Chapter 4-(5) 間違いの先に
ミーナは足元に視線を落として考えた。
ローデスは大好きな姉を捨てたという点で許せない存在だ。今までの大切な思い出も全て捨て去った男。
でも、その奥底にはミラアを人殺しにしたくないというものがあった。
他にやり方はあっただろうが、それを聞くとローデスの全てを否定できない自分がいた。
彼なりにミラアの生きる方法を考えた結果がこれだっだのかもしれない。
ミーナはずっとミラアを被害者だと思ってきた。実際に被害者なのだが、彼女が加害者になる可能性など微塵も考えたことがなかった。
その点は国を率いているローデスだから至った決断なのかもしれない。
もしもミラアに祖母や母と同じようなことが起きたら? その可能性がある以上、ローデスが何としてでも避けようとする理由は分かる。
「……お父様の言いたいことは分かりました。おっしゃる通り、お姉ちゃんが誰かに危害を加えるようなことはあってはいけない。じゃあどうすればよかったかと言われてもすぐに答えは出せません」
ミーナは視線を上げた。
「それでも、あなたは間違えたと思います」
これがミーナの答えだった。
ミラアを人殺しにしないためには人から離す。一つの手だっただろう。
でも、ミラアは家族と一緒にいたかった。いずれ自我がなくなる可能性があったとはいえ、ミラアは生きている人だ。愛している家族が急にいなくなったのは耐えられなかったはずだ。
だからどんな結末が待っていようと一緒にいるべきだった。たとえその先が悲しい運命だとしても、一緒に背負うべきだった。
「……ふん」
ローデスはミーナの答えを聞くと、鼻息で返事をするように小さく声を出し、部屋の出入り口へと向かった。
「ミーナ。俺は数時間後に王を降りる」
かと思うと、急にとんでもないことを口にした。
「い、いきなり何を!?」
「そのあとは、お前が王女となるだろう」
「いや、まあ、後継的にはそうなりますが……」
「そうなったとき、俺を裁け」
そう言ってローデスは部屋を出た。
それを聞いたミーナは全てを察した。償いのつもりだろうか。彼が向かった場所はきっと――。
「……っああ! 疲れた!」
一気に緊張感が抜けたミーナはソファに寝転んだ。今度ばかりは本当にダメかと思ったが、どうやらいい方向に進んだようだ。
「本当、お父さんは視野が狭いというか頑固というか……もうこれはバカだ」
事が終わったらきっちりと時間をかけて反省してもらう。それだけは決めたミーナだった。
「まあ……一つ複雑なのは……」
ミーナは立ち上がってもう一度、家族写真を見る。
「お父さんが間違えなかったら、悠馬さんに出会っていないってことなんだけどね」