prologue ――零れそうな心
子どもというものは、大人が思っている以上に鋭い。チラッとみたテレビでそんなことを言っているのを聞いたことがあった。
お父さんとお母さんは、何故だか分からないけど仲が悪かった。そして、気がついたら二人ともいなくなってしまった。
「何でお父さんとお母さんはいなくなってしまったの?」
ずっと彼女の中にある分からないもの。みんなはお父さんやお母さんと休みの日に遊びに行ったり、楽しいお話をしたりしたことを嬉しそうに話す。でも、彼女にとってそれは普通ではなかった。
一度聞いてみたかった。だけど聞いてはいけない気がした。だって、お兄ちゃんたちもお姉ちゃんも悲しそうな顔をしていたから。
その言葉を心に閉じ込めるのは容易ではなかった。何度も吐き出したい衝動に駆られる。それでも表面張力が働いたかのように、また口を紡ぐ。
そうしているうちに月日は流れ、いつの間にか彼女にとってそれは日常へと変わった。
気が付けば彼女自身も気にしていない。振り返れば些細なことのような気すらしてくる。
それでも、彼女に手渡された一枚の紙は、彼女を再び両親の呪縛に結びつけるのに十分なものだった。