよ…」

「なんでって…地底世界よ!? もしかしたら何か面白い発見があるかもしれないじゃない! こんな面白い冒険についていかないわけないでしょ!」

「ったく、自分のみは自分で守れよな!」

「ふーん! 私にはエグシオがついてるもーん!」


またライアとハーネスの痴話げんかが始まった。エーヴァは地底世界から出てきたときのことをエグシオに聞いた。


「ガキ、お前地底世界から出るとき何も言わず出てきたよな。皆心配してるんじゃないのか?」

「…かもしれない。」

「ふん、まぁ私には関係ないがな。」


地底世界の入り口、ウォームについた。入り口付近にはキャンプした後がたくさんあった。普段エグシオの父ゼグトたちのハンティンググループがよくウォームの周りにテントを張っていた。だが今目の前の数十のテントの数。明らかに人数が多い。そしてテントにはフェイランド王国のマークが描いてあった。


「なんだこれ…まさか地底世界の魔族のみんな出てきたのか?」

「いや、違うよ…逆だわ。」

「逆?」

「入っていったのよ。」

「誰が?」


ハーネスは周りを見回した。足跡の列が綺麗に残っていた。まるで隊列を組んだように。そしてテントの紋章。


「魔族は…自由に戦う。人間は団結して戦う。」

「は?ん、え?あ!!」


ライアも気づいたようだ。エーヴァはため息をついた。


「人間がまた侵攻したようだな。フェイランドの兵士か…」

「…」


エグシオは何も言わずウォールを急いで降りていった。エーヴァもエグシオについていく。


「さてー! 楽しくなってきた!いくぞ!ハーネス!」

「あ、ちょっとまってよ!」

「おせーよ! のろま!」

「なんですって!!」


そしてハーネスはライアに追いついた。いや、ライアが待っていた。


「女の子を置いていくなんてばか!!」

「はぁ? お前なんか女ってわかるやつがこの世の中いるのかよ?」

「むっかぁぁぁぁ!」


ハーネスがライアに殴りかかろうとしたとき、


ズズズズ…


足元の岩が欠けてハーネスがバランスを崩す。


「え、きゃぁぁぁぁ!」


ハーネスが下に落ちようとしたとき、ハーネスの手を握り引っ張られた。そしてライアの胸元まで引き寄せてくる。


「ったく、危なっかしい。馬鹿!」

「む、…ふん!」


ハーネスはライアから離れていこうとしたとき、ライアがハーネスの肩の上に手を置いた。


「俺から離れるな。バカ。」

「え…」


ライアが真面目な顔して言ったのでハーネスは顔を赤くした。


「うん…」


そして、エグシオ、エーヴァ、ライア、ハーネスは地底世界へ。

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