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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
最終章 永遠の姫君
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Chapter 3-(4) 奪還作戦

 ミラアとの記憶を取り戻してからあっという間に二日が経過した。この二日間はいつも通り学校に通っているだけで終わったのだが、正直勉強など全く頭に入ってこなかった。

 その学校では真菜以外の人たちにミラアとの記憶が戻ったことを報告した。苺や未来は安心している様子だったが、治親は少し泣きそうになりながら「馬鹿野郎!」と小突いてきた。

 祥也もやれやれといった様子で小さく息を漏らしていた。


 そんな中で唯一、落ち着いて覚悟を決めたような顔をしていたのはルヴィーネだった。

「これで準備は整いましたね」

 その言葉に悠馬は頷いた。

 ルヴィーネは鏡花星の人物ということもあり、今回の鏡花星への遠征に同行することになっている。何が起こるかは分からないため、少しでも色んな事象に対応できる人が欲しかったというのがエンスの言い分だ。ルヴィーネは快く承諾してくれ、既に準備は完了しているという。



 ……というのが、今日の午前中の話。

 夕方になった今、悠馬はエンスの部屋で明日のことについて聞いていた。そこにはルヴィーネも同席している。

「いよいよ明日、ミーナが宇宙船でこちらにやってくる」

 エンスはタブレットを片手にミラアを取り戻すための情報を悠馬たちに再度開示する。

「鏡花星に行くのは私とアリアとルヴィーネと悠馬だ。相手がどんな術を持っているか分からない以上、最少人数で行こうと思っている」

「ミラア様を連れ戻す最大の要因である悠馬くんと司令塔のエンスさん。それを鏡花星人パワーの私とルヴィーネちゃんで護衛って感じですか〜」

「ああ。それにミーナはまた人目を盗んでこちらに来ることになる。となるとローデス様が動いている可能性も高い。……まあそこはミーナに丸投げという形にはなってしまうが」

 ローデスもそう何度もミーナを連れ出すよう動く連中を見過ごしてくれるとは限らない。だからできるだけミーナだけをローデスのところへ戻すという対応を取りたいのだろう。

 つまりは城に戻るまでのどこかでローデスに見つからないよう着陸する必要があるということだ。


「鏡花星についたら私が昔研究に使っていた小さな小屋があるからそこで一度待機しよう。森の中にあるからローデス様もその所在は知らないと思う」

「そんなところあるんですね」

「まあね。本当に前の話だよ。王国で働く前に一人で暮らしていたところだからね」

 そんなところにいたエンスが何で王国で働くまでに至ったかは謎だが、今気にするところはそこではなかった。


「そういえばなんですけど」

「どうしたんだい?」

「ゴレイドが鏡花星内のどこにいるかって分かってるんですか?」

 悠馬が投げかけた疑問。確かにゴレイドは地球上にはおらず、鏡花星にいる可能性が極めて高いことは調べがついているが、その鏡花星のどこにいるかは聞いていなかった。悠馬は鏡花星に行ったことはないとはいえ、生き物が住んでいる星なのだから規模が小さくないことは想像できる。

「もちろん調べはついているよ」

「さすがですね……」

「というか調べもついていないのに悠馬を連れていこうとはならないさ」

 エンスは慣れた手つきでパソコンを操作し、複数のカメラの映像を表示した。


「これ、王国の監視カメラをジャックしたんだけどね、市街地に不審なやつがいたのよ」

「国のカメラをジャックしてるエンスさんも不審ですけどね……」

「ほら、今路地裏に入った男」

 エンスさんに言われなければ気づかなかったが、確かに怪しげな男が路地裏に入って行った。黒いマントをしていて、フードは顔まで被っていてよく見えない。しかし足元に注目すると、チラッと白い布が見え隠れしている。

 これを見て悠馬はハッと思い出した。

「白衣……」

 そう、水族館で会ったゴレイドも白衣を着ていた。


「驚くのはまだ早いぜ悠馬くん! 次の瞬間、自作の自動追跡小型便所蝿カメラにとんでもないものが映っていたんだ!」

「アリアさんの作るものって何で毎回汚い単語入るんですか」

「まあでも本当に虫サイズだから優秀ではあるんだよね」

 機能自体はお墨付きのようだが、名前が全てを台無しにしている。

「そんなことは今はいいんだよ! ほら、この男はこの後、森の中に入っていくんだけど、そこで採取してるもの見てみなさい!」

 アリアに言われて悠馬は画面に近づいた。男は何の変哲もない草を採取していた。ゴレイドだと疑っている人物だからこそ怪しく見えるが、山菜取りですと言われればそれまででしかないようにも見える。


 しかし、一分ほど見続けたところで悠馬もその草の正体に気づいた。

「根が黄色い……」

「そう、キート草だよ」

 キート草とは十二ヶ月の呪いの治療薬の原料になる薬草だ。ミラアも一度服用したことがあり、何よりミーナが採取して日本に来たからよく覚えていた。

「まあそれだけでゴレイドって決めつけるのもあれだけど、関連性のある行動はしているよねって話だ」

「なるほど……」

「それに私がゴレイドの立場だったらキート草は絶対調べるしね。何といっても呪いを唯一物理的になんとかなっちゃってるものなわけだからさ、邪魔じゃん?」

 十二ヶ月の呪いの解消は気持ちの変化とキート草。キート草に関しては症状を抑えるだけでまた発症はするし、副作用もあって完全ではないのだが、この世で唯一呪いの症状を抑える物品なのだ。アリアの言う通り、呪いでミラアを自分のものにしたいゴレイドにしたら邪魔でしかない。

 そう考えると、完全に決められるわけではないけど、この男がゴレイドである可能性も十分あるわけだ。


「で、映像の続きは……」

「あ、この後は通りすがりのババアに蝿叩きで潰された」

「ババア何してんだ!!」

「まあそう怒らなくてもいい。この森の先にあるものなんて一つしかない」

「そうなんですか?」

「ああ。ミラジャック教会。森の中で眠る古びた教会さ」

「あんな気味悪いところを拠点にするとか、気味悪いあいつにぴったりですね〜」

「私の小屋からは車に乗らないと行けないけど、無理な範囲でもない。調べに行くくらいなら別に問題ないさ」


 悠馬がミラアのことを忘れている間に随分と話は進んでいたわけだ。改めてここ数日の記憶を恨んでしまう。

「とにかくミラジャック教会が一番の目的地になる。鏡花星についたらまず小屋に向かおう」

「分かりました」

「……と、まあ、今話せるのはこれくらいかな」

 エンスはパソコンを閉じてコーヒーを口に含んだ。

「……絶対に、ミラアを連れて帰ろう」

「……はい!」

 悠馬は胸の奥で更なる決意をした。

 絶対にミラアを連れて帰る。あんなやつの好きなようにはさせまいと。



 ☆



 翌日、約束の時間ちょうどに空から大きな船が近づいてきた。強力な風圧にも慣れて驚かなくなっている自分に悠馬は少し笑った。

 運転席からは白く細い手が振られている。ミーナもこのミラアに関する一連の事で運転に慣れたのか、心なしか余裕があるように見える。

「お待たせしました」

 ひょこっと運転席から顔を出したミーナは何か吹っ切れているような表情をしていた。

「毎回すまないね、ミーナ」

「今更ですよ。さあ、早く乗ってください!」

 挨拶もそこそこに、悠馬たちはすぐに宇宙船に乗り込んだ。

 それを確認したと同時にエンジンが動き出してすぐに離陸する。

 本当は見送ってくれる人たちみんなに決意を言うなどして気持ちを入れたいところだがそんな時間はない。


 揺れる宇宙船に足を取られながらも、エンスの案内で艦内の休憩室へ辿り着いて悠馬は椅子に腰かけた。

 外は既に真っ暗で地球からは遠く離れているようだった。本当に余韻も何もない慌ただしい出発である。


 軌道に乗ったのか、宇宙船の揺れは収まって手すりなどに掴まらなくても歩けるようになった。

 安定を確認してからエンスは休憩室にあったプロジェクターにミラジャック教会周辺の地図を表示した。


「分かっているとは思うが、今回はとにかく悠馬を安全にミラジャック教会に送ることが絶対だ」

「悠馬君に何かあったらそこでゲームオーバーですからね〜」

 アリアは休憩室にあった煎餅をつまみながら地図を見ている。

 ……あと何か知らない武器も磨いている。

「とにかく相手は謎が多い。どんな警戒をしてきているかも分からない。二人は気を引き締めて悠馬を護衛してくれ」

「そういえばミラジャック教会には車がないと行けないってことでしたけど手配しているんですか?」

 と、プチシュークリームを食べながらルヴィーネが問う。食べるお菓子で可愛さに差が出ているのは気のせいだ。

「ああ。古いけど小屋にはジープがあるよ」

「何でそんなものあるんですか……」

「研究で色んなところに行くしってことでお金貯めて昔に買ったんだ。買っておいて正解だったね。まあアリアが運転することになるだろうから、今日で廃車かもしれないけど」

「確かにアリアさんは運転荒らそう……」

「失敬な。超安全運転で行きますよ〜」

 もうどう考えてもアリアはドリフトとかしそうなので誰もその言葉を信用していなかった。

 しかし相手がどう出てくるか分からない以上、荒いくらいが丁度よいのかもしれない。


「鏡花星まではまだ時間がある。今のうちに休んでいてくれ。私はミーナと着陸地について相談してくるよ」

 そう言ってエンスは休憩室を出て運転室の方へと向かった。

 アリアとルヴィーネもそのままお菓子を食べている。


 悠馬は休憩室にあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れて一口飲んだ。

 コーヒーの苦みが口の中を巡っていく。少し緊張していた悠馬にとってそれは程よい落ち着きを与えてくれた。

 当然、これから人の記憶を消す力を持つ人物を相手にするのだから緊張もするし恐怖も込み上げてくる。

 でもそれとはまた少し違う緊張感がある。それが鏡花星に初めて行くという事実だった。

 これまでずっと話を聞いてきたから身近な存在になっていたが、よくよく考えると地球を飛び出して知らない星に行くなど非現実的すぎることだ。


 今日初めて、ミラアが産まれた星へ行く。


 胸が高鳴っているのか、現実感のないことに驚いているのかよく分からないが、とりあえずは早く鏡花星に降り立ってみたい。

 そのまま悠馬はボーっと真っ暗な宇宙を窓から見ていた。

 コーヒーのせいなのか、どうせ眠れやしないだろうから。


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