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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
第三章 秋の祭りとアイドル
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Chapter 2-(1) これも一応幸せ

 夏休み明けから長らく準備をしていたスプフェスも当日を迎え、春雨高校はいつもより華やかな門になっていた。客もどんどんと校内に入場しており、今年も大盛況となっている。

 悠馬はこの時も体育館の裏でステージの段取りを確認していた。未来のステージ以外にも体育館にて行われる発表はたくさんある。その度に照明や音響の変更しなければいけないため、本番こそが一番忙しい時間であった。

 忙しいと言ってもずっとこの場にいるわけではない。ステージは各クラスの担当時間が決まっており、時間外のときはスプフェスの客として楽しむことができる。悠馬と真菜は最初の吹奏楽部の演奏時のステージを担当しており、朝早くから準備を進めていた。

 まもなく吹奏楽部員が続々と舞台裏に姿を現し、悠馬が証明の確認、真菜がステージ案内と仕事を分担する。話には聞いていたが、本番は準備など比にならない忙しさだった。


 やがて吹奏楽部の演奏が終わり、悠馬たちの当日におけるステージ裏での仕事は全て終了となった。次の担当のクラスが舞台袖に入ってきたところで、入れ替わる形で悠馬たちは体育館を後にした。

「あ~、終わった! お疲れ、宮葉君」

「白花もお疲れ。これでしばらくゆっくりできるな」

「最近体育館に行ってばかりだったもんね」

 二人は目を合わせて小さく笑った。それは単に解放されたという気分から来るものだろう。

 体育館の外では屋台が数点立ち並び、多くの来校者や生徒が行き交っている。盛り上がりは誰もが最高潮のようで、笑顔が絶えない空間となっていた。

 悠馬はこれからどうしようかと行動を考えた。治親はこの時間帯に屋台で仕事をしなければならず、合流することはできない。祥也にも他の人と約束があると断られ、ミラアはクラスの女子と校内の展示品を見て回ると言っていた。よく一緒にいるメンバーは全員各々の予定で動いている。かといって悠馬一人で文化祭を回るというのも悲しい。

「あの、宮葉君」

 あれこれ考えていると隣にいる真菜がパンフレットを片手に屋台の方を見ている。

「もしこのあと約束とかなかったら一緒に見て回らない? 他の友達はもうみんなで回っちゃってて……」

 真菜は、ただ友達に合流すればいいだけという状況の中で誘ったのは少し違和感があるかも、と不安に思いながらも、なるべく平然とした態度で言った。内心はドキドキで心臓の鼓動が速くなっていることが手に取るように分かる。

 でもせっかくの文化祭だ。これくらいの勇気は振り絞らなければもったいない気がする。

「ああ、一緒に回ろうか。俺もみんな予定があるからってフラれたし」

 その真菜の一大決心と言っても過言ではない発言を受けた悠馬もかなり動揺していた。ただ、あまりに真菜が何にも動じていない様子だったので、悠馬は心の中で少し涙ぐみながらも期待はしないことにした。

 それでも形としては文化祭デートだ。あまり話せなかった中学時代のことを思うと、かなり進歩したと言って良いだろう。

 悠馬と真菜は並んで屋台の並びに向かった。まだその空間に足を踏み入れはしていないが、熱気がとても伝わってくる。


「あれ? 悠馬君と真菜ちゃんじゃん!」

 今からその屋台のゾーンへ行こうとしたとき、一人の女性に後ろから声がかけられた。そこにはパンフレットを両手で開いて屋台の確認をしていたと思われる苺が立っていた。嬉しそうに悠馬たちの方へ苺は駆け寄って行った。

 しかし、悠馬たちの近くに来るや否や、今の状況を冷静に見つめ直して、苺は頭の中で整理した。ミラアや悠馬の妹たちもおらず、悠馬と真菜の二人で屋台コーナーに行こうとしていた。

「ねえ、もしよかったら一緒に回らない?」

 そこから導かれる答えは、二人は文化祭デートという状況になっているということだった。

 真菜は一瞬、動揺して肩をビクつかせたが、隣の悠馬は「俺はいいけど」と軽く微笑んで返している。……真菜も「もちろん」と笑顔で返すしかなかった。

 すると、苺が真菜の隣に並び、耳元で囁いた。

「抜け駆けしようとしたってそうはいかないからね」

 いよいよ真菜のポーカーフェイスも限界を迎え、思い切り赤面してしまう。苺には真菜がどれだけ緊張しているかはお見通しのようだった。

「じゃあ行こうか!」

 真菜の耳で小声で言ったあと、苺はそのまま悠馬の手を引っ張って屋台コーナーの方へ歩いて行った。苺はまだ呆然としている真菜の方を見て、少し笑って見せた。

「私だって負けないもん……!」

 苺からの宣戦布告とも受け取れるこの現状に、真菜は誰にも聞こえない音量で呟き、悠馬と苺に小走りで追いついた。


 ☆


 それから、真菜と苺の振り回しには容赦がなかった。苺は悠馬の手を引いて勢いよく屋台棟に入りこんだと思うと、すぐ手前にあった綿飴屋で色違いのものを二つ購入し、悠馬と度々交換して食べた。その後、何故か真菜がムキになった様子で、たこ焼きを分け合って食べた。更には苺、真菜、苺、真菜とローテーションするような形で店を回り、悠馬は満腹になってしまい、歩くのすら苦しくなってしまった。

 やりすぎたと汗を掻く二人にお願いして、人気の少ない校舎の出入り口付近にあるベンチで休ませてもらうことにした。ちょうど真菜と苺は各クラス女子によるダンス発表の打ち合わせに行かなければならない時間になり、一時解散という形になった。

「はあ、あれだけ食べるとかなりお腹に来るな……」

 真菜と苺は何かを争うかのように次々と屋台を回っていた。飲食系のものはもちろん、輪投げや射的などレジャー系のものまで様々だった。そのためか、食べ物は多くの量が悠馬に回ってきてしまい、今の状態に至る。

 それでも、盛り上がりはしたので、悠馬も楽しくはあった。

 ベンチの横に設置されている自動販売機でジュースを買い、一口飲む。この猛暑の中での冷えたジュースは格別に美味しかった。

 一息ついて何も考えずにただ空を見ていると、時折砂利と摩擦する足音がじわじわと近づいてくるのが分かった。人気が少ないのと校舎に囲まれている場所という音の響きやすい状況であるため、その音はよく聞こえた。

「こんなところで休憩していたのか」

 ベンチで脱力する悠馬の顔を覗き込むようにして声をかけたのは祥也だった。

「あれ、祥也は他の友達と行動していたんじゃ……?」

「まあ、あれだ。細かいことは気にするな」

 祥也は自動販売機でジュースを買い、悠馬の隣に腰かけた。そして同じようにボーっと空を見上げている。祥也もまた暑さと熱気に少しやられている部分はあるようだ。

「白花たちとのデートは楽しかったか?」

「見てたのかよ……」

 もう疲れがドッと出て勢いよくツッコミをする元気もなかった。じわじわと朝からの体育館運営が体に来ている。

「……この前、悠馬と一緒に帰った後、未来に会ったんだよ」

 空を見上げていた祥也は気づけば視線を下に落とし、独り言のように言った。悠馬は体勢こそ変えなかったが、少し真剣な表情になって祥也の話を聞いた。

「アイドルが俺たちの後をつけてたんだぜ。驚くよな」

 やはり、未来の名前が出ると祥也は普通ではなくなってしまう。先日、一緒に帰った時も、そして今も覇気が感じられない。

「久しぶりに話できた?」

 表面上、悠馬は祥也と未来が小学校時代の同級生というところまでしか知らないことになっている。何かはあるだろうと前々から思っていたが、深くは触れずにいた。

「ああ、なかなか心にズシッと来る会話をしたよ」

 そう言って祥也は手に持っていた缶ジュースを一気に飲み干し、ベンチの肘掛けにコンッと弾むような音を立てて空き缶を置いた。

 しばらくの静寂が二人を包む。悠馬は色々と聞き出したい気持ちを殺して、ただ祥也が口を開くのを待つように沈黙を過ごしていた。繊細なところはいつも口を挟まない祥也には、その対応で返すのが一番だと判断したからだった。


「なあ、悠馬」

 その時間を止めたのは、精一杯振り絞ったようなか細い声で悠馬を呼んだ祥也の声だった。

「ちょっと、俺の話聞いてもらっていい?」

「――しばらく俺を白花のことでからかわないことを条件になら」

 悠馬の軽い冗談に祥也は一瞬だけ面食らったが、今日は祥也の方が動揺する側だという状況に二、三度小刻みに息を漏らして軽く笑い、目の前にある校舎の最上階あたりを目にしながら答えた。

「ああ、それが条件で良い」


 それは、まだ祥也が小学生の時の話だった――。



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