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まおー  作者: ケンシロウ
2/7

壱 始まり編

地底世界は太陽の光が届かず、草木も生えない。水のみが地上の割れ目から地底世界に流れ込み、その周りに魚などの生き物が生息している。魔族は魚を捕って生活するもの、危険ながらも地上に出て狩りをするもの。

集落ごとにそれぞれの生活を送っていた。

とある荒野にある村。村人は十数名。


「エグシオ! エグ!」


一人の少年は寝床の中でごろごろ起きようとしない。


「おきろこらーーー!」


布団が宙を舞い少年は声の大きさにびっくりして起きた。


「何…?」


少年エグシオは不機嫌そうに母親のシオを睨んだ。魔族は寿命が長い。戦闘ができる年月が長いため用紙が若い時期が長く寿命200年が平均に対し、120歳くらいまでは若々しい姿のままで生涯を送る。

シオも例外ではなく年は40代だが見た目は20代後半だろう。


「ん~? なんだ~? その目つきは~!」

シオはエグシオの角をつかんで頭をぐらぐらと揺らした。


「うぎゃあぁ! 目が~!」

「今日はお父さん帰ってくるんだから早く起きなさい」

「あ、そっか。お父さんが…」


 僕のお父さんはハンターをしている。危険な天上界に行ってキャンプをはり狩りをした動物を村へ届けてくれる。お父さんのパーティは7人で毎週一人ずつ帰ってくるからお父さんは…5人目だから5週間くらい会ってない。


「ただいま~。」


「あら、早かったわねゼグト。お帰りなさい。」

シオはゼグトに抱きついた。


「お帰りなさいお父さん。」


エグシオも抱きついた。


「おぉエグ。元気そうだな。ちゃんと体は鍛えてるか? お前ももうあと一ヶ月で13歳なんだからな。15歳になったら狩りに出かけるんだぞ?」

「え? うん、まぁたまに…」

「ン…よし、サボってないかどうか見てやろう。外に行くぞ。」

「え~! やだ…ぅ!」


ゼグトはエグシオの襟の後ろを引っ張って外に連れ出した。


「おか~さ~ん!」

「がんばってね~ん!」

エグシオは母に助けを求めたが母親はにっこり笑ってエグシオとゼグトを送り出した。


「いいかエグ。天上界は人間たちでいっぱいだ。しかも俺たち魔族を見つけると躊躇なく殺そうとしてくる。だから強くなって自分のみを守る…ってうお! いつの間にかいなくなってる! エグ!」


全力疾走。急いで村長の家に逃げ込んだ。


「ぬ、エグ。どうしたんだ?」


「はあはあ、お父さんが帰ってきていきなり稽古つけるって…」

「ゼグトはこの村で頼りになるやつじゃ。稽古をつけてもらえば強くなれるぞ?よいじゃないか。」

「僕、強くなんかならなくていいよ。ずっと地底世界にいるもん。」

「ほう、エグは太陽を見たいとは思わないかの?」

「太陽?」


エグシオは太陽という言葉を初めてきいた。


「おぉそうか。エグは太陽とは何かってことも知らぬのか。海も森も山も。」

「なになに?食べ物?おいしいの?」

「ほっほっほ。とってもすばらしいものじゃ。とても大きく、寛大じゃ。」

「天上界か…すごいところなんだろうね。でも僕は静かに暮らしていけたらいいや。人間たちも地底世界には攻めてこないんでしょ?」

「そうとも限らないぞ。人間は貪欲じゃ。…よい奴らもおった。」

「じいちゃんは昔の大きい戦争の数少ない生き残りなんだっけ?」


「ふむ。わしらは人間の数倍長生きする。人間はよくて80年が限度じゃ。人間は何があってどうして戦争になったかすらもう記憶に残ってるものもおらぬだろう。ただ魔族は悪だと思い込み殺戮を繰り返すだけ。とても悲しいことじゃ…」


「人間って怖いんだね…」


エグシオは何かを見つめてふらふらと歩き出した。


「どうしたんじゃ?」

「あの机の上にある黒い本は何?」

「それは闇との契約の書。おぬしのような子供には…ってこら! 触ってはいかん!」


机の上に黒い本が置かれていた。見た目は何の変哲のない本だ。


「え? でもほら、なんともないよ?」

「なに?!」


エグシオは本を開こう手に取った。


「なんて書いているのかな。僕本読むの好きだからこういう気になるんだ。」

「いかん!! 普通の人間では開くこともできぬ! もし開いたら…」


エグシオは闇との契約の書を開いた。


(ばかな! あの本は魔力を持つものじゃない限り命を吸い取る呪いの書! 触れただけでも奇跡に近いのに…そもそもあんなところにおいた覚えなど…)


「あれ?なんも書いてないよ?」

「なにぃ!? わしも開いたことがないから中に何が書いているかはわからないんじゃ! それにわしは机の上にそんな危険なものをおいた覚えはない!その本は戦争のときに…」


{…なんだ。まだ餓鬼じゃないか。}


「え? じいちゃんなんか言った?」

「む、何もいってないぞい。しかしこれは偽者じゃっったのか。あの戦争のとき危ないと思い持ってきたのが…わしが触っても大丈夫だったんだから偽者と気づくべきだったかのぉ。」

「この本読めないなら置いていくね。日記帳みたいなかんじかなぁ?」

「おそらくそうじゃろう。長い間無駄に大事にしてしまったのぉ。」


エグシオは村長の家を出た。しかし家に帰るとゼグトと稽古する羽目になることは明らかだった。


「あ、そういえばお父さんは天上界から来たんだよな。入り口って確かあの空が明るい場所だったよな…近くまで行ってみようかな。」


エグシオは地底界で唯一明るく暖かい場所に向かった。



 その明るく暖かい場所は魔族たちの間でウォームと呼ばれていた。ウォームの近くまで来たとき、風景が変わったのがすぐわかった。地面が緑色なのである。それが何かを知らないエグシオはとても新鮮だった。そう、エグシオにとって植物に触れたのは13年生きてきて初めてだったのだ。


「すごい! なんだろうこれ! ちょっとひんやりして気持ちいい。うわ、あっちにはピンク色の! なんてきれいなんだろう。」


 花。天上世界ではありふれているものでも地底世界の住人は知らない人のほうが多い。それだけ地底世界は荒れ果てているのだ。

後ろに天まで続く山がある。そこに螺旋階段みたいに岩をぐるぐる回りながらあの明るい天に向かって続いている。


エグシオ:「太陽…山、海…空。ここでこれだけ綺麗なんだから天上世界はもっと綺麗なんだろうな…」


 天を見ていると階段から誰かが降りてくるのが見えた。それもたくさんの人が。エグシオにとって初めてだった。人間と出会うのは。



「なに!? 人間が攻めてきたじゃと?!」

 





村民A:「ああ! それも300人位!鎧を着ていた! すぐにほかの村に援軍を頼まないと!」

村長:「わかった! すぐに頼む!」

村民B:「村長! この村の人数じゃまったく相手にならない! ただ嬲り殺されるだけだ!」

村民C:「逃げよう! 俺はまだ死にたくない!」

村民D:「なんで人間が地底界きたんだ!」

村民E:「村長! 女子供をとりあえず避難させよう!」

村長:「落ち着かんか!!」


村民は焦っていたが村長の一喝で多少落ち着いた。


村長:「よく考えてみるがよい。隣の村が援軍が来るとしても2時間はかかる。逃げるにしてもあれだけの人数だったら見つかってしまうのは確実じゃ。援軍を待たないでみなをつれて隣村まで非難するのじゃ。そこで人数を揃えて迎え撃て。」

村民D:「だけど人間たちが逃がしてくれるわけないだろう!?村長も逃げたって捕まるって今言ったばかりじゃないか!」

村長:「わしが時間を稼ぐ。その間にゆけ。」

村民B:「しかし…」

村長:「わしは戦争の唯一の経験者じゃ。戦い方も知っておる。それにわしは魔法も多少使えるからのぉ。できれば話し合いに持ち込みたいが…やつらの目的もわからぬしのぉ。」


村民たちは避難し始めた。隣の村まで約1時間。村長は昔を思い出しながら…戦争に参加したときの装備を整え人間の軍隊の元に向かった。



「おぬしら人間が地底世界のわしらになんのようかの?」


村長の問いかけに軍隊の先頭にいる隊長らしき男がその問いに答えた。


「私の名はカムイ。この隊の指揮をとるものだ。フェイ王の命令によりこの地底世界をわが国の領土とすることが王国会議で決まった。よって今からこの地底世界は我らフェイランド王国の領土とする。」

「急じゃのう? われら魔族がそんな話聞き入れると思うてか?」

「そのときは殺すまでだ。わが国の王は地底世界の住人はすぐには殺さず奴隷として使えるものは使えとのことだ。殺されないだけ王に感謝することだ。」

「そんなことはさせぬ! 炎よ!」


村長が呪文を唱えると大きな火の玉が人間の兵士たちを襲った。


「うわああああああああ」


多くの兵士たちが火の玉に巻き込まれたようだ。隊列を乱している。


「はぁはぁ…年はとりたくないのぉ。」

「抵抗するならば…」


ガキーン!


一人の男がカムイに切りかかった。


「ゼグト!」


村長はその魔族の男に向かって叫んだ。


「村長!水臭いじゃないですか! 俺も村長に付き合いますよ!」


ゼグトと村長は接近戦と遠距離魔法で兵士たちと戦った。


「ぬぅ、さすが魔族。強い。このままでは負けてしまうが…」


カムイはゼグトに刃を向けず一人の少年に向けた。


「エグシオ!?」


なんとカムイが刃を向けている少年はエグシオであったのだ。


「通りかかる際に近くにいたものでね。魔族の強さは未知数だからすぐに殺さず人質にしようと考えたわけだ。ふははははは。」


カムイは勝ち誇ったようににやりと笑っていた。

「お、お父さん…」

「なんてことじゃ…」

「貴様ら動くなよ。」


カムイは剣をゼグトの腹に突き刺した。


「うがあ」

「おとおさあああああん」


ゼグトはその場にひざまずいた。それからカムイは村長のほうへ向かい杖を持っている腕を切り落とした。


「ぬおおおおお」

「うわあああああ」


エグシオはあまりのショックに大声を上げた。


「ふん。このガキはまだ使えるな。そのゼグトとか言う男は両手両足切断してぎりぎりまで生かして殺せ。じじいは長く生きすぎだろう。」


カムイがそういうと村長を一刀両断した。村長は動かなくなった。


「村長おおおおおお!!」

「餓鬼がうるさいぞ!!」


泣き叫ぶエグシオをカムイは殴りつけた。エグシオは地面に頭を叩きつけられ動けなくなった。


「うぅぅ…」

「やっとおとなしくなったか。よしその男も殺してさっさと任務を終わらせるぞ。」

「やめて!!」


カムイがゼグトに止めをさそうとしたときシオがゼグトをかばいに出てきた。


「やめてください! 私たちが何をしたというのですか!」

「ふん! 魔族というだけで貴様らは罪なんだよ。だからこんな荒れ果てた地底世界に追いやられたんだろう? なかなか美しい魔族の女じゃないか。くっくっく。」

「やめてください!!」


「に、逃げろシオ…」

ゼグトはシオの肩につかみかかり逃げるように促すがシオはゼグトの前から動かない。肩がカタカタ震えていた。


「ふはははは!逃げる?どこへだ?いいだろう。逃げるがいい。だがこのガキがばらばらになってもいいのならな。」


「エグシオ…」


シオがつぶやき、ゼグトは激昂した。


「下衆があああああああ」


ゼグトが切りかかろうとした瞬間にゼグトの頭が宙に飛んだ。


「いやあああああああああああ! ゼグトおおおお!」

「おとおおおさあああん!!!」


シオとエグシオは目の前の光景に絶望の悲鳴を上げた。


「おい、お前ら。この女好きにしていいぞ。ちゃんと殺せよ。」

「はっ! ありがとうございます。」

「いやああ!!!」


シオは兵士の群の中に消えていった。





昔は共存していた。いい人間もいたんじゃよ。


「いないじゃないか…」


[なんだ、今頃気づいたのか?]


人間は魔族を見ただけで殺そうと思うのじゃ…悲しいことじゃ。


「悲しい? 違う、憎い。」


[人間が憎いのか]


「うん、殺したい。」


[貴様みたいな餓鬼が?無理に決まっているだろう?]


「じゃあどうすればいいの?」


[…知りたいなら相応の対価が必要だ}


「対価?」


{貴様の命をかける勇気があるか}


「命?僕の命?それでこいつらを殺せるの?」


{気に入らないやつらをすべて殺せるかもしれないな}


「わかった。」



「よし、隣の村まですぐだ。今餓鬼がいる限り魔族は手出ししづらいだろう。早めに占領していろいろ楽しもうじゃないか。」

「おおお!!」


カムイの鼓舞に兵士たちの士気が上がった。







「闇よ…」

「なに?」


 エグシオの体が黒っぽくなっているのに気づいた。さっきまで魔族特有の褐色色だったのに今は黒っぽい影の中にいるみたいになっていた。そして瞳は真っ赤になっていた。


「な、なんだこれは?! ちっ! 人質だったがやむを得まい!死ね!」

 

カムイはエグシオに切りかかった。エグシオを包む何かにはじき返された。エグシオは兵士たちの方に手を向けた。


「すべてを無へ。闇の刃」


エグシオの手を向けたほうの兵士たちは腰から上が消し飛んだ。


「な、なんだこれは!!! どうなっている! ただの餓鬼が!? ぬ!?」


カムイはエグシオの横に立っている14,5歳くらいの女の子に気づいた。黒装束、だが短めのスカートをはいており胸元が少し開いて髪も黒。そしてエグシオと同じ目。赤い目をしていた。


「なんだあの女は…なぜ笑っている。しねえええ!」


 その女の子に剣が届く前にカムイは消し飛んでいた。兵士たちがウォームの階段を上り逃げ始めていた。しかしエグシオと女の子は一人も生かさず頭を消し飛ばして殺した。


 後に残ったのは頭と上半身がない人間の兵士と…殺された両親、村長の亡骸だけだった。いつのまにかエグシオの赤い瞳と黒い影は消えて元に戻っていた。しかしエグシオは自分の変化に気づかずにいた。


「泣かないのか?」

「涙が出ない。」

「そうか。貴様は私を解放できた魔族だ。餓鬼のくせにやるじゃないか。」

「このすごい力は君の力?」

「ふん、私の契約者だからな。今回は力を貸してやっただけだがな。」

「この力があったら人間を皆殺しにできるね。」

「お、餓鬼が言うじゃないか。」

「…名前は?」

「やっと名前を聞く気になったか。普通最初に名前を聞くだろ。常識がない餓鬼が」

「ごめん。」

「まぁいい。私の名はエーヴァ・バイオラセント。あの闇の書に閉じ込められていた最上級の悪魔だ。」







隣の村。


村民「エクシオが戻ってきたらしいぞ!」

村民「でも様子がおかしい…表情がないんだ。」

村民:「エグシオは今医者のところにいるらしいぞ」




隣村の医者がエグシオの体のを診察していた。

「どこも異常がないな。いったいなにがあった? 人間の軍隊はどうなった?」

「村長と父と母が死にました。後のみんなはこの村に避難しているはずです。」

「な、なに!? 軍隊はどうなった?! それにあの女の子は…」

「・・・」

「はっ…すまない。いろいろありすぎたんだな。少し休みなさい。」


医者は気を使って部屋を出て行った。

すると何もない空間からエーヴァがいきなり現れた。だがエグシオはもともと近くにいる気配を知っていたため驚くことはなかった。


「どうやらいろいろなショックで感情が消し飛んだらしいな。」

「そうなんだ。」

「さて、私たちは契約した。それの意味がわかるか?」

「わからない。」

「だろうな。悪魔と契約はリスクを背負って力を得ることだ。それも悪魔の力が強ければ強いほどそのリスクも高くなる。」

「リスクってなに?」

「あ?ったくこれだから餓鬼は。リスクってのは…代償。何かを得るために何かを捨てるってことかな」

「なにかを…捨てるものはもうなにもない。僕にはなにも。」

「ふん、ならば貴様の体で代償を払ってもらうまでだ。」

「どうするの?」

「毎日、貴様の生命力をもらう。」

「わかった。」

「ぬ、いいのか?生命力。命だぞ?」

「僕の命など人間を滅ぼすまでもてばいい。」

「ふふ、ふはははは!貴様本当に面白いやつだな!ガキのくせに肝が据わっている!まるであいつみたいだ!」

「あいつ?」

「ルーシェント・セイジュ。かつて魔王と呼ばれた女だ。」

「魔王…魔王?女?」


反応が鈍いエグシオでも昔の魔王の内容は気になるようだったのか少し反応を示した。


「なんだ、魔王は男だと思っていたのか?そこらへんのRPGとは違うぞ。」

「ってことは魔王と契約してたの?」

「あぁ。あいつは筋がよかった。だが人間もまた強かった。おかげで封印されちまったしな。ま、この世界で現時点で私に勝てる人間も魔王もいないだろうさ。」

「魔王…」

「それよりも…代償をいただこうか。」

「なにをすれば?」


エーヴァはにやりと笑った。


「血をもらうか、接吻か、性行でもよい。だが貴様はガキだから今は血で我慢するか」


エグシオはエーヴァに首をかまれた。血を吸われていく。だがもちろん死ぬまで吸うつもりはない。契約者なのだから。代償をエーヴァに支払った。



「ふむ、なかなかうまいな。とりあえず満足はした。これからどうするつもりだ?」

「…天上界にいく。」

「ほう、で?」

「それからは…天上界に行ってから考える。」

「無計画か。ガキはガキか。」


エグシオは医者の家の寝床からでた。横には悪魔、いや魔女が付き添って歩いて家を出た。


「おい! 待つんだエグ! どこにいくつもりだ!」


医者がエグシオがいないことに気づいて後を追ってきた。


「あんなことがあったばかりなのに…そこの君! なんでとめてくれないんだ! 安静にしてないと…」

「うるさいな…殺すか?」

「だめ。僕たち、天上界に行ってきます。」


エーヴァが医者に手をかけようとしているのをエグシオは止める。


「なに!? あんな危ないところに行ってはいかん! あの人間の兵士みたいなやつらがうようよいるんだぞ!」

「あの兵士倒したのは私たちだ。」

「そんなバカな! 13歳の子供と君みたいな女の子にそんなことが…」

「うぜぇ…死ね。」


 エーヴァは医者に手を向けた。しかしエグシオによって手の方向がそらされた。医者の右側をそれが通り過ぎ、後ろで大爆発が起こった。

医者は何が起こったか最初理解できなかったが人間の兵士を倒したという言葉と照らし合わせたのか、その爆発が彼女によって起こされたものだと確信した。そして足ががくがく震えだした。


「邪魔をするなガキが。」

「その人はいい人…」


 エグシオの死んだような目で見つめられたエーヴァは仕方ないという感じで手を下ろした。医者はエグシオたちがウォームに向かっていくのをただ見ていた。医者はエグシオに恐怖となぜか違うものを感じた。

もしかしたらあの子なら今の魔族に対する人間の卑劣な行為をとめることができるのかもしれないと期待したのかもしれない。


ウォームの山を登っていく。エーヴァは辛くはなさそうだがエグシオは息を切らしていた。


「だらしないぞ。まだ30分しか上ってないじゃないか。」


エ「はぁはぁ…」


エーヴァはエグシオの10メートルほど前にいるがおいていこうとはしなかった。しばらくすると足元が緑色になってきた。そしてだんだんと明るくなってきた。


「エーヴァ…この緑色って…」

「なんだ、草もしらんのか?あぁ、地底世界には太陽の光がなから植物も育たないのか。そうだったな。」

「太陽?草?太陽!?おじいちゃんが言ってた…」

「まず、ガキは地上に出て地上の知識を身につけなければならんな。」


天上世界。上を見れば青く白い綿見たいのが浮かんでいる。周りには茶色い太いモノがいっぱい立っていて上のほうは緑色で覆われている。それに何かの動物のような鳴き声。肌をなでるような涼やかな風。


「すごい…なんて綺麗なんだ。」

「ついてこい。これから二日ほどはじっくり知識をつけてもらうぞ。」


エーヴァは一人で歩き出した。エグシオは急いでついていった。しばらくついていくと町に着いた。

町の人々はエグシオを見るなり睨みつけ始めた。エグシオには角がついている。魔族だとすぐわかったのだろう。だがその場ではなにも騒動は起きず、エーヴァとエグシオは図書館に向かった。


図書館につくなりエグシオは本の多さに驚きを隠せないようだ。


「すごい…。」

「動き回るな!ガキはまずこの本とこの本、あと…ってか全部読め。」


そういうと本をどさっと置いて机をはさんで向かい側にエーヴァは座った。たくさん本が並べられてたのでエーヴァの顔は見ることができなかった。


本を読み始めて2時間が経ったころ、警備員らしき人物がぞろぞろと図書館に入ってきた。



「ふん、こんな小さい町にも警備員なんているのか。もう全部読んだか?」

「いや、まだ…ってか字が読めない。」

「はぁ?! 貴様この2時間何してたぁ!!」


エーヴァは怒鳴って大声を出した。すると警備員も騒ぎに気づいたらしい。


「おい、お前たち。見知らぬ顔だがどこからきた?」

「なんで答えねばならん?」

「先ほどこの村で魔族らしいやつらを見たと多数報告があってな。隣町から我々が来たわけだ。だが貴様は人間のようだな。だがそっちのガキは…」

「…」

「ちょっときてもらおうか…」

「おい…」


 エーヴァは警備員に対して手を向けた。殺す気だとわかったエグシオはすぐに止めにかかった。

エーヴァは残念そうな顔をしてエグシオの手を掴んだ。


エーヴァ:「移動だ…」


そういうといきなり周りの景色が変わった。どうやら町の入り口まで戻ったらしい。瞬間移動の魔法を使ったようだ。

エーヴァはイラついていた。


「やつらは人間だ。殺してもかまわんだろう。どうして庇う?」

「…わかんない。」

「ガキが!!」


そう言うとエグシオの顔を殴った。エグシオは5メートルほど吹っ飛ばされた。


「うっ…」

「貴様見たな無力なやつが私に指図するんじゃない!貴様など生きていれば私は力を使えるんだ。手足をもぎとってもう邪魔できないようにしてやろうか!?」


エーヴァがエグシオに近づいていく。

エグシオはエーヴァに手を向けた。その途端黒い風の刃がエーヴァに向かって放たれた。しかしエーヴァは傷すら負っていなかった。あの人間の兵士たちを倒した黒い風はエーヴァには通用しなかった。


「ふふふ、いい度胸してるないか。だが、私の魔法の力で私を倒せると思っているのか?少し痛い思いをしてもらうか…」


エーヴァはエグシオに手を向けた。その瞬間エグシオは黒い風と共に吹っ飛んだ。


「うわああ」


エグシオは受身を取れず地面に叩きつけられた。


「気絶しなかったか…いじめがいがあるじゃないか。弱いくせにいきがるからだ。」


エーヴァは手を向けた。そのとき


「やめて!!」


エーヴァより年上らしき黒髪のショートへアーの女がエーヴァとエグシオの間に割って入った。


「何だ貴様。」

「私はアスカ・デュフォード。この男の子が何をしたというの?」

「貴様には関係ない。」

「これじゃあ弱いものいじめじゃない!」

「そう、弱いんだよ。貴様も痛い目にあいたくなければ消えろ。」

「消えません!! だって…」


アスカが何かを言おうとしたときエグシオがアスカの服を引っ張った。


「逃げて…」


エーヴァは手を向けて黒い風を放った。


しかしアスカとエグシオはまったくの無傷だった。よく見るとシールドが張られていた。

エーヴァは少し驚いた後、すぐに怪しい笑顔になった。


「防御呪文か。それもかなり高等だな。貴様のような人間が…面白い…。」

「なんて邪悪な魔法…あなたはいったい…」



「いたぞ!! あそこだ!!」



図書館にいた警備員たちが来た。


「ドイツもこいつも邪魔ばかりして…そんなに死にたいか…」

「うっ…逃げて…」


エーヴァが警備員に向けて手を向けて魔力を高め始めた。だが急に警備員たちがきょろきょろと何かを探し始めた。


「やつらまた消えたぞ!探せ!近くにいるはずだ!」

「なに?近くに…む…」


エーヴァは何が起きたかすぐ理解した。アスカが地面に手を当てて呪文を唱えてた。


「ひとまず身を隠せる呪文を唱えました。今のうちに隠れましょう。」

「ふん…」


宿をとってそこで休むことにした。もちろんエグシオの姿は見えないようにした。



アスカ:「もうすぐこの子も動けるようになると思います。」


エグシオは眠っている。アスカがエグシオの手当てをした。エーヴァはそれを見ていた。


「いきなり現れて私に文句を言ったかと思えば次は庇うとはな。何を考えている?」

「なにも…ただ見て見ぬふりができなかっただけです。」

「くだらん。人間は何を考えているのやら。」

「あなたは彼のお姉さん?」

「そんなわけないだろう。そいつは契約者だ。」

「契約者…あなた悪魔ですか?!」


アスカは魔法を使える魔術師。悪魔との契約についての知識もすでに持っていた。


「そうだ。最上級のな。」

「まさか…こんな子供が?」


世間一般での常識。悪魔との契約は相当の憎しみと潜在力がないとできない。さらに悪魔の力が強くなればなるほど代償も大きくなる。


「信じられないか? このガキが悪魔と契約するほど心の中が憎しみで溢れているなど。」

「この子にいったい何があったんですか?」

「そんなことはそのガキに直接聞け。」


エグシオは目を覚ましていた。天井を見つめている。瞳には生気がない。


アスカ:(聞けるわけない…こんな悲しく辛い目を見たのは初めて…)


「両親を殺された。人間に。目の前で。」


アスカが問いかける前にエグシオは淡々と答えた。アスカは困惑した。


「な、なぜ…」

「わからない。僕たちが魔族だから…?」

「そんな…」


エグシオは淡々と…心が壊れてしまったせいか目の前で見て起こったことをこと細かくアスカに話した。


「そうだ…人間達を殺さなきゃ。ね、エーヴァ。」

「ふん、殺そうとしたら貴様が邪魔したんだろうが。これだからガキは…」

「とりあえずあなたも死…」


エグシオはアスカの顔を見た。

彼女は泣いていた。大粒の涙が頬を伝っている。

人間でも涙を流すんだ…。


「なんであなたが泣いてる?」

「だ…だって…そんな…うっ…。」


アスカはエグシオをぎゅっと抱きしめた。


「なにを…」

「私の契約者にくっつくでない!」


エーヴァは引き離そうと近寄ってきた。しかしアスカはエグシオから離れようとせず耳元でずっと囁いている。


「怖がらないで…大丈夫…大丈夫…」


エグシオも離れようとせずずっと黙っている。しばらくしてアスカから離れた。

「やっと離れたか。ところでこの町はいつもこんなに騒がしいのか?」


アスカは涙目ながら答えた。


「今、フェイランド国がレジスタンスの制圧を行っているの。」


「フェイランド…レジスタンス…」

「そう…レジスタンスは人間に対抗するために作られた組織。ほとんど魔族で構成されているわ。だから魔族を嫌うフェイランドにとってレジスタンスは消したくて仕方がない存在なの。」

「魔族が…天上世界にもいるの?」

「えぇ。長い間人間と魔族の戦いは続いてるの。もちろん前にあった戦争ほど激しくはないけどたくさんの犠牲者が出てるみたい。」

「魔族も天上世界を諦めずに戦い続けているわけか。」

「そう、魔族も人間も見た目もさほど変わらないし悲しんだり笑ったり怒ったりする…なぜ共存ができないの…?」


アスカの発言にエグシオはつぶやいた。


「共存?あなたは何も知らないんだ…」


人間が残虐で救うことができない生き物だってことを。


「なに?」

「なんでもない。もう寝る。」

「あ、その前に…私名乗ってなかったね。私はアスカ。アスカ・デュフォード。あなたの名前は?」

「…。」

「あなたの名前は?」

「…。」

「あなたの名前は??」

「…。」

「あなたの…」

「ああああ!もう!しつこいな!そいつはエグシオ!!私はエーヴァ。エーヴァ・バイオラセントだ!」


痺れを切らせてエーヴァがエグシオの代わりに質問に答えた。


「そう。よろしくねエグシオ。エグって呼んでいいかな?」

「…。」

「エグって呼んでいいかな?」

「…。」


エーヴァはいらいらしてしょうがなかった。この女のしつこさは厄介だ。


「うん。」


エグシオはさっきと違い答えた。アスカはにっこり笑って頷いた。


「さて、今日も契約更新といこうか…」

「契約…」

「あぁ…やはり血じゃちと物足りないな…やはり性行為が一番…」

「な、なにいってるの!! こんな子供に!!」


アスカは顔を真っ赤にしてエーヴァをとめた。


「なんだ、邪魔するな。契約者との契りだ。」

「だめです! そんなことさせません! まだ子供じゃないの! あなただって14,5歳でしょ? だめ!!」

「ふふ、そうか。この姿はそのくらいの年代に見えるのか。ならばこれならどうだ?」


エーヴァが目をつぶってなにかぶつぶつ言い出した。するとさっきまで子供の体系だったエーヴァが少し背が伸びスタイルがみるみるよくなっていった。


「普段はこのでかい胸と尻が邪魔で動きづらいからあの姿でいたんだ。これで文句はなかろう。」

「あ、え、いや!! だめ! エグが子供なのは変わりないじゃない!」

「ならばガキがガキじゃなくなればいいのだな?」


エーヴァは呪文らしきものを唱えて寝ているエグシオの法に手を向けた。

するとエグシオが急に体格がよくなり大人の顔になった。そう20歳くらいだろう。顔立ちが整いアスカも少し見惚れてしまった。


「ほう、こいつはいい男じゃないか。これで文句なかろう。」


アスカはいろいろ驚いているが、一番驚いているのはエグシオが大人になった姿を見てどきどきしている自分の心に驚いている。


「だ…だめです!! やっぱりだめ!!」

「さっきからうるさいな。んん?貴様が先にいろいろ済ましたいのか?待ってやるぞ?」

「ち…ち、違います!!!! とにかくだめです!!!!」


 アスカの顔が真っ赤になった。エーヴァの大人になった姿はスタイルがよくあまりに色っぽくエロそうであった。思わず自分の体系と比べてしまう。

胸は小さくはないがエーヴァほど大きくない。いわゆる標準的な体系なのか。ショックと共に悔しさがこみ上げてきた。


「まったく…部外者がうるさい。」


そういうとエーヴァはもとの体系に戻った。


エ「ま、貴様がいないときにいろいろとするさ。今日は血で我慢してやる。」


大人の姿のエグシオを抱き起こして首元に噛み付いた。その姿は吸血鬼を連想させる。


「すきになんかさせない!」


アスカはなぜかむきになっていた。エーヴァは横目でアスカを見ながらエグシオの血を飲んでいた。


アスカが朝目が覚めた。エグシオが心配だったためすぐにエグシオの部屋に向かった。


「エグ、体調は…」


エグシオの布団の中にエーヴァがもぐりこんで寝ていた。


「こ、こらああああ!!!!」

「ぬぅ、うるさいぞ。なんだ…」

「…」


エグシオは寝ぼけているのかボーっとしている。


「なにやってるのエヴァちゃん!!」

「エヴァちゃん? む?」


エーヴァは外が騒がしい事に気づいた。外を見るとたくさんの警備員、さらにはフェイランドの親衛隊まで来ていた。


「なにかあったか…それとも私たちのことが気づかれたか…」

「ちょっと外見てきます。」


アスカが部屋を飛び出した。


「あの鎧…」

「あぁ…地底世界で最初に殺した兵士たちだな。フェイランドの兵士たちだったか。」


エーヴァは気づいていた。。エグシオの目が…やつらに憎しみで釘付けになっていることを。




アスカ:「レジスタンスの隠れ家の1つがわかってそこに攻めにいくらしいです!」


アスカが部屋に戻ってきて仕入れてきた情報を話した。

エグシオが部屋を出る準備をしだした。


「エーヴァ。」

「お、やるのか?」


エーヴァは嬉しそうな顔をした。そこにアスカが止めに入った。


「ちょ、エグ! 待ちなさい! あの人数相手に何ができるって言うの?!」


兵士の数は数え切れないほど多くレジスタンスを本気で潰しにかかっているのがわかった。


「あのくらいどうってことない。」

「魔族のみんなのところに行ってみよう。」

「だ、だめだったら! ねぇ! 今出たら兵士たちにエグが魔族ってこともばれちゃうよ!」


エグシオはアスカの静止を聞かず宿を出て兵士たちの後をつけた。


列を組んで進んでいる兵士たちはエグシオには気づかなかった。フード付きのマントをアスカが用意していてくれたのだ。そしてアスカもなぜかついてくる。


「なぜお前がついてくる?」

「エグが心配だから…ってか貴女危ないから!」

「危ないか…悪魔、魔女だからなぁ」


エーヴァはニヤニヤしてアスカを見た。雲行きが怪しくなり雨が降り出した。


「空から…水が落ちてくる…」

「雨ね…マントきといてよかった。」

「雨…」

地底世界では雨などない。どこからこの水は降ってくるのだろう。


兵士の横を歩いていると一人だけ馬に乗っている人間がいた。ほかの兵士とは違う鎧を着ている。


「あいつは…」

「第一将軍ウェイム。3大将軍の一人です。」

「3大将軍?」

「この国は、兵士、親衛隊、親衛隊長、3大将軍これらの人たちが国を守っています。3大将軍はかなりの腕と聞いています。」

「面白い。この場で殺しといたら後々楽かもな。なぁガキ。」

「ちょっと、エヴァちゃん。」

「エヴァちゃん?! 何だその呼び方は! 馴れ馴れしいぞ!」

「エグのことをガキとか貴様とかいうやめなさい!ちゃんと名前があるんだから!」

「貴様には関係ない。もうどっかいけ。」

「また貴様って…むう!!!」


アスカの顔が膨れた。しばらくこのままだろう。アスカのしつこさは昨日十分わかっていた。

町の郊外に一軒の家が建っていた。その家を兵士たちが囲んでいる。


「ここが?」

「みたいですね…」

「…」

エーヴァとアスカとエグシオは少し離れた森林のなかで状況をうかがっていた。


「レジスタンスども! 出て来い! 貴様らを拘束しに来た。従わなければ殺す。」


小屋に向けウェイムが叫んだ。しばらくすると一人の男が出てきた。頭に角がある。魔族だ。


「やれやれ、従わなければ殺すって?従っても殺すくせに?」


出てきた男は笑っていた。


「貴様がレジスタンスの頭か?」

「そんなわけないじゃん。俺はライア・ライム。リーダーを守る戦士だよ。」


ライアは薄い青い髪をしていた。短髪で性格もはきはきしているようだ。武装も特にしないで普通の服をきて出てきた。獲物は槍のみ。


「この軍隊を貴様一人でどうにかできると?」

「ん~、どうだろうね。ちときついかなぁ?」

「身の程を知れ!!」


ウェイムは兵士たちに指示を出し、一斉にライアに向かっていった。兵士たちが吹き飛んでいく。ライアは槍を持ち、兵士たちをなぎ倒し、吹っ飛ばしていく。


「あの人…強い…」

「やるのぉ。」

「…」


アスカは驚きエーヴァは感心していた。エグシオに反応はない。


兵士達:「うぎゃああああ」



「魔族は接近戦に強い種族。そう簡単に殺せないか。ならば魔法軍隊ならどうかな?」


ウェイムの後ろに軽鎧をきた人間がたくさん出てきた。そして一斉に呪文を唱え始めてライアに放った。ライアはその魔法を回避しながら将軍ウェイムに近づいていく。


「貴様さえ倒せば切り抜けられる!!」

「愚かな…」


ウェイムのところにたどり着く前にさらに魔法軍隊が増え、ライアは炎に包まれた。


「うがあああ。」


ライアが苦悶の声を上げる。そこにさらに兵士たちがライアに切りかかる。それでもライアは兵士たちをふっ飛ばしウェイムに向かって走り出す。しかしやはり魔法軍隊の攻撃をくらいたどり着けない。


「ぐは、くそ…まいったなこりゃ。」

「もう諦めるがよい。ほかの魔族は中にいるのか?」

「ふへへへ、みんなはもう別の出口から出て姿を隠しているさ。」

「なに、貴様時間稼ぎに…」

「残念だったなぁ。俺一人にこんなに必死になって時間かけちゃってあほじゃね?」

「魔法軍隊、やつを灰になるまで燃やし尽くせ。」

「俺が灰になってもあの人さえ生きてりゃまだ未来があるってか…」

ウェイムの指示によりライアへ一斉放火された。ライアに今まで以上の魔法の炎が襲った。死を一瞬で覚悟したのかすがすがしく笑っていた。

だがライアは傷を負わなかった。目の前には少年と少女が立っていた。


「な、だれだ…?」

「援軍か?!」


ウェイムとライアは驚いていた。予期せぬ援軍、敵が現れたのだから。


「…」

「その角…魔族…」

「やっと殺せるな…いいな?ガキ。」

「あぁ。」


 それからはあっという間だった。数え切れないほどの兵士たちが次々と黒い刃で切りつけられていき魔法の炎が届く前に黒い刃が魔法使いたちの首を切り落とした。

アスカは物陰に隠れて彼らの戦いを見ていた。アスカは初めて彼らの戦っている姿を見た。とても強く、恐ろしい。


「つ、つえええ!!」


ライアはエグシオとエーヴァの戦いぶりを見て興奮していた。兵士たちはついに逃げ出していった。将軍ウェイトだけ無傷でその場にとどまっていた。


「こんなことがあるのか…あんなガキ2人に…」


「今があいつをしとめるチャンス…あれ?」


ウェイムに止めを誘うと体制を整えようとした。だがライアの体力は限界だった。その場から動けなかった。


「アスカ…」

「は、はい!!」


エグシオの呼びかけに物陰に隠れていたアスカが近づいてきた。


「彼に応急処置…」

「あ、う、うん。」

(初めて名前呼ばれた…)

「あんた人間だろ?なんで俺に…」

「魔族だって…心がある! 人間と同じじゃない。」

「違う! 魔族は人間みたいに残忍なことはしない!」


アスカは言い返せなかった。エグシオの両親の話、今見た魔族に対する仕打ち。どう弁解できるのか。


ウェイムがエグシオたちに兵士のほとんどが殺されてしまい撤退知るしかなくなってしまった。


「この場は引こう。貴様らの名は?」


「エグシオ。」

「私はエーヴァだ。」

「俺はライア。戦士だ!!」


アスカは名乗ろうとしなかった。


「で、そこの黒髪ショートヘアがアスカだ。」

「こらあ!! エヴァちゃん!勝手にしゃべるなー!」

「エグシオ、エーヴァ、ライア、アスカ…覚えておこう。」


そういってウェイムはこの場を去っていった。周りには死体の山だった。


「私のことは忘れてーーー!」


アスカは渾身の願いをこめて叫んだがもう将軍はいなくなっていた。

アスカは放心状態だった。死体に囲まれるなんてそうそうない。ライアがこちらに向かって歩いてきた。


「いや~助かったわ~! 死ぬ覚悟で時間稼ぎに着たのに生き残っちまった! お前つえなぁ! 名前はなによ?」

「エグシオ。」

「エグシオ…あれ? お前魔族じゃねーか! あは! 仲間だ! しかもこんな強い仲間が増えた!」

「ちょ、まだあんたらレジスタンスの仲間になるなんて一言も言ってないわよ!」

「あんた…人間じゃねーか。人間が何で俺を助けた?」


ライアの目つきが急に変わった。アスカを睨みつけている。そこにエーヴァが割ってはいる。


「何だ小僧。助けてもらったんだ。私たちにも礼をするのが礼儀だろう?」

「う、まぁ確かにそうだ。助けてくれたことは感謝している!だが!」

「感謝だけでは物足りない。金か食い物を出せ。」

「なに!? 俺たちだって生きていくのがやっとなんだぞ!」

「ならば貴様の内臓でも売って金作って来い。」

「うぅ…エグシオ…お前は俺たちの味方になってくれるよな?」

「…」


エグシオは何も言わずにいる。


「エグシオ! 頼む! お前の…お前たちの力が必要なんだ! 人間達は俺たち魔族を殺すことしか考えていない! 魔族の中にはまだ幼い子供だっていっぱいいる!それに数だって人間のほうが多いからどうしようもないんだ!頼む!」

「…」

「無駄だ。そのガキは目の前で人間に両親が殺されて心を閉ざしてるらしい。」

「な、そうなのか…ならば尚更! 人間を倒して仇をとろう!エグシオ!」

「こら! こんな子供に仇とかそういうことさせたらだめ!」

「うるさい人間! お前らが悪いんだ! 俺の友達だって何人殺されたか…」

「そ、それは…」


アスカは再び困惑する。


「エグ…こんなに俺が必死に説得して真面目ぶってるのに…だめか?」

「だろうな。貴様そんな熱い男には見えないしな。戦ってるときのほうが今より楽しそうだった。」


エーヴァがライアに向かってニヤつきながら言った。


「あちゃ~ばれたか。お前らみたいな強いやつらと一緒に戦ったら楽しいだろうなって思ってよ。」

「なんなのよあんた!」


アスカがライアの頭小突く。ライアは二ヤッて笑う。


「俺は楽しければいい。あんた人間なんだろ?」

「そ、そうね。でもあんたらに敵意とかないわよ。」

「あぁ。見てわかるよ。そっちの怖い子は…」

「私か? 私は人間ではない。まぁ魔女ってところか。」

「魔女…見た目のまんまだな! はぐ!」


エーヴァがライアの顔を殴った。ライアは吹っ飛んでいった。


「おいガキ。街から逃げてきたんだ。戻れないし行くところもないからこいつについていってみてもいいんじゃないか?」

「…わかった。」


エグシオはエーヴァの意見に従った。


「お! きてくれるのか! うほー! これから楽しくなりそうだ! こっちだ!」


ライアは嬉しそうにレジスタンスのアジトに続く道を案内した。


「…。」


アスカは躊躇した。これから先に足を踏み入れたら後戻りできなくなるような気がしたからだ。


「おーい! 早く! みんなに紹介すっからさ!」

「もう乗りかかった船だし…」

アスカは覚悟を決めたらしい。

エグシオ、エーヴァ、アスカはレジスタンスのアジトに入った。

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