12月2日
僕は雪が降らない世界と少女に、学校の帰り道で出会った。学校の図書館でいつものように勉強し、帰宅する途中で出会ったのだ。
僕はいつも図書館で勉強する。部活はやっていないから、時間がある。だから家には帰らず、閉館直前まで図書館に籠り、日々勉強に打ち込んでいる。そのせいか、試験やその結果に困る事はなかった。
だからいつも優等生として、授業および授業外にて教師から頼られていた。それと同時に、地味、真面目というレッテルを同級生から貼られていた。
別にイジメとかの陰湿な類いな事をされたことはない。ただ、変わった事もなく、本当に熱中して出来る事もなく、他人と強く関わる事もない。まさに、平凡。
それが僕。
その僕が出会ったものは、僕と相反する性質のものであろう。それは肌で感じた。
そこに確かに存在する、雪が降らない世界。 そしてその世界を見ながら佇んでいる少女。
美しい、と思うのと同時に、なんて恐ろしい光景なんだろうと、思った。心の根源から沸き上がる恐怖を感じた。あり得ない光景、絶対に遭遇しないであろう事象が、僕を恐怖へと陥れた。だが、何故か目を逸らせない。
少女は、一言でいえば、存在が薄かった。黒くて長い髪のは良く手入れされており、すらっとした体がより一層儚さを強調していた。この少女の美しさは、壊れやすいから、美しいと思えるのだろう。
どのくらいの時間がたっただろう。僕は頭に雪が積もるのも、手足が冷たくなっていくのも忘れて、少女とその世界に見惚れていた。
しばらくすると少女は目をそっと瞑った。その仕草すら目の前の少女がすると、歴史ある絵画のような芸術性がある。少女は祈るように、願うように目を瞑った。
すると、街灯に照らされていた、雪が降らない世界に、一つ、二つと雪が降ってきた。
次第に数えきれない程の雪が降り始め、とうとう、雪が降らない世界は終焉をむかえた。コンクリートは白く埋もれ、もうこの街と何も変わらない場所になっていた。変わらないのは街灯に照らされ、相変わらず周囲より明るいことだけだ。
「何、これ?」
僕は胸の中にある全ての想いを、この一言にこめて、呟いた。それも無意識のうちに。魅了されたこと、恐怖を感じたこと、その他言い表せられない全てを吐き出した。
「誰?」
しまった、と思った時には、少女と僕は既に目を合わせていた。少女と僕との距離は10メートルもない。しかし、少女の瞳に僕は距離も関係なく、吸い込まれそうになる。
「ああ、なんだ」
これがファーストコンタクト。もう物語は止まらない。僕の平凡なんてこの程度だった。ここからは、狂った世界とこの少女に振り回される、普通とは裏側の話。
「とーま君じゃない。こんばんは。」