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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
第二章 夏の恋と幼馴染
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Chapter 2-(1) 観察力はプールにて

 京安自然公園。それが悠馬たちの目的地だ。プールが設備されている他に、大きな公園があり、巨大な遊具もボール遊びが出来るような広いスペースも確保されている。ここに関しては無料なので夏休みには多くの子供たちで賑わう。

 その公園の奥にプールがある。これまた大規模なプールで夏は人で溢れかえる。自由に泳げるメインプールから、ウォータースライダーや流れるプール。競泳用プールまでもある。

 悠馬と治親は既に入場し、着替え終わっていた。治親への視線が集中していた気もするが、普通と変わらない海水パンツを穿いている。

「いやぁ、しかしこんな夢のような夏休みを送れるとは思ってもいませんでしたよ」

 空を仰ぎながら感慨深そうに治親は呟いた。それを無視するわけでもないが、適当に相槌を打つ。

 今日は絶好のプール日和。ギラギラと太陽は照り、見事なまでの無風だ。今すぐにでも入りたいがそういうわけにもいかない。

「はっはっは……もはやサウナ状態だがみんなの水着……じゃない。みんなを待つためなら耐えられるぜ」

「とりあえずお前は真っピンクの頭をどうにかしてこい」

 そういう考えに至るのは無理のないことでもあるが、もう少し自重してほしいところもある。少し治親の鼻から赤い液体が見えたのは気のせいだろう。想像だけで赤い液体は冗談だろう。


 そうして話しながら待っていると女性陣が一斉に出てきた。まず悠馬たちの存在を認識したのは結希だった。居場所を皆に伝え、こちらに向かってくる。

「お待たせ~」

 結希と羽花の水着は似たようなものだ。ピンクを基調とした水着で、結希のはシンプルめで胸の真ん中に小さいリボンがついている。羽花のは結希よりは派手で白のドットが全身に入っていた。そして治親が凝視していた。妹相手にやめていただきたい。

「それじゃあ早速羽花と浅いプールに行ってくる!」

「浮輪よろしくね、お兄ちゃん!」

 プールを前にしてテンションの上がっている二人はペチペチと可愛らしい音を立てて走って行った。こういうところを見るとまだ二人とも幼いんだなと少し安心する。

「みんなも遊んできて良いぞ。俺は浮輪膨らませてから羽花たちの方に行くから」

 久しぶりのプール――しかも同級生と一緒というのは初めての体験。悠馬も凄く気分が高揚していた。それはプールが初めてのミラアや、泳ぎ場所と言えば川である苺も同様だろう。最も気持ちがハイなのは治親であるが。

「お言葉に甘えさせて貰おうか。真菜ちゃんちょっと良い?」

「え? うん、良いよ」

 苺と真菜は深い方のメインプールに向かい、楽しそうに話しながら歩いて行った。

 残っているのは悠馬とミラアと治親だ。ミラアは「悠馬が浮輪を膨らませるまで待つ」と言って隣に座り、治親は真菜たちの方に行こうとしたが、プールが赤色で染め上げられる可能性もあるので悠馬が止めた。今は上を向いて寝そべっている。

「ミラア良いのか? 苺ちゃんや白花と一緒に行かなくて」

「構わない」

「何でまたそんなきっぱりと……」

「あの巨乳赤髪娘は何だか怖い」

「苺ちゃんのことか? どこも怖い要素なんてないだろう」

「……そう」

 いつもよく感情が読み取れないミラアだが、今日は一段と目が笑っていない気がする。

「まぁ、そこまで言うなら行けとは言わないけどな。ちょっと待ってろよ」

「うん」

 悠馬は再び浮輪を膨らまし始めた。みんなが来る前からゆっくりと膨らませているのでもうすぐ完成だ。

 それからは特に会話もなく、ミラアは無邪気に遊ぶ子供たちを見つめていた。何を思っているのかは相変わらず分からないけれど、それでもどこか楽しげな感情を見せるミラアとは違った。



 ☆ ☆ ☆



 メインプールは二種類ある。一つは子供用に浅く作られたもの。もう一つが大人や学生用に作られた深いものだ。その深い方のプールに苺と真菜はやってきた。

 さすが夏休みと言わんばかりに既に多くの人がプールに入っている。やはり高校生と浮輪をつけた小学生と親が多く、声は大きく響いていた。

「わぁ……さすがに人多いね」

 覚悟はしていたが想像以上の多さに真菜は少し戸惑った。泳げるスペースもあるのか不安になるほどだ。

「そうだね。空くとは考えづらいしとりあえず入ろうか……と言いたいところだけど!」

 苺は真菜が着ているラッシュガードの袖の部分を持って鋭い眼差しで見つめた。

「これはどういうこと?」

「どういうことと言われましても……?」

「自らチャンスを潰すのは愚かよ?」

 真菜は水着の上からラッシュガードを着ていた。水色で涼しさを感じさせるものだが、苺にとってはそんなことはどうでも良かった。

「悠馬君も今の姿を見てショックを受けているに違いない!」

「何でそこで宮葉君が出てくるの……」

「え? だって好きなんでしょ?」

「ふぇ!?」

 まさかの言葉に真菜はたじろいだ。それを見た苺が面白そうにクスッと笑う。

「だってこの前二人のアルバイトから帰る時、後ろから何度か悠馬君見てたもん」

「そ、それだけで……」

「だから誘ったところもあるんだよ?」

 ――確かに、会ったばかりにしては話が早すぎると思った。別にフレンドリーな子なのだと乗り気ではなかったわけではない。

 真菜自身も今日については相当考え込んだ。水着は昨年からも友達と行っていたので買いはしなかったが、男友達と来るのはさすがに初めてである。水着姿を披露する――それも悠馬の前では想像するだけで恥ずかしくて眠れなかった。結局はラッシュガードをこの日のために購入した。

 俯いて考え込み始めた真菜を見た苺が一息ついて手を引いた。

「ま、今は二人だけだしそのままでいいや。泳ごっか!」

「……うん!」

 ひとまずその悩みは片隅に置いて真菜たちはプールに入った。ひんやりとした感覚が全てを洗い流していく。それでも何か、真菜の中のモヤモヤは晴れなかった。



 ☆ ☆ ☆



 浮輪を膨らませ終わった悠馬は、ミラアと何とか生還した治親を連れて結希と羽花の元へやってきた。既に二人はその辺りを歩き回ったり、水を掛け合ったりして遊んでいる。

「あ、羽花。ミラアさん来たよ」

 悠馬たちの存在に気づいた結希が羽花に指を指して伝える。すると羽花の表情はただでさえ明るいものから更に輝きを増した。

「ミャアちゃん! あれやりたい!」

 羽花が指した方向には歪にうねったウォータースライダーがあった。いくつもの種類があるが、羽花がやりたいのは普通のものだった。

「行ってみたんだけど、羽花には十五歳以上の人の付添が必要だって言われて……。それで待ってたの」

「なるほどな。でもあれ結構速くて怖そうだけど大丈夫か?」

「ミャアちゃんと一緒なら大丈夫!」

 ミラアに引っついたまま離れない羽花。そのままウォータースライダーのスタート地点まで一緒に上り始めた。

「結希は行かなくていいのか?」

「うん。私は下で二人と待つよ」

 言うと、ゴール地点の大プールの方へ歩いて行く。悠馬と治親もそれに続く形で歩いた。

「というか私よりお兄ちゃんの方が、行かなくていいの?」

「今更ウォータースライダーに乗りたいなんて思わねぇよ」

「そうじゃなくて」

 結希は耳を貸すように手招きし、悠馬をしゃがませた。治親に聞こえないように耳を手で覆い、くすぐったいほどの声で話した。

「せっかく真菜さんが来てるんだから私たちといていいの? ってこと」

「……はい?」

 予想外の言葉に悠馬は呆けた声で聞き返した。

「とぼけても無駄だよ~。お兄ちゃんって分かりやすいから。まぁ、周りに鈍感さんや好きな人ホイホイさんが多すぎて気づかれてないけど」

「……いつからこんな小悪魔な奴になったんだ」

「人間って観察すれば分かるもんだよ。特にずっと一緒にいる人はね」

「そういうもんか……」

 今の悠馬の周りはハーレムで一世を風靡した祥也。そして基本的に女子が好きな治親の二人で、好きな人はホイホイ出来る。違いと言えば、祥也は我がものにし、治親は出来ない――というか友達感覚で終わってしまっているところだ。

「ま、そういうことだから思い出くらい作らなきゃ。ヘタレなお兄ちゃんに巡ってきた最高のチャンスだよ!」

「ちょいちょいきついぞ結希」

「治親さんはミラアさんがいたら多分私たちの方に残るだろうしね! ほら!」

「ええ~……」

「おいおい、内緒話はずるいぞ~」

 二人でコソコソと話していると、後ろでずっとその様子を見ていた治親が少々不満気な声音で言った。

 謝ろうとした瞬間、バッと結希が前に出て治親の手を握った。治親は凄く驚いた顔をして、そのまま体は結希が歩く方向へ引っ張られていった。

 結希は笑顔で悠馬にピースサインをして、ウォータースライダーのゴール地点へ行った。

 一人取り残された悠馬は、妹の身勝手さ――でも思いやりにため息をついて、反対方向へと歩いて行った。


 ――チャンスはものにしろってか。

 作りだされた状況に悠馬は生唾を飲み込んで、メインプールの方へ歩いて行った。とりあえず、頑張るために。


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