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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
第二章 夏の恋と幼馴染
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Chapter 1-(3) 橋森山の怪奇現象

「悠馬君で、拓斗君で、結希ちゃんね。私は佐々木苺。よろしく」

 笑顔で、赤髪の少女――苺は西瓜にかぶりつきながら名前の確認と自己紹介をした。清楚な印象が強く、どちらかというと大人しい。そんな彼女も結希と一緒に種マシンガンをやってくれるので優しい人なんだと悠馬は感じた。

「それにしてもよくこんな道を通ろうと思ったね。引き返そうとか思わなかったの?」

「思ったけど……まぁ、お父さんが言うからとりあえず進んでみようと」

「結構純粋なんだね」

 西瓜を食べ終えた苺はスクッと立ち上がり、畳の敷かれた家の中に入る。心地よい音色を奏でる風鈴と風で揺れる簾がより一層、苺と夏をマッチさせた。

「悠馬君たちはどれくらいいるの?」

「八月中はずっといる。お父さんやお母さんは仕事で何度か帰るけど、今年は僕たちはずっとお爺ちゃんの家にいるんだ」

「そうなんだ。それじゃあ、これから私と遊ばない?」

 クルッと振り返った苺は、視線を悠馬たちに向け、両手を大きく広げるジェスチャーをしながら木の方を見た。

「見ての通り、ここって山だらけでしょ? その分、何だか良くない噂が多いの」

「良からぬ噂?」

「まぁ、簡単に言えば怪奇現象みたいな? それを悠馬君たちがいる八月中に解決してみようってこと」

 少し無邪気さも加えて苺は覗き込むように賛同を求めた。

 結希は苺の言うことが分かっていない様子であるが、悠馬と拓斗はその不思議な言葉の魅力に惹かれていた。山の七不思議――。同級生が持っているようなゲームもおもちゃも持っていない宮葉家にとって自然でプレイ出来る《ゲーム感覚》のものはとてつもない誘惑である。

「やってみる? 拓斗」

「やろうぜ!」

 その言葉を聞き、悠馬も苺の方を見て頷く。ますます苺は笑顔になり「じゃあ決まりね!」と元気よく声を出した。

「じゃあ、今日はもうすぐ夕方になるし、明日にしよう。面倒くさいだろうけどもう一回ここに来てね」

「分かった」

「それじゃあまた明日」

「うん。急に来てごめんね」

「いいのいいの!」

 悠馬たちは苺のお父さんにも挨拶をして、元来た林通りを歩いていた。心なしか、往路よりも足が軽かった。



 ☆



 次の日。お爺ちゃんの家とは打って変わって涼しい苺の家に来た。時刻は午前九時で奥側だと少し肌寒い。

 薄めの長袖を着た苺が姿を現し、悠馬たちの前に地図を広げた。大体の橋森の地図となっていて、更に二枚目には橋森山の地図が記されている。

「ここが目的地だよ」

 苺が指差したのは山に入ってすぐのところにある墓地。木で覆われているので昼でも結構暗い。

 そこで起きる現象が夜に幽霊が出るという王道なもの。とある人が墓に忘れ物をして夜中に取りに行った際、背後から白い光を纏った幽霊が現れた。あまりの驚きにその人はひたすら走って帰宅したそうだ。その話が広まって以来、夜に墓地へ行く人はいなくなったそうで、謎のまま施錠されている不思議な現象である。

「え、それじゃあその現象は夜に起きるって言われてるの?」

「うん。そうだよ」

「それじゃあ何でこんな時間に?」

「一度見とくのもいいかなと思って……ね」

 気のせいか、少し苺の表情が曇った。視線は墓地がある方へ向いている。

「それじゃあ、行こうか!」

 と思ったらまた元気な表情に戻り、笑顔で振り返る。苺は一番に家を出て早歩きで山へ向かった。慌てて悠馬たちもそれに続く。風で木は揺れて残酷に音を奏でていた。


 ☆


 太陽は昇ってどんどん暑くなってくる時間帯だが、木が日差しを遮って悠馬たちに清涼感を与えてくれる。

 山に入って十分ほど経ち、墓地に到着した。どの墓も綺麗に手入れされていてピカピカだ。お盆近くというのもあってか、何本か花が飾られているところもある。

「ここの墓地は上手く四角に作られていて、綺麗に収まっているの。懐中電灯があれば危険も少ないと思うわ」

「確かに分かりやすい作りだね」

「でも熊とかが出る可能性もあるんだよね……。鈴とかは私が用意しておくから懐中電灯だけ持ってきて。もしかしたら消さなきゃ見えないなんてあるかもしれないけど……」

 それから苺は夜に向けての話を続けた。親に不審に思われず上手く抜け出す方法や幽霊を見つけた時の捕獲方法と。かなり入念に練りこまれた作戦を伝える。悠馬たちもそれにただ頷く。


「まぁ、私が考えたのはそれくらいで……。悠馬君たちは何かある?」

「僕は特にないけど……」

 拓斗も首を横に振る。結希は状況を理解せずただニコニコ笑っていた。

「それじゃあ、私ちょっとここでやることがあるから先に降りてて」

「用事があるなら付き添うけど?」

「……うん。ありがとう。でも、私一人でやりたいことなの」

「お兄ちゃん降りよう」

 普通じゃない苺の表情を見て拓斗は悠馬に提案した。悠馬も無言で頷き、結希と手を繋いで降りて行った。急に日の光が悠馬たちを刺激する。


 苺は更に奥へ進み、目的地に着いて足を止めた。目の前には一つの墓。『佐々木家之墓』ろ記載された綺麗な墓。

 苺はその前で目を瞑って合掌した。何も考えず、無心で思いを捧げた。

 数秒後にスクッと立ち上がり、苺も橋森山を下っていく。



 ☆



 時刻は午後九時頃。辺りはすっかり暗くなって周りがしっかり把握できないほどだ。悠馬たちは苺の家の玄関まで来ていた。親には苺に伝授してもらった抜けだし方、「精霊が呼んでいる」と言いながら出る方法を採用した。両親も遊びだと勘違いして気に留めていなかった。

「ごめんね。お待たせ」

 苺が玄関に姿を現した。今朝と同じ、動きやすさを重視した服装だ。肩から提げている鞄は膨らんでいて、準備万端であることが窺える。

「それじゃあ行こうか!」

 玄関を出、今日行った道を歩み出す。暗さが増しているだけで不気味さは増大し、恐ろしく感じる。苺も怖いのか、積極的に前にでていた朝とは打って変わって後ろからちょこちょこついて来ている。


 その後も枝を踏んで割る音がしたら驚き、急に喋りかけたら驚き、と余裕のないまま知っている道を上る。今朝は十分くらいで到着したのが一時間くらいに感じた。

 墓地に到着すると、より一層怖さが増した。本当に幽霊が出てきそうである。

 拓斗も若干暗さに怯んでいる。苺はその拓斗にしがみつき、結希はもう寝る時間になったためか、悠馬の足を抱き枕にして立ったまま寝ている。

「ん?」

 結希をおぶってから墓地を見渡すと、一つの墓から光が漏れていた。白っぽい薄い光が。

「何だあれ……」

「まさか幽霊……」

 怪奇現象を解決するから始まったこの冒険は確実に肝試しと化しているが、悠馬はとりあえず近づいてみることにした。重い足を一歩一歩前に出す。

 近づくとそこに人がいることに気づいた。白い着物姿で頭には白い三角の布。完全に幽霊スタイルだった。

 完全にその人は立ち上がり、悠馬たちに気づく。迷いもなく近づいてくる人に恐怖感を抱いて逃げ出したくなるが、足が震えて動けなかった。何かされると思った次の瞬間――。


「あれ? 宮葉君のお子さんたちと苺じゃないか」

 その老人は気さくに話しかけ、悠馬たちの恐怖を一気に取り除いた。悠馬たちは誰か把握出来ず唖然としていたが、苺だけは驚いた表情を浮かべていた。

「お爺ちゃん!?」

「え……」

 幽霊姿の人物は何と苺のお爺ちゃん(生存中)だった。

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