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炎獄の娘(旧版)  作者: 青峰輝楽
第一部・揺籃篇
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1-6・聖炎の神子

 アルマヴィラ領主ルーン公妃カレリンダは、領主夫人である事と合わせてもうひとつ、重要な役割を担っている。

 『聖炎の神子』。

 夫であるアルフォンスが、経済・治安・外交・軍事など諸々の面で都と領地を統べているのに対し、彼女は、このルルア大神殿を中心として建都されたアルマヴィラ都の魔力による守護、という責任を負っている。

 アルマヴィラ都の外壁を、ぐるりと取り巻く黄金の炎……悪しき者以外には全く熱を感じさせない『聖炎』を、魔力に依って維持し、地方を護っているのだ。『聖炎の神子』は太陽神ルルアを主神として信仰するヴェルサリア王国にとって、ルルアの象徴とも言える重要な存在なのである。



 国中で語り継がれるアルマヴィラ伝説。

 伝説の全てが真実か、それともかなりの誇張が含まれているのかは不明だが、少なくとも、現アルマヴィラ領主の一族であるルーン家がアルマの子孫、ルルア大神殿の長や聖炎の神子を継いできたヴィーン家がエルマの子孫である事は、系図がしかと証明している。

 初代のエルマの長男が二代目大神官となって以降、ヴィーン本家の男子が代々ルルア神殿の長となり、生涯独身である。

 聖炎の神子を継ぐ女子は、血を薄める事がないよう近い血筋の家から婿をとって、ヴィーン家から出る事はなかった。

 そんな中で、聖炎の神子であるカレリンダが、領主、当時は領主の嫡男だったアルフォンスの妻となったのは、両家の歴史の中で、未だかつて起こっていない出来事であった。

 無論、両家の年長の者たちは皆反対した。

 しかし、カレリンダを生涯唯一人の相手と確信したアルフォンスは、己の力で彼女を得る事に成功した。

 アルフォンスは、王都に出向き、3年に一度の御前試合で見事に勝ち抜いたのだ。

 国一番の勇者と謳われる、金獅子騎士団の若き長ウルミス・ヴァルディンをも倒した若き貴族に、国王はどんな望みをも叶えようと言い、アルフォンスはカレリンダとの婚姻の許可を願った。

 器の広さを示しながらも、内心ではどれ程の富を願われるかと警戒していた王にとって、これほど易い願いはない。

 かくして、王の許しを得たアルフォンスを止め得る者はなく、聖炎の神子は領主夫人となった。

 但し、ヴィーン家の年寄りたちは、条件をつけた。

 二人の間に生まれる次代聖炎の神子となる女子は、ヴィーン家の男子と縁づけ、ヴィーン家に返す事。

 いかに優れた若者であっても、アルフォンスもカレリンダもまだ十代で、己の恋に心を奪われた男女であった。

 女子も何人か生まれれば、ひとりくらいはヴィーン家の者と相思相愛になる事もあろう、と楽天的に考え、二人はその条件を飲んだ。

 しかし、男女の双子を産んだ後、どうやら妃はこれ以上子供を授かる事の出来ない身体になったらしいと悟った時、夫妻は長女ユーリンダの行く末を思って心を痛めた。

 特に、ユーリンダの、従兄アトラウスに対する想いが真剣なものであると知ってからは尚更であった。

 ところが、あえて不謹慎な言い方をするならば、ユーリンダにとって実に幸いだった事には、彼女の婿候補であったヴィーン家の若者五人は、早逝したり、出奔したり、病で子種を失くしたりし、いずれも、聖炎の神子の夫となり得なくなってしまったのだ。

 聖炎の神子をヴィーン家に返す約定はまた次代に先送りされ、ユーリンダは従兄アトラウスと、晴れて婚約を認められたのであった。


 『光輝く聖炎の神子』と吟遊詩人に詠われるカレリンダの美しさは国中で有名なものであり、その娘のユーリンダも相当な美少女であろう、と様々なところで囁かれていた。若き王太子の妃候補の一人として宮廷では何年も前から噂されていたのだ。政治力を鑑みれば候補の筆頭は、宰相バロック公の嫡男の長女リーリア。だがリーリアの父親は、その父が未だ健在である為公爵位を継ぐ事が出来ずに未だ伯爵の身分である。そう考えれば、他の公爵家の姫君で王太子と年齢が釣り合うのは、ユーリンダの他にはラングレイ家のアンナ、ローズナー家のフィリア、ブルーブラン家のリシアくらいだったろうか。アルフォンス・ルーンは他の公爵たちよりも王太子の信篤く、王太子がアルフォンスに、密かに娘に逢わせて欲しいと言ったという噂まで出た事もあった。だがアルフォンスは他の公爵たちと違い、娘を宮廷に伴う事はしなかった。純真過ぎるユーリンダには、宮廷で脚光を浴びる事も王妃になる事も幸せではない、と父親のアルフォンスは見極めて、己の出世よりも娘の幸福を選んだのだ。

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