Chapter 4-(8) 無言の想い
「とんだ屁理屈を言うもんだね」
なお引き下がらない悠馬に少しゴレイドも苛ついてきているようだ。
「まあそんなことできるわけがない。君は自力で思い出したかもしれないけど、人の心まで取り戻すなんて……」
「いや、しないとダメだ。お前みたいなやつにミラアを渡せない」
ゴレイドの言葉を遮って悠馬は言い切った。
こいつは知っているのだろうか。
ゴレイドがミラアに呪いをかけたせいで、どれだけ多くの絶望を味わったのか。
その絶望にどれだけ必死に苦しんで、あがいてここまで来たのか。
どれだけの傷をミラアが負ったのか。
傷だらけなのに誰にも当たらないで、自分だけがずっと背負っていたこと。
表情はあまり変わらないけど、嬉しいことがあるとちょっとだけ口角が上がるミラアが思い浮かぶ。
そのミラアの周りの人はみんなミラアが大好きで笑顔になっていること。
「悠馬……」
そんな悠馬の記憶の何かを感じ取ったのか、ミラアがポツリと悠馬の名を呼んだ。
「……あーあ。君はこれまでの中でも一番厄介だな」
そのミラアを見たゴレイドの目が急に陰った。
「言葉もいらないみたいな関係、吐き気がするよ」
その発言から察するに、ミラアにあったゴレイドへの安心感がこの数分で溶けてなくなりかけているということだろう。
悠馬のミラアへの想いが届いた結果だ。
それほどにミラアにとって悠馬は大きい存在で、それは誰にも変えられないということを目の前にしたゴレイドは冷静さを欠いていた。
ゴレイドはミラアから離れてゆっくりと悠馬の方へ歩き始めた。
空気の変わったゴレイドに警戒した悠馬は一歩下がったが、その瞬間にはゴレイドが既に悠馬の背後に回っていた。
あまりの速さに悠馬は驚く間もなく頭を掴まれてしまう。この光景には見覚えがあった。
「まさかここまで僕の魔法に対抗できるなんてね。それだけは褒めてあげる。だけど今度はもっと根強く、君からミラアを消してあげる」
ゴレイドは再び悠馬からミラアの記憶を消し、今度こそミラアを完全に自分のものにしようとしている。
悠馬も必死で抵抗してゴレイドの手から離れようとするが、力強く握られた手は振りほどけなかった。
「悠馬!」
ミラアが駆け寄ってくる。だけど分かる。たぶん間に合わない。
ミラアが来たところでゴレイドは手を離さないし、解く時間もないだろう。
「ここまで来たのに……!」
「今度こそ、さようなら」
抵抗し続ける悠馬を余所にゴレイドは着々と記憶削除を進めていく。
もう終わり。
そう思ったときだった。
悠馬の頭上に大きな影が通り、悠馬たちを目掛けて急降下してきた。
信じられない規模の衝撃が走り、ゴレイドの手は悠馬から離れた。
「な、何だ……!?」
あまりの突然のことに悠馬も驚くしかなかった。
砂煙が収まりかけると、そこには大きな一人の男性の影があった。
それに悠馬は更に驚愕した。
その姿は自分が憎み、そして恐怖したものだったから。間違えるはずがない。
ローデスだった。