Chapter 1-(5) 幸福アルバイト
前回は一週お休みして申し訳ありませんでした><
これからもテストなどの影響でお休みすることがあると思いますがよろしくお願います!
アルバイトとして採用してくれたファミリーレストラン。そこに現れた一人の春雨高校生、白花真菜。
「宮葉君、どうしてここに?」
「ああ、俺アルバイト始めようと思ってさ。今日面接に来たんだ」
「そうなんだ。で、結果はどうだったの?」
「とりあえず採用とは言われたよ。何か釈然としない形だけど」
「ははは、私と一緒だ」
真菜も意外とあっさり採用が決まったそうだ。
というのもこのファミリーレストランは店長が言っていた通り結構昔からあるところで、プラレールの次に世代を越えているとも言われている。しかし近年はどんどん町が発展していき、他の新しいファミリーレストランに客を取られがちだとか。それでも繁盛している方ではあるが。
店員が減ってきているのはその影響もあるらしい。
「えっと、じゃあそろそろ行かなきゃいけないから」
真菜が更衣室を見ながら言う。
「ああ。……ここでもよろしくな」
「うん」
ニッコリと微笑んで真菜は更衣室へ入り込んでいった。そして悠馬は晴れやかな気分で帰っていったのだった。
☆☆☆
ハイな気分で悠馬は家へと足を踏み入れた。ただいまという声もどこか高い。
「あ、おかえりー」
いつもどおり最初に返事してくれるのは結希。それに続いて羽花もおかえりと言う。そしてもう一人が静かな声でおかえりと。
「……もう一人?」
声を聞く限り明らかに女性のもの。拓斗は声変わりもして低めである。
リビングに入って目に飛び込んできた姿は、悠馬の通う春雨高校の女子制服。その少女は羽花と向き合って魔法少女・リーラの指人形で遊んでいる。水色の綺麗な髪が腰まで伸びて、先端は床に身を預けている。
「ミラア!?」
「あ、良夫」
「もうどこも近くないよ!? その名前!」
「えっと……悠斗」
「惜しいな。悠馬だ。じゃなくてだな! 何でここにいるんだ!」
「心広き幼女、羽花が一緒に遊ぼうって」
「あ、おお、そうか」
羽花の相手をしてくれていたとなるとどうしようもない。感謝するのみだ。
思いだすのは今朝の会話。魔法少女・リーラでかなり盛り上がっていた羽花とミラア。あまり大人、特に悠馬たちの世代の人はあまり見ないアニメであるから、大きなお姉さんとかと話せるのがもしかしたら羽花は嬉しかったのかもしれない。
その証拠に悠馬と遊ぶときよりも表情が明るい。悠馬は少し泣きそうになったが、こらえて結希の手伝いをした。
献立は白御飯に味噌汁。そして焼き魚と至って平凡である。しかし、小学生でこんなに料理をする人はあまりいないだろう。
「そう言えば拓斗は?」
「聞くまでもないでしょ?」
「ままま、そうなんだけどさ……」
いつものとおり、次男拓斗は友達と遊んでいる。おそらくファミリーレストランとかでわいわいやっているのだろう。こんな時期にあそこまで危機感がないと逆に凄く感じる。
結希シェフも座り、食事の準備が完成した。
「じゃあ、召し上がれ!」
『いただきまーす』
焼き魚の香ばしい匂いを鼻に通しながら口へ運ぶ。ちょうどいい塩味が広がっていく。
「ん~、絶妙の塩加減だ」
「ありがとう」
微笑みながら結希もご飯を食べる。
最近結希は、母が残していった料理本などをよく読んでいる。男二人からの女の子だったので母も嬉しそうにしていた。悠馬や拓斗は小さい頃、なかなか手伝いというものをしなかったからか、どこにどのお皿があるかというところから曖昧だ。それに比べて手伝ってきた結希は普通に覚えていて、一番スムーズにおいしい食事を作ることが出来る。だから基本悠馬はサブに入る。
「そう言えばお兄ちゃん。遠足っていつ?」
「明後日だよ。二日で予定立てろとか学校も無茶言うよな」
「その……お弁当の事なんだけど……」
「ああ、別にいいよ」
朝食に加えて弁当なんて、そこまで妹に負担をかけるわけにはいかない。
「作ってみてもいい?」
「え!?」
「え、そんなに嫌?」
「いやいやいや! ちょっと予想外だったから……」
日常で必要だから料理をがんばっているのかと思っていたら、結希の中で趣味になりつつあるらしい。言われて見れば、この頃は弁当系の雑誌をよく読んでいる。
「でも、大変じゃないか? 朝御飯まで作ってもらってるし」
「朝御飯って言っても、パン焼いてジャム塗ってるだけだからね。寧ろ時間潰しになって良いよ」
「ん~……。それじゃあお言葉に甘えようかな」
「喜んで!」
居酒屋風に答えた結希はズズッと味噌汁を飲んだ。ちょっと前まで、遊んで遊んで、と言っていた結希に今度は任せることになった。それに悠馬はどこか寂しさも感じた。もうお嫁さんに出しても恥ずかしくないレベルなのが原因かもしれない。
「誰にもやらんぞ!」
「何を!?」
急に口から出てしまった言葉に、一番聞かれてはまずい結希に聞かれてしまった。とりあえず、何でもないと言って誤魔化しておく。
結希と話している間に、ミラアと羽花はリーラの話で盛り上がったまま食べていた。二人とも髪が長いのに結んだりしていないので、いまにも味噌汁に髪の毛が浸かりそうである。
「お兄ちゃん~。魚残しちゃダメ~?」
「ダメ。ちゃんと食べなさい」
「そうよ羽花。武田の言うとおり」
「もはや苗字だよね!?」
そうツッコミはしたものの、意外とそういう常識はあるようだ。羽花くらいの年の子は好き嫌いが多い。しかし成長途中であるのには変わりないので、魚など栄養がある食べ物はしっかり食べなくてはいけない。
「うう。ミャアちゃんがそう言うなら……」
がんばって羽花は魚を食べようとするが、見事に量が減っていかない。苦手なものを急に克服しろというのも難しい話ではあるが。
「じゃあこうしよう羽花。半分食べたら残りは俺が食ってやる! それで文句ないな?」
「うん! がんばる!」
羽花の魚は悠馬や結希に比べて少し小さめ。がんばればすぐに食べられる。
それから数分後。ようやく半分食べきった羽花の魚が悠馬に渡された。なかなか苦戦していたが頑張っていたのでよしとする。
悠馬は再び箸を持って、一匹半乗った魚を突く。
「って、何で一匹と半分なんだ?」
半分はもちろん羽花のもの。それだけを食べる予定だったのだが――。
「ミラア。お前魚食べたよな?」
「陰陽師の成長のために私の魚をあげる」
「もはや名前じゃないよね!? じゃなくて、あんな偉そうに食べなきゃいけないに肯定しておいて魚苦手なのかよ!」
「生き物の命を奪って食べるなんて私には出来ない。だから私は牛肉が好き」
「牛肉も生き物の命を奪っているんですよ!?」
ミラアと知り合って二日ちょっと。そろそろミラア独特のペースに慣れたいところだが、これがなかなか慣れることが出来ない。一年くらいしたら漫才で頂点でも目指そうかと思ってしまう。
結局ミラアは絶対に魚は食べようとしなかったので、悠馬がミラアの分も食べた。
「ミャアちゃん! お風呂一緒に入ろ!」
晩御飯を食べ終わってから更に数分。今度は一緒にお風呂に入ろうと言い出す。しかし、ミラアも年頃の女の子。今まで学校やお箸などといったことに関して、全く異文化を見せたりしないので、さすがに同級生の男子がいる部屋でお風呂に入るなど――。
「分かったわ」
――するようだ。
「じゃあ私も入ろうかな~」
皿洗いを終えた結希がエプロンを外しながら言う。というか返事が来る前に髪の毛をほどいている。
結局ミラア、結希、羽花の三人でお風呂に入ってしまい、悠馬は一人リビングに取り残された。
本当なら健全男子高校生の悠馬に良いことは起きてもいいはず。同級生の美少女が自分の家でお風呂に入っている。ラッキースケベならまたとないチャンス。
ではあるものの、悠馬はラッキースケベでもないので、しぶしぶと以前買った本を読み始めた。これからは本を買う時間やお金もないので図書館で借りようとか思いながら。
しかしその時、急に廊下をドタドタ走ってくる音がした。
「お兄ちゃぁあああああああああん!」
リビングに入って来たのは産まれたままの姿の羽花。体が濡れているので床がビショビショだ。
「ど、どうした!?」
「何か水風呂になっちゃってて……」
そう言って入って来たのはバスタオルで身を包んだ結希。言われてお風呂の設定を見てみると、いつの間にか「さし水」になっている。
「嘘だろ……」
「悠斗の家ってお湯が出ないの?」
そう言って次に入って来たのは産まれたままの姿のミラア。
「悠馬だ。……じゃなくて何つう格好で出てきているんだぁあああああああ!?」
「裸」
「そう言うことじゃねぇ!」
この状況がまずいと悠馬以外に分かった結希がミラアをお風呂場に押し戻していった。ラッキースケベに入学。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! どうすればいい?」
「今お湯が出る設定にしたからもう少し待て。そうすれば温かく入れる」
「うん! 分かった!」
羽花もミラアと結希に続き、風呂場に戻っていった。
そして悠馬がため息をついた直後、真横にあった電話が鳴る。
「……もしもし」
『私、京安署の者ですけど、拓斗君のご家族でいらっしゃいますか?』
良い感じだった夕方が、ドタバタの夜になった一日だった――。
☆☆☆
翌日。通常授業を終え、夕焼けの放課後。今日はアルバイトのため昨日行ったファミリーレストランへ。制服は今日貸してくれるそう。
あっという間にファミリーレストランに到着し、今回は裏から入った。
「お、来たね、悠馬君」
そのちょうどのところ、通りかかった店長の経済不振が段ボールの荷物を持ちながら言った。その段ボールを下ろし、更衣室へと案内される。
「このロッカーを使ってくれ。君のサイズの作業服も入っている。早速着替えて私のところに来てくれ」
そのまま店長は先ほど下ろした段ボールを再び運び始めた。
言われるがままに悠馬は作業服の袖に腕を通す。その白いシャツ前に黒いボタンが七つほどある。全てを留め、真っ黒のベストを上から着る。これもまたお洒落だ。そしてこれまた黒いズボンを穿く。なかなかにおしゃれな格好で、町に出ても恥ずかしくない。
「お、似合うね~。店長のおじさんも悠馬君くらい腕が細かったらなぁ」
段ボールを運び終え、様子を見に来た店長がニコニコしながら言う。店長はただ単に筋肉がしっかりしているだけだと思われるが。
「じゃあ早速仕事に取り掛かってもらおうと思います。基本は接客をやってもらいたいんだ」
「接客ですか……」
「うん、フレンドリーにね。フレンドリーに。注文を取ったり、レジを打ったり。あとは今の僕みたいに荷物運びやってもらったり大変だと思うけど、よろしくね」
「はい!」
悠馬が最後にこの店に来たのは中学二年生の時。あれから二年ほど経っているわけだが、昨日メニューを見せてもらったところ、あまり品は変わっていなかった。よって意外とややこしいメニューの名前もスラッと言えたりする。
研修中の札を受け取り、表の方へ出てみた。
今は夕方の五時前。早めの晩御飯や仕事終わりのOLさんがお茶を飲みに来ていたりする時間帯だ。客はそれほど多くもないので、慣れるのなら今のうちである。
と、緊張しながらもわくわくしていると、後ろから真菜が出てきた。
「あ、白花」
「こんにちは~。制服に合ってるね」
ニッコリ微笑む真菜。しかし、そう言う真菜も制服がとても似合っていた。男性用のものと違うところはズボンとスカートくらい。華奢な体にぴったりだ。
「もしかして緊張してる?」
「ま、まぁ……」
「私も昨日凄く緊張したけど、結構みんな優しくて安心したよ。常連さんとかもいるし」
そう言った途端、ピンポーン、と店員を呼ぶ音が鳴り響いた。
「よし! 悠馬君行ってみよう!」
店長が後ろで親指を立てて言った。悠馬はコクンと頷いて、テーブルへ向かう。
注文を取る端末――ポータブルデータターミナルが正式名らしい――の使い方も教えてもらったし、落ち付いてやればきっと成功する。
「お、お待たせしました。ご注文をお伺いします」
行ったテーブルには仕事終わりであろう、二人のOLが座っていた。楽しく談笑していた。
「ドリンクバー二つください」
「ドリンクバー二つですね。前からご自由にお取りください。ごゆっくりどうぞ」
ありがたいことに簡単な注文だったので、悠馬は一息ついて帰って来た。
「いいよ、悠馬君。その調子でどんどん行こう!」
結局、この後も特に失敗はなく、アルバイトの時間はあっという間に過ぎた。
☆
春雨高校は基本アルバイトを許可している。しかし、あまり遅くまでやられると危険でもあるので、十時までが原則となっている。なので、悠馬と真菜は同時にファミリーレストランを後にし、途中まで一緒に帰っていた。
「宮葉君、明日の遠足楽しみ?」
「うん。とっても」
祥也のように中学校からの知り合い、何だか変な形で知り合ったミラアに加え、高校での最初の友達の治親。そして中学時代からの憧れの真菜。最高のメンバーでの遠足。楽しみに決まっていた。
「私、最初あまり楽しみじゃなかったんだ。知らない人ばかりだったらどうしようってちょっと不安だった」
「うーん、何だか白花らしいな」
「でも、宮葉君や西月君とか知っている人がいて良かった~。ミラアちゃんとも仲良くなりたいし」
「ま、楽しくやろうな」
「うん」
本日二度目の真菜スマイル。悠馬はそれにドキンとしてしまう。なかなかの破壊力だ。
そしてあっという間に翌日を迎える。