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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
最終章 永遠の姫君
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Chapter 3-(2) 決意の星へ

 悠馬は暗い住宅街を必死に走った。いつもの通学路。ミラアといつも一緒に帰った道を全速力で駆け抜ける。その間にも悠馬の頭にはミラアと過ごした日々が流れ込んできた。空の水槽に水を入れるかのように、全てが注入されていく。


 マンションの階段を段飛ばしで駆け上がり、悠馬はすぐにエンス宅のインターホンを押した。時刻はもう午後一〇時。なかなか非常識な時間ではあったが、きっとエンスが怒ることはないだろう。

 エンス宅の玄関が開いた瞬間、悠馬はすぐに思い出したことを伝え――


「どう!? 悠馬くん! この子がミラア様! 見覚えない!?」

 ――る前に、アリアがミラアの写真(ポスターサイズ)を見せてきた。

「ほら〜、可愛いでしょ〜? ちょっと無表情で何考えているか分からないことも多いけど、凄く根が優しい方なんですよ〜。非常にお兄さんにおすすめですよ〜」

「思い出したんで入ったいいですか?」

「な、なにぃ!? 私、凄いお手柄じゃないか!」

「アリアさんの話を聞く前から思い出していました」

「どんな気持ちで聞いていたんだ君は……」

「なら、話は早いじゃないか」

 そんなやり取りをしていると、いつの間にかアリアの後ろにエンスが立っていた。最近はミラアのことで手一杯なのだろう。明らかに疲労が顔から読み取れる。



「待っていたよ、悠馬。中に入ってくれ」

「遅くなってすみません」

 エンスに誘導されて悠馬は中に入った。思えばエンス宅に上がるのも結構久しぶりである。前と変わらず大きなコンピュータがリビングの大半を占めており、生活スペースはごくわずかだ。

 ちなみにアリアは「こうしちゃいられない! 羽花ちゃんたちを呼んでくる!」と言って宮葉家に突撃しに行った。拓斗がいるのでおそらく犯罪など起きず無事に連れてきてくれるだろう。


「それにしてもよく思い出したね」

「はい。……白花が思い出させてくれました」

「……そうかい」

 エンスさんはそれ以上は聞こうとしなかった。何となく雰囲気を察してくれたのだろう。

 それ以降は特に会話もないままアリアたちを待った。そしてそれほど時間も空いていないうちにアリア、拓斗、結希、羽花がエンスの部屋に到着した。


 悠馬を見るなり、開口一番怒ったのは結希だった。

「バカ! 悠馬お兄ちゃんのバカ! なに忘れてんの!」

「悪かったって……」

 結希もこの状況にかなり心配していたようだし、迷惑をかけてしまった。悠馬はそっと結希の頭を撫でた。

「無神経ー!」

「そんな言葉どこで覚えたんだ……」

 羽花にも叱られる高校生。非常に情けない限りである。


 そんな宮葉家でのやり取りがある中、エンスが「ちょっといいかい?」とモニタを表示しながら声をかけた。

「悠馬がミラアを思い出したことを喜びたいところではあるが、あまり時間はない。悠馬、今から状況を伝える」

「よろしくお願いします」

「まず、さっきミーナから連絡があった。ミラアを連れ去った人物……ゴレイドの居場所が徐々に絞られてきている」

「そんなに話進んでいたんですか……」

「まあ、今日連絡があったからタイムリーな話だ。もちろん確定ではないから、信ぴょう性はミーナと一部協力的な鏡花星兵士たちが今後も高めていってくれるだろう」

「ちなみにどこにいる可能性が高いんですか?」

「鏡花星のどこかとしか言えないね。少なくとも日本……というか地球にはいない可能性が高い。ミーナや兵士から届いている情報も全て鏡花星だ」


 エンスがあまり時間がないと言ったことはそういう意味だった。その情報網からミラアを救うためには鏡花星に行く必要がある。

 地球上であれば今すぐにでも飛行機の予約を取って行けばいい話だが、鏡花星となるとそうもいかない。鏡花星に行くには、ミーナに宇宙船で一度こちらに来てもらうくらいしか方法はない。ミーナも今はかなり動きは制限されているため、かなり隙を突いてこちらに来てもらわなければならない。


「だったら鏡花星に行く準備をしなきゃですね!」

 悠馬は拳を握って気合を入れた。

 しかしその姿にエンスは少し難しそうな顔をして目を逸らした。

「可能ならば、悠馬は連れて行きたくはないんだ」

「え?」

「相手は人の記憶を消す術を持っているような人物。他にどんな危険なものを隠し持っているか分からない」

 エンスに言わせれば、記憶を消す魔法なんて上級者――いや、そんな言葉では片付けられないくらいのことをやっているとのこと。そんな人物が相手なのだ。もっと危険な魔法や物を用意している可能性は大いにあるし、悠馬が危険に晒されることは当然考えられる。


「ミラアはローデス様に捨てられてから、たくさんの場面で悠馬に救ってもらっている。だから正直、悠馬に依存しているところはあるんだ。だから悠馬にも来てほしいのは事実。でももう君を危険な目には合わせたくない」

「俺の意思次第ってことですか?」

「まあ、そうはなるが……」

「だったら当然行きますよ!」


 その悠馬の決心に揺らぎはなかった。というかそもそも最初からそのつもりだった。危険なことなんて今更な話だ。

「……本当に、いいんだね?」

「もちろんです。だって俺はミラアのことが――」

 と、口にしかけたところで、慌てて結希とアリアと拓斗が悠馬の口を塞いだ。


「ストップストップ!」

「君は馬鹿なのかい!?」

「悠馬兄ちゃん、今のは俺でも分かる」

「バカー!」

 結希、アリア、拓斗、羽花が順番に貶してくる。悠馬は未だに何をそんなに怒られているのか分からなかった。


「それを一番最初に言うのは私たちにじゃないでしょ?」

 結希に冷めた目で言われてハッとする。もう思い出した勢いで一直線に進んでしまっていた。よく考えたらミラアに自分の気持ちを伝えたことはなかった。

「……その通りです」

「分かったならよろしい」


 そんな光景もありつつ、悠馬は再びミラアに関する様々な情報が映ったモニターに目をやった。話が終わったことを確認したエンスは更に続けた。

「ミーナからの連絡で三日後くらいにはこちらに迎えに来てもらえるとのことだ。ただ依然宇宙船使用の許可は出ていないから無断で来ることになる。そこから勝負は始まっていると思ってくれ」

「分かりました」

「さて、今伝えられることは以上かな。とりあえず今日はゆっくり休んでくれ。作戦はこの三日間で練って追々伝えるよ」

 エンスに言われてドッと疲れが押し寄せてくるのを感じた。よく考えたら今日は一日中未来のライブで歩きっぱなしだったし、真菜への告白やミラアを思い出したこともあり、身体的にも精神的にも疲弊している感じがする。


 悠馬は首肯し、とりあえず今日は休ませてもらうことにした。出発までは三日ある。その間に悠馬にできることと言えば、体力を蓄えておくことくらいしかない。そしてそれが最も重要だった。

 しかしミラアを助けるという意気込みで、目は冴えるばかりだった。



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