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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
最終章 永遠の姫君
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Chapter 3-(5) 鏡花星

 どれくらい宇宙を飛んだのだろうか。悠馬も幼い頃、家族と旅行で飛行機に乗ったことがあるが、比べ物にならないほど長旅だったように感じる。

 ずっと銀河だった景色もついには他の色を帯び始めた。白い雲を突き抜け、深緑の生い茂った草原が近づいてくる。


「あそこがエンスから指定された場所だよね?」

「ああ、完璧だ。予定通り着陸を頼む」

「了解!」


 ミーナはエンスの合図で目の前のコンソールを細かく操作し始めた。

 悠馬は窓からその景色をじっと眺めた。ここがミラアたちが育った鏡花星。何度も耳にした単語だが、実際に来ると感慨深いものがある。

 今回の着陸地点はゴレイドの居場所の情報を元に編み出した上での場所で王都からは離れている。そのためただの草原でしかないから異星に来たという感覚はあまりない。ミラアを救っていつかは王都まで行ってみたいものである。


「一気に下降するので、着席をお願いします!」

 ミーナは変わらずレバーとコンソールを操作しながらアナウンスした。

 いよいよ来るその時に、悠馬は息をしっかり吐いてシートベルトをした。

 エンジンの稼働音が大きくなっていく。それと同時に地上の草木も大きくなっていく。

 そして数分後、宇宙船は鏡花星に着陸した。



 ☆



 宇宙船を降りた先にあったのは数年は使われていないと思われる古びた小屋だった。窓ガラスもガムテープで何とか落ちないように繋いでいるくらいにはボロボロだ。

 ここにかつてエンスが住んでいたということがにわかに信じ難い。エンスといえば王国に入るほどの腕のある研究者だったわけで、とてもそんな人が住んでいたようには見えない。もっと最新鋭の設備とかありそうなものだ。


「ここが鏡花星……」

 そして悠馬は周辺を見渡した。小屋の前には草原が広がっており、奥の方には森が見える。

 鏡花星という惑星を知ってからもう一年以上は経っているが、こうして実際に来てみると感動が込み上げてきた。景色に関しては日本の田舎と何ら変わりはないが、それでもここは異国なのだと感じさせられる。


「では、私は城へ戻りますね」

 全員を船から降ろしたことを確認してミーナが運転席から小さな顔を覗かせた。

「ありがとう、ミーナ」

「いえいえ、これくらいお安い御用です。

  ……絶対にお姉ちゃんを連れて帰ってきてください」

 そう言い残して宇宙船は再び空へと上がり、ミーナは城へと帰っていった。


 悠馬たちは早速エンスの小屋に入り作戦を練ることにした。

 エンスが地図を広げて現在地とミラジャック協会を指でなぞる。事前に聞いていた通り、少し距離は離れているが、車があるならそれほど時間はかからずに着きそうだ。

「これなら普通に車で行けば問題なく行けそう……」

 と悠馬が言いかけたところで隣からズドン! という銃撃音が鳴り響いた。

 何事かと思って音がした方を見ると、アリアの護身用に持っていた銃から煙が上がっていた。撃った方向にあったであろう窓は割れており、その下には血を流すカラスの姿があった。


「何いきなり発砲してるんですか!?」

「……はあ。悠馬君。普通に車で行けるほど楽ではなさそうだよ」

 アリアは小屋から出て撃ち殺したカラスを拾ってきた。胸の辺りを撃ち抜かれていてかなりグロテスクな見た目だ。

「よく気づいてくれたね」

 そのカラスを見てエンスがアリアを褒める。久々の上司からの誉め言葉にアリアもどこかご満悦だ。

「あの〜、何かアリアさんがお手柄っぽいですけど、カラスを駆除することのどこにお手柄要素が?」

「よく見てくれ〜!」

 アリアはグロテスクカラスの目を悠馬にグッと近づけた。いきなりすぎて身を引いた悠馬だったが、よく見るとカラスの目が妙な光り方をしている。元々生物が持っている目の光ではない、少し人工的なもの。

「これもしかして……カメラですか?」

 恐る恐るカラスの目に触れてみると、プラスチックの感触があり、確実に本来のカラスの目ではなかった。


「ご名答。まあこんなことしてくるやつなんて今は一人しかいないでしょ」

「ゴレイド……ですか?」

「だろうね」

「じゃあ、俺たちは見張られているってことですか?」

「そういうことだね。存在がバレちゃってるから、作戦練ったところで感はある」

 更にアリアは小屋の外を指さす。そこを見てみると上空に数多くのカラスが飛び交っていた。あれが全部ゴレイドが送り込んだものとなると、相当周囲に警戒しているようだ。

 そしてその中を普通に車で移動していたら、間違いなくゴレイドは何か対策を打ってくる。

 というよりは、さっきのカラスがいた以上、ほぼ悠馬たちの居場所は割れているものと思われる。


「どうしますかリーダー!」

 ルヴィーネが悠馬の方に手を置いて決断を求める。

「え!? 俺リーダーなの!?」

「いいね。決断を頼むよリーダー!」

「アリアさんまで……」

 悠馬は数秒考える。もう時間はそれほど残されていないことを理解しているつもりだったからだ。

「突撃しましょう。見られているなら隠れていても仕方ないですから」

「スマートではないが嫌いじゃない。アリア!」

「はーい!」

 エンスの合図と共にアリアは小屋から飛び出した。数秒後に大きなエンジン音と地面と擦れる音が聞こえてくる。アリアが荒々しい運転で車を用意してきた。


「悠馬くん、ルヴィーネちゃん、乗って! 猛スピードで突っ切る!」

「はい!」

 悠馬は急いで車に乗り込んだ。その姿を見たであろうカラスたちの視線が刺さるが今はもう気にしている場合ではない。一刻も早くミラジャック協会へと向かうのみだ。


「与える情報は少ないに超したことはないから、カラスは潰しながら行こう。指令も随時こちらから出す。じゃあ頼むよ」

 小屋に残ったエンスの言葉を聞き終わった後、アリアはアクセルを全開に吹かした。



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