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楽しい一室  作者: せんと
1/1

楽しい部屋は、エロゲの部屋

 チャイムの音で目が覚めた。クラスメイトは立ち上がってなにやら喋りながら机を動かしたりしている。

そのうちの一人が弁当を持っているのを見てようやく今が昼休みであることに気がついた。

 伸びをしながらあたりを見回す。ざわざわした空気はいっそう濃くなっていた。

 

 全く、今日も午前中の授業は退屈で仕方なかった。この学校の教育ははっきり言ってぬるい。塾に行かなくても、適当に予習復習しておけば定期テストで八割を切ることはない。


 学校のほとんどの生徒は部活動でいわゆる「青春」とやらを謳歌している。そのレベルに合わせた授業はどう考えても二年後に迫る大学入試に役立つものではないことを俺は知っていた。


 楽しそうに話しながら弁当を開く人々を視界に入れつつ、その奥の窓を眺めた。桜はもうなかった。だが緑に染まった木が風で揺れているのを見るのもまあ、悪くない。

 ぼーっとしている場合じゃねえ。さっさと食ってもう少し睡眠時間確保しとかないと。午後は体育もあるし、これくらいの睡眠じゃ確実にやばい。

俺は手早く弁当を広げ、好物の玉子焼きに箸を伸ばした。



その時、


「松下悠人」


横から声がした。俺は明らかに動揺した。俺の一年の高校生活で得た友達の数を数えようと思えば片手で事足りる。当然その中に女子は一人もいない。

 しかし、そこで俺の名前を読んだのは明らかに女子の声だった。


 キョドりながらその方向を見ると、そいつはニッと笑った。


 長く、ふわふわした髪、身長はそんなに高くなく、お嬢様のように自信に満ちた笑みを浮かべて座っている俺を上から見下ろしている。腕は細くてか弱く、この季節に合わないと感じるくらい真っ白だった。


 「松下悠人。やっぱり、あなたなのね。・・・ちょっと来て」ぐいと腕を掴まれて俺を立ち上がらせようとした。

わけがわからなかったが俺は素直に席を立ち、そのまま腕を引かれて教室を出た。クラスメイトの視線が痛かった。




 そいつは何も言わずにただ俺の手首を握ってずんずんと歩いて行く。こんな状態で廊下を歩くのもさすがに恥ずかしい。俺はそいつに声をかけた。

「どこに連れてく気だよ」

うまく声がでない。しかしなんとかそいつに届いたようで、そいつはぱっと振り向いて言った。

「黙ってついてきて」

「ついていくから手だけ離してくれないか」

「だめ」


 せめてものの願いも聞き届けられず、俺は観念して恥ずかしさをこらえながら、そいつについていった。





 そこは、俺が初めてくる場所だった。一応この高校で一年間学校生活を送っているのだから、だいたいの教室は把握しているつもりだったが、ここは教室ではない。先生が待機するための準備室と同じ、手前に開く古い扉であった。最上階である四階の一番奥。普通なら誰も使っていない部屋のはずだ。

 そいつはそこに来ると立ち止まり、ようやく手を離してから、わざわざ指差し確認で周囲を見回した後、

ためらいなく扉を開け、俺をそこに押し込んだ。



 「っ・・・なんじゃ、こりゃ・・・」

 そこにはとても一般人には見せられないような光景が広がっていた。

外から見た雰囲気とは全く違う、手入れが行き届いた部屋。そして、大きなショーケース。ちょうど校長室のあたりにある部活動で獲得した盾やら賞状やら旗やらを飾るアレを数倍にしたようなものだ。

しかも、そこに飾られているものが問題だった。

 どこもかしこも可愛い女の子の絵がかかれたパッケージが、スペースに余裕を持って並べられている。

そして、そのパッケージのほとんどの女の子は、巨大な胸を露わにさせていた。

「これは・・・」

エロゲだった。18禁な大人じゃないとやっちゃダメ系なゲームばかりがショーケースを埋めていたのである。

 俺はそいつの方に振り向いた。さっきよりももっとキョドりながら。

「おま・・・なんだ、これ」

「エロゲだけど」

 即答だった。俺の焦りは更に加速した。

 

 それから数秒の間があった後、そいつが口を開いた。

「今日から、悠人には毎日放課後にここに来てもらうから、よろしくね!」

やけに明るい口調でそいつは言い放ち、俺は完全に言葉を失った。





 俺が落ち着くのに、五分ほどかかった。どうにか冷静さを取り戻し、とりあえず聞きたいことを聞いてみる。

「これはなんだ」

視線の先には例のショーケースがある。

「私のエロゲたちだけど」

「どういうことだ」

「どういうことって・・・・私はこういうのが好きってことよ」

その声には少しだけ恥じらいが感じられた。だが俺はそれどころじゃないくらい、混乱している。

「私は望月華奈。生粋のオタク。アニメも見るし、まあこういうゲームもやる。・・・・あ、全年齢な方のゲームはあんまりやらないけど・・・」

そこでそいつはこほん、と咳払いしてから、

「悠人もオタクでしょ?だから、来て。今日の放課後から、毎日」

「な、何言ってるんだ・・・」

 まともに言葉を返せない。なんでこいつは俺がオタクだということを知っているんだ。

高校に進学してから誰にも、一言も言ったことがなかったのに。

動揺は隠せなかったが、さっきから気になり続けていた質問を次にぶつけた。

「なんでお前のエロゲがこんなところに綺麗に飾られてるんだ?」

「えーっと・・・それは・・・」

そいつが口ごもった瞬間、聞き飽きた音が耳に入ってきた。

「あーあ、チャイムなっちゃった。どうせ放課後あるし、続きはそこで、ってことで!はやく戻らないと本鈴に間に合わないよー?ここは学校の端の端だからね!それじゃ」

 都合良くそれだけ言って素早く部屋を出ていき、俺だけが残された。

 確かにその望月とかいうやつの言うとおりだ。こっから自分の教室までかなりの距離がある。俺も走りだした。そして、体内に腹の虫の存在を感じて、望月をこの上なく恨んだ。




 午後の授業は何もかもがおかしかった。腹は減って死にそうだし、なにより昼の出来事のことを考えずにはいられなかった。どうして俺がオタクと知っているのか、知っていたとしてなぜ俺をあの場所に連れて行ったのか、そしてあの場所は一体なんなのか・・・。

 一瞬で時間は過ぎ、気づけばホームルームも終わり、クラスメイトは仲間とともに部活へと向かっていた。

 俺は人の少ない教室で弁当をかきこみながら、まだ望月と、あの部屋のことを考えていた。

「悠人もオタクでしょ?だから、来て。今日の放課後から、毎日」

あいつは今日の放課後から来いと言った。俺は行くべきか。

選択肢はあるようでないも同然だった。

 俺はゆっくりと立ち上がってバッグを肩にかけて教室を出た。五分ほどして、その扉の前に到着する。

なぜ自分がここにいるのか、その理由は分かっていた。扉に手をかけ、ゆっくりと開く。

「・・!遅い!十五分の遅刻!」

望月はそう言いながら安心したように微笑んだ。俺が弁当を食っている間に心配かけたらしい。

 俺はその嬉しそうな笑みに自分と似たものを感じ、久々に口元を緩めた。

初めてでなんにもわからないので感想とかなんでも教えて欲しいです。

続きができるかは・・・全くの未定ですw

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