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十二ヶ月の姫君様  作者: 桜二冬寿
第八章 初恋の果実と枯葉
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Chapter 1-(3) 呪われた過去

「さて」

 ルヴィーネはパンと手を叩き、悠馬の意識を再び自分に戻した。

「もったいぶっても仕方ないので、早速お話しますね」

「ああ、よろしく頼むよ」


 今でも悠馬はルヴィーネのことを完全に信じ切っているわけではない。確かに鏡花星の事情などは把握しているようだが、呪いの治療法は王国の直属で研究員として働いていたエンスやアリアでも解明できていないものである。それが突然目の前に現れた友人のストーカーが知っているなんて信じろと言われる方が難しい。

 だが、仮に嘘を吐かれてもエンスやアリアに話を伝えて考えてもらうし、条件で生贄になるのは治親である。呪いについて停滞し続けている悠馬たちには悪い話ではなかった。


「では改めて自己紹介をします。私はルヴィーネ・ホワイト。出身は鏡花星のごく一般的な家庭……でした」

 最後の方は少し言葉が詰まっていた。おそらく彼女もまた複雑な事情を抱えているのだろう。

 そうでもなければ鏡花星の人が日本に来る意味はない。ミラアは父親と決別。エンスは研究のための留学をしていたが国家に逆らって鏡花星の出入り禁止になった。アリアはミーナが日本に行くことを助長したために除名された。余程のことがない限りは鏡花星を離れる理由はないのだ。


「それも随分と昔の話です。幼い頃、私は遠いこの地、日本に捨てられて、しばらくは孤児院で生活していました。ですが、その生活も束の間。大きく体調を崩して今度は病院での生活が続きます。それはもう退屈でした。というか、人生が苦痛で仕方なかったです」


 悠馬は少し想像したが、それだけでも苦しくなった。自分がもし子どもの頃に親と離れていたらと思うと考えたくもない。それに、悠馬には弟と妹がいたが、ルヴィーネは正真正銘の独りぼっちだったのだ。きっとその実態は悠馬の想像を超える苦難なものだろう。


「そして入院してから一ヶ月が経過した頃、私は突如担当してくれることになった医師の方から病名を聞かされました。それが――」

 ルヴィーネはごくりと唾を飲み込んで、真っ直ぐに悠馬の目を視線で貫いた。


「――十二ヶ月の呪いです」

「え? ルヴィーネが……?」

「はい。私は十二ヶ月の呪いの元患者なんです」


 悠馬は驚きのあまり口に含んでいたジュースを少し零してしまった。でもそれくらいの衝撃だった。ミラアたちと会ったばかりのころ、エンスから呪いについて話は聞いていたが、これといった治療法や対処法は判明されていなかった。だからこそ、エンスは必死になって呪いについて研究しているわけで。

 そんな謎が多い呪いの患者が……しかも呪いを払拭したという患者が目の前にいる。いよいよルヴィーネの話の信憑性が増してきた。


「聞かされたときは驚きました。一年間の精神的不安定によって命を落とすなんて不思議な病気が存在するなんて思わないじゃないですか。でも親に捨てられ、孤児院でも上手くやれず、一年後には死ぬかもしれないリスクを負っている。私が精神不安定になるには十分でした」

「ということは、その一年の間に呪いを祓ったってこと?」

「祓ったといえば十二ヶ月の呪いの場合は少し語弊があるかもしれませんが、そういうことになります。

 相変わらず人生に絶望していた私は、特にすることがないから院内の庭に出たんです。その時に、治親様と出会いました。治親様のくださった優しさに私の冷え切った心は温かみを取り戻していったのです。今から思えば、些細なことかもしれませんが、それでも当時の私にはこの上ない勇気と希望でした」


 つまり、タイムリミットまでの間にルヴィーネと治親は出会い、ルヴィーネは治療に向けて勇気を持ったということだろう。治親もなかなか大きな仕事をやり遂げている。これほどのことがあって覚えていないのもまた不思議ではあるが。

「ま、そういうわけです」

 そしてルヴィーネはにっこりと微笑み、ジュースをご機嫌に飲み始めるのだった。


「うん。うん。……治療法は!?」

 肝心な部分が話されていないことに悠馬は今日一番の驚きを爆発させる。

「え〜、話したじゃないですか。これ以上のことを女の子に聞くっていうんですか? 男性って治親様以外はやはり野獣なんですね〜」

「これ以上っていうか、それを聞きたいんだけど……」

 考えようによっては呪いを治したのは医師だから分からないのも仕方ないかもしれないが、それでも不完全燃焼である。せっかくミラアを呪いから救う瞬間が来たと思っていたから尚更だった。

 あと治親が野獣ではないということについては、フィルターがかかりすぎている。


「はあ、仕方ないですね。それではそれ以降をお話します」

「おお、決心してくれたか。悪いけど頼むよ」

「あれから治親様のことで頭がいっぱいになった私は――」

「治親の話はもういらないです!」


 そこは治親と深く話してもらうことにした方が良いだろう。完全に記憶がない治親が相手だと大変かもしれないが、ルヴィーネが治親を愛していることには変わりない。今度は純粋に頑張ればいいと思う。

「もう、話せと言ったりいらないと言ったり、気分屋さんですね」

「治親ののろけ話なんて聞きたくないからな」

「まあ、とりあえず治親様と私の愛のメモリーは置いておくとして。私は次期女王候補だったミラア様はもちろん存じています。それに辛い境遇も知っています。だから勝手ではありますが、力になりたかったんです」


 ルヴィーネは少し目を伏せた。そこに治親の話をするような陽気な雰囲気は感じられない。

 腑に落ちない部分はあったものの、前進をしたのは確かだ。何しろ、この世に呪いを治せる医者がいるということが分かったのだ。それだけでも十分収穫のある話だったと悠馬は思った。


「えっと、ルヴィーネって携帯持ってる? 良かったら連絡先を聞きたいんだけど」

「え、ナンパですか? すみませんが私は治親様一筋……」

「呪いについて研究している知り合いがいるから、良ければ来てほしい。そのための連絡先交換。もれなく治親のも付いてくる」

「ぜひ交換しましょう!」


 どうやらルヴィーネは治親という単語を出すと簡単に動いてくれるようだ。つくづく治親と最初に席が近くて良かったと思う。

 ルヴィーネは悠馬と治親の連絡先を受け取ると嬉しそうに携帯電話の画面を見ていた。それもそうだろう。これまでずっと探し求めていた人と形になって繋がっているものなのだから。

 するとトイレの方からげっそりとした治親と苦笑いをしている祥也が帰ってきた。治親は重そうな腰を悠馬の隣にゆっくり下ろす。


「悠馬、ルヴィーネは良い子だぞ」

「俺がトイレに言っている間に何があったんだ悠馬ぁあああああああああああああ!」

「連絡先も教えた」

「このシスコン野郎がぁあああああああ!」


 荒れ狂う治親の携帯電話がピコンと軽快な通知音を鳴らした。そこには「今度、デートに行きましょう!」と映されている。

 もちろん気づいていない治親はまた泣きながらジュースを体に流し込むのだった。



 いつも十二ヶ月の姫君様を読んでいただき、ありがとうございます。


 さて、今回はしばらく投稿の方をお休みすることを報告するために後書きを書きました。

 私事ですが、今年は就職活動をしなければならず、特に4月~6月にかけては予定が埋まると思います。

 小説を書くのは好きなので就活と並行しようと思ったのですが、説明会などがある2月~3月ですら、出かけた日はすぐに布団と結婚する始末でした。

 よって、このままでは定期的な更新ができないだろうと思い、しばらく投稿を休むことにしました。


 再開は就活が終わり次第、やっていきたいと思います。私が優秀でしたら6月には再開しているかもしれませんし、1年くらい現れないかもしれませんし……断言はできないですが、少しでも早く投稿を再開できるように頑張ってきます。


 勝手なことで申し訳ありません。ご了承いただけると幸いです。(2018年3月16日)

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